「こ、これは一体!」
声が聞こえてきて、意識が段々と戻ってきた。先程の声はパパスだろうか、ナマエは目を開けて顔を動かそうとするも、思うように身体が動かない。
「ほっほっほ、あなたですね。私の可愛い部下たちをやっつけてくれたのは。いでよ、ジャミ! ゴンズ!」
ゲマの声とともに現れた魔物は、馬と豚を凶悪にさせたような魔物たちだった。パパスは無駄な動きを一つせず、華麗にジャミとゴンズを追い詰めていく。ゲマはその戦いを眺めていたが、不意に両手を掲げた。
「ほっほっほっほ。見事な戦いぶりですね。でも、こうするとどうでしょう?」
ふわり、意識を失った5主の身体が地面から持ち上がり、宙に浮いた。ゲマは意地の悪い笑みを浮かべて言葉を続ける。
「この子どもの命が惜しくなければ存分に戦いなさい。でも、この子どもの魂は永遠に地獄をさまようことになるでしょう。ほっほっほっほ」
「くっ……!」
その途端、攻め一辺倒だったパパスの動きが、守りに変わる。ゲマがひどく楽しそうに笑い声を上げる。今すぐにでも倒したいが、倒すことは即ち息子の死を意味する。それはパパスにとって、一番選びたくない選択肢だ。パパスは攻撃を受けながらも、他に血路がないか懸命に探す。しかし無情にも、自身が倒れる以外の選択肢が見当たらなかった。
だんだんとパパスが傷ついていく様を、ナマエはぼんやりとする意識の中、しっかりと脳裏に焼き付けていた。 傷つく姿なんて見たくないけれど、今すぐにでも目をそらしたいけれど、見なくてはいけないんだと思った。涙が一筋つうっと伝った。
この姿を恐らく一生忘れてはいけない。
「うっ……」
パパスがとうとう自身を支えきれずに、膝をついて倒れ込んだ。ゲマが近寄り生死を確認する。
「おや、まだ息があるみたいですね」
「5主! 気づいているか?! 実は、お前の母さんは、まだ、生きている、はず……。わしに、かわってっ、母さんをっ!?!?」
言葉を言い切る前に、パパスの身体が炎に包まれた。
「ぬわあああああああああ!!!!!」
断末魔の叫び声とは、まさにこれのことだろう。
「ほっほっほ。子を想う気持ちは、いつみてもいいものですねぇ。しかし、心配はいりません。おまえの息子は我が教祖様の奴隷として一生幸せに暮らすことでしょう。ほっほっほっほ。ジャミ、ゴンズ、この子どもたちを運びなさい」
ゲマが話し終える頃には、パパスの存在は跡かたもなくなっていた。遺った焦げ跡が確かにそこにいたことを伝えている。とても衝撃的でショックなこの光景を最後に、ナマエの意識は途切れた。
「ゲマ様、このキラーパンサーの子は?」
「捨てておきなさい。野にかえればやがてその魔性を取り戻すはず。……ん、待ちなさい」
5主を運び出そうとしたジャミを呼びとめる。
「この子どもは不思議な宝石を持っていますね」
5主の懐から出てきた、金色の宝石―――ゴールドオーブ―――を、ゲマがしげしげと見つめる。
「もしやこの宝石は……。まあ、どちにしろこうしておくとしましょう。」
ゴールドオーブはゲマの手中で砕け散った。
これから始まる過酷な奴隷生活は、今までの暮らしとは180度違うものだった。
