それからわたしは相澤先生に抱っこされて、ベッドに丁寧に横たえられた。冷たいシーツがわたしを包み込む。寝室は初めて入ったけど、さすがに家では寝袋じゃなくてベッドで寝るんだな……なんて場違いなことを頭の隅で思ったりもした。
今からするであろうことを想像して、心臓がこれでもかというくらい早く動く。アルコールが入って少しばかり頭の芯がふやけているというのに、それでもどうしても緊張を止めることはできない。相澤先生はわたしの顔の両側に手をついて、馬乗りになっている。感情が伺えない双眸がじっとわたしを見下ろして、薄く唇を開いた。
「……で」
「で?」
「一応聞いておくけど、俺のことなんて呼ぶんだ」
まさかこのタイミングでそれを聞かれるとは思わなかったが、わたしは用意していた答えを告げた。
「消太さん、ですかね」
「ふうん」
ニヤリと相澤先生は口角を上げて、
「ちゃんと言えるか確認しないといけないな」
そう言うと、相澤先生の進軍が開始された。
唇が重ねられたと思ったら、間髪入れずに舌がねじ込まれた。性急なキスに、わたしも夢中でその舌を迎え入れて、水温を立てて絡み合う。吸い上げて、歯列をなぞって、存在を確かめ合うようにする絡み合う。わたしの頭は怖いくらい相澤先生のことしか考えられなかった。
そして手がわたしの頬に添えられて、それはゆっくりと下へ下へと降りていく。首筋をなぞり、鎖骨を通り抜け、肩に触れ、そして胸を触る。
「っ! ……んぅ」
唇の隙間から出た声は意志を持って発したわけではなく、思わず漏れ出てしまったものだ。まるでスイッチがあるみたいで、それは相澤先生に触れられるとどんどんと熱を帯びて、それに比例するように敏感になっていく。
胸に添えられた手はそのまま滑り、そして腰へと添えられた。ぴくりと電流が奔ったように身体が跳ねる。そのままその手は服の中に侵入し、相澤先生の手がわたしの素肌に触れた。くすぐったいと気持ちいいは表裏一体な気がする。どちらともつかないムズムズとした感覚に、やっぱりわたしの口からは普段でないような、はしたない声が漏れ出てしまうが、すべて相澤先生のキスに吸い込まれていく。
そして手はゆっくりと滑っていき、胸の膨らみへと到達した。相澤先生の大きな手が下着越しにわたしの胸を包んで、そして形を刻むこむように揉んでいく。相澤先生に触られるとなんでこんなに気持ちいいんだろう。
下着を上にずらされれば、今度は主張を強くした突起をこねくり回す。
「あっ! ふぅっ……せんせぇ……っあ!」
顔が離されて、相澤先生と目が合う。いつもよりも熱を帯びた目がわたしを捉えて、唇の端を吊り上げる。
「先生じゃなくってなんていうんだっけ」
「ぁ……消太さん」
「よくできました」
その言い方はさながら先生のそれだったが、ちゅっとリップ音を鳴らしてキスが落とされると、相澤先生は上体を起こして上に着たスウェットを脱いだ。露わになった上半身は、無駄な肉一つない引き締まった身体。惜しげもなく晒されたその肉体美を食い入るように見つめた。
「はい、名前も脱ぐよ」
「は……はい、恥ずかしい……」
わたしは上体を起こせば、相澤先生が服の裾を掴んで、「はい、ばんざーい」と極めてフラットな声で言う。わたしは子どもか、なんて内心でツッコミつつ、両手を上げてバンザイした。すると相澤先生が脱がしてくれて、次に流れるような動きで背中のブラホックを外されて取り払われる。胸が一気に開放感に包まれて、恥ずかしくて慌てて両手で隠すが、相澤先生に肩を押されて再びわたしはベッドに沈み込む。
相澤先生は首元に顔を埋めると、今度は首筋にキスを落とす。
「あっ、まっ……やぁ」
手の甲を口元に持っていき、声を止めようとするが、その手は相澤先生の左手に取られて、シーツの上に張り付けられた。
「声出していいよ」
「や……恥ずかし……」
羞恥でいっぱいのわたしに追い打ちをかけるように、相澤先生の唇はどんどんと下へと行き、そして胸の突起までやってきて、それを口に含んだ。
「ひゃっ! んぅ……っ! やめ……っ!」
舌先でつついたり、輪郭を舐め上げたり、吸い上げたり。火花が弾けるような、段違いな強い刺激が与えられて思わず小さな悲鳴とともに身体が弓なりに反る。
胸を舌先でいじくりながら、右手はボディラインをなぞり、そして下着までやってきて割れ目に沿って指を這わせる。下着の上からでも分かるくらいじんわりと濡れたそこは、相澤先生に触って欲しくてぬるぬるの液体を分泌し続けている。けれどまさかちょっと触られただけでこんなに濡れているなんて思わなくて、わたしは恥ずかしくていっぱいになる。
「……よかった」
相澤先生が顔を上げて、ぼそりと呟いた。その声色が現すのは安堵で、わたしは思わず相澤先生の顔を見れば、視線が絡み合う。すると、先生は伺うように首を傾げた。
「……悪くはない?」
気持ちいい? ではなく、悪くはない? とは、なんとも相澤先生らしい聞き方だ。わたしは口角を上げた。
「はい。気持ちいいです」
そう言えば、相澤先生はどことなく嬉しそうな顔をしていて、わたしは何も考えずに口にしていた。
「なんか嬉しそうです」
「好きな女を気持ちよくできて嬉しくないわけないだろ」
好きな女、と言われてわたしの下腹部がまた切なく疼く。それが見透かされたのか、相澤先生はパンツに手をかけるが、わたしは反射的に待ったをかける。
「ま、待ってください!」
覚悟をしていなかったわけではない。寧ろこうなることを望んでいた。けれどいざ自分の下半身を晒すとなると、やはり恥ずかしくて、つい止めてしまう。
「どうした?」
「ええと……恥ずかしくて」
「却下」
「ひい」
無情にも却下をされてしまって、わたしはあられもない姿となる。文字通り一糸まとわぬ姿になったわたしはせめてもの反抗を試みる。
「相澤先生も脱いでくださいよ」
縋るような声になってしまったがそう言えば、相澤先生はわたしから離れて膝立ちになり、ズボンに手をかける。脱ぐさまをじいっと眺めようと見遣ると、ズボン越しにも分かる膨らみがわたしの視線を縫い付けた。途端高鳴る心臓。相澤先生が欲情してくれている……その事実が、またわたしの身体を熱くした。すると相澤先生の三白眼がじろりと睨む。
「ジロジロ見られると脱ぎづらい」
「だめですか……?」
そう尋ねれば、相澤先生はほんの僅か沈黙して、
「全く」
そう言って、ズボンを脱ぎ捨てた。てっきりパンツごと脱ぐのかと思いきやボクサーパンツは履いたままで、ほんの少し肩透かしを食らう。けれど下着の中にはギチギチに張り詰めたソレが窮屈そうに入り込んでいるのが、パッと見て分かる。
「さて」
相澤先生はニヤッと笑むと、わたしの足を左右に開いた。わたしは反射的に足を閉じようとするが、相澤先生にあっけなく押し戻される。そして露わになった秘部に相澤先生が指を滑らせた。ぐちゅぐちゅの愛液を行き渡らせるように触られると、一番敏感な陰核を優しい力で擦られて、堪らずギュッと目を瞑る。相澤先生とするのは初めてなのに、既に何度も身体を交わしているような錯覚を覚えるほど、相澤先生はわたしの身体のいいところ的確についてくるのだ。
「あぁっ、やぁ、せんせ、んぁ……ッ」
そして指が一本、わたしの膣へと侵入してきた。抜き差しをして状態を確かめると、今度は二本になった。そのとき、相澤先生の細くて節くれた指が思い浮かんだ。手を繋いだり、わたしの頭を撫でたりしてくれるその手が、指が、今わたしの秘部に入り込んで、わたしを貫いている。そう考えると、一種の背徳感がわたしの背筋を駆け抜けていく。きゅう、と下腹部が相澤先生の指を咥えこんだ。
相澤先生は二本の指を出し入れしながら、もう片方の手で陰核を優しく擦ったり、撫でたりする。今までとは比べ物にならないくらいの溶けてしまいそうなほどの熱くて甘い刺激がわたしを襲い、もう羞恥心なんか頭から吹き飛んで、本能のまま声を漏らしていた。
「ひゃっ、や……あっ、は……!」
中に入った指が折り曲げられて、今度は膣壁の上部を擦り付けられる。途端、腰が浮くような鋭い快楽の波がわたしに押し寄せる。
「そこ、なんか、あっ! やっ」
「ここがいいの」
まともな返事ができない代わりに、うわ言のようなはしたない声が上がり続ける。相澤先生は揉むようにそこを刺激し続ける。この寝室にはわたしの声と、わたしの秘部から漏れ出る水の音だけが響き渡っている。腟内と陰核を同時に擦られて、今にも頭の中で花火が上がりそうなほどの刺激がびりびりと身体全体に奔って、上り詰めていくような感覚がやってくる。あ、イキそう―――
「せんせぇ……」
わたしの先生を呼ぶ声に、ぴたりと動きが止まった。と同時に、オーガズムへ向かう波が急速に引いていく。欲しい、もっと欲しい。薄目を開いて相澤先生を見ると、視線が混じり合った。
「なんて呼ぶんだっけ?」
相澤先生は意地悪だ。
「あ……消太、さ、んッッ!!」
「よくできました」
わたしが言い切る前に、相澤先生はふっと優しく笑みを浮かべて、再びわたしの秘部に指を挿れて、今度はもっと激しく擦り上げられる。先程、達しそうになっていたこともあり、急速に上り詰めて行って、そして
「はっ、だっ、や! も、無理、イ、ク……!」
びりびりと雷が落ちたように、背中が弓なりにしなって膣がヒクヒクと痙攣を繰り返した。中に入った相澤先生の指を締め付ける。わたしの頭が真っ白に染まって、何も考えられなくなる。浅い呼吸を繰り返して呼吸を整えていると、相澤先生がモゾモゾと動く気配がする。力なくその様子を見やれば、丁度パンツを脱いだところだった。
そこから固く勃ち上がったソレが現れて、息を呑んだ。今にも欲を吐き出さんと血管を浮かせてそそり勃っている。あんな太いもの、入るのだろうか。けれど今からそれがわたしに埋められるのだと思うと、達したばかりだというのに身体は切なく疼き出す。欲しい、早く欲しい―――
それから相澤先生はベッドサイドのテーブルにある引き出しに手を伸ばして何かを取り出す。それはゴムで、相澤先生は袋から出してそれをくるくると装着していく。装着し終わると、相澤先生はわたしの両足を再び開いた。もうわたしは何の抵抗もしなかった。M字に開脚したわたしの足の間には、相澤先生の引き締まった身体と、ぎちぎちに張り詰めたそれが見える。
「痛かったら言ってくれ」
「はい」
先端がわたしの膣口に当てられて、ゆっくりとわたしのナカへと侵入していく。それは指とは比べ物にならないくらいの質量で、圧迫感を感じつつも、相澤先生と一つになっていくことに深い歓びを感じる。
咥えこんだ膣は相澤先生の性器が最奥まで向かう度に、その形に拡がっていく。
そしてついにすべてが収まった。ふう、と相澤先生が長く息をつく。ああ、わたしたちは一つになった。その事実に、息が止まるほどの快楽と、幸福感がわたしを満たしていく。好きな人と繋がるって、こんなに満たされるんだ、って改めて感じた。
相澤先生は痛かったら言ってくれって気遣ってくれた。痛いどころか、寧ろ―――
「きもち……い……」
うわ言のようにわたしが零せば、わたしの中の相澤先生がピクリと反応するのを感じた。
「……動くぞ」
そう言ってゆっくりと律動を始めた。奥まで突かれて、ゆっくりと戻って、またわたしの中に埋めていく。ゆっくりとしたその律動が、焦れったくて、もどかしくて、震えるような気持ちよさだった。
そして腰を打ち付けるスピードは段々と早くなっていき、肌と肌がぶつかり合う乾いた音と、イヤラシイ水温と、わたしの喘ぎ声が響き渡る。シーツをぎゅっと握りしめて快感をいなそうとするが、そんな甲斐もなく頭がおかしくなりそうなほどの刺激に溺れてしまいそうだった。
「……っはぁ」
小さく吐息する相澤先生がとても妖艶で、それすらもわたしは気持ちいいと感じてしまうのだ。それから相澤先生は両膝においていた手をわたしの乳房へと伸ばして、揉んだり、ピンと張り詰めた乳首をこねたりして刺激を与える。
先程達したばかりだというのに、今、大好きで仕方ない相澤先生とセックスしているという事実と、与えられる的確な刺激がわたしをいとも容易く高ぶらせて、そして
「あっ、い……く……!」
あっけなく二度目のオーガズムを迎えて、わたしの膣は相澤先生の熱くて太い性器を何度も何度も締め付けた。
「くっ……」
相澤先生も苦しそうに声を漏らして、律動が収まった。相澤先生は肘をついて身体を屈めると、わたしに貪るようなキスをした。呼吸するのも忘れて夢中で相澤先生の舌と絡み合う。それと同時に再び相澤先生は律動を再開する。わたしはおかしくなりそうな頭で、必死に相澤先生の背中に腕を伸ばして縋り付くように抱きついた。ぴたりと隙間なくくっついたわたし達は、もっともっと深い快楽の海へと沈んでいくようだった。
顔が離れると、相澤先生の腰を打ち付けるスピードがスパートをかけるようにどんどんと早くなっていく。
「……出る、ぞ……!」
「きて、くださいッ、しょうた、さ……あっ、は、あぁ……ッ! いっ……く!」
激しく子宮口を打ちつけられて、わたしは身体中が熱くて甘い快感で満たされていく。それは身体がばらばらになってしまいそうな程の怖いくらいの快楽で、わたしは懸命に相澤先生に縋りついた。そして、頭の中で閃光が爆ぜたのち、わたしは呆気なく達して収縮を繰り返す。その収縮を契機に、わたしに挿し込まれた肉欲はより一層硬くなり、苦しそうに呻くような声が聞こえてきて、やがて相澤先生はわたしの中に精を吐き出した。
相澤先生は長く息をつくと、わたしの前髪をかきあげて、汗ばんだおでこにキスを落とした。
