興奮は、伝播する。消太さんから発せられる発情は、わたしの耳から、唇から、皮膚から伝わってきて、わたしの内側をどんどんと熱くしていく。同じようにわたしの発情は消太さんへと伝わり、互いに興奮にあてられながら果てのないどこかへと上り詰めていく。
下着まで脱ぎ去った消太さんは、「直でソファに座るの変な感じだな……」と顔を顰めつつも、ソファに座り込んでいる。
男らしいしなやかで筋肉質な白い脚の間にわたしは座って、目の前の男根を見つめる。
重力に逆らい上向いたそれは、柔らかさを残しつつも確実に固くなっているのがわかる。
「……あんまりジロジロみるな」
頭上からクレームが入り、わたしは小刻みに頷いた。
「失礼します」
一礼すれば、今度は笑い声が聞こえてくる。それは、笑うつもりはなかったがつい漏れ出てしまったみたいなニュアンスのものだった。顔を上げたのとほぼ同時に消太さんはわたしの頭に手を乗せて、優しく撫で付ける。消太さんの手には不思議な力があるみたいで、甘い痺れが頭から全身に伝わっていく。うっとりと目を閉じかけて、はっと我に返る。違う違う、わたしが癒されてどうする。
気を取り直してわたしは目の前のそれを見据え、恐る恐る手で握ってみる。思った通りまだ柔さを残しつつも、芯はしっかりと固くて、熱い。
「……すごい」
「何が」
堪らず呟けば、消太さんは面白そうに問う。
「なんか……骨がないとは思えないくらい固いです」
僅かに力を込めて握れば、弾力のあるそれが縮みこむものかと言わんばかり反発してくる。
浮き出た血管も、屹立したそれも一見獰猛そのものなのに、それが消太さんのものだと愛おしく感じる。
「不思議だなあ」
わたしは独り言を呟きながら、もう片方の手で亀頭をツンツンとつつく。そうしながら頭の中で、これからどうするべきかを考える。上下に摩擦するのには多分、ヌルヌルさせたほうがいいんだよね。唾液を潤滑油にするため、わたしは消太さんに許可をもらう。
「舐めていいですか?」
「……本当にいいのか」
「勿論です。では……いきます」
棒アイスを食べるようにわたしは消太さんのそれを口に含む。瞬間、消太さんがかすかに身じろいぎ、性器がぴくりとしなった。棒アイスとは正反対の、熱くて、舐めても舐めても一向になくならないそれを歯が当たらないようにしながら熱心にくわえる。亀頭からくびれ、そのまま進んでいけば性器の根元を握ったわたしの手に唇が辿り着く。来た道を戻り、また根元までというピストンを繰り返しながら、全体的に唾液で湿らせていく。
それにしても不思議なことに、消太さんの性器を舐めているとわたしまで体の中心が熱くなる。わたしの性器もジンジンと発情し、濡れそぼっていくのだ。
口を窄めてピストンをしながら、舌を性器の裏の継ぎ目に這わせてみると、消太さんの息遣いが一層熱を帯びるのがわかった。わたしの肩に置いた消太さんの手は熱くて、その熱を感じると同時に肩を押されてわたしは舐めるのをやめた。
「すみません、痛かったですか」
「いや、むしろその逆。すごい気持ちいいよ、でもやっぱり申し訳ないっつうか」
「そうですか」
それなら問題ない。再開しようとしたら、「いや待て待て俺の話聞いてたか」と再び肩を押される。
「聞いてましたよ。申し訳なさなんて感じなくていいんです。わたしがしたくてしてるんだし」
「でも名前も気持ちよくなって欲しい」
自分が一方的にされることに対して据わりが悪いらしい。
「……それなら足が良くなったら、たくさんしてください」
はしたないお願いだということはわかっているけれど、でもこれならきっと消太さんも了承してくれるのではないかと思った。案の定消太さんは、照れくさそうに顔を顰めてわたしを見ている。
「わかった」
沈黙の末、了承した。わたしは喜びが顔いっぱいに広がるのを感じながら、再び口淫に没頭する。すっかり乾いてしまった性器を再び舐めて唾液で湿らせると、手で上下に摩擦し、舌で鈴口をチロチロと舐める。
「……っく」
苦しげな吐息は、それが本当に苦しいわけではないとわかっているけれど少し不安で消太さんの顔を見れば、眉根を寄せた苦悶の表情で手の甲を口に押さえつけ、何かに耐えるように、でも堪えきれないみたいに吐息をこぼしている。大きく上下する胸に、わたしまで呼吸が乱れそうになる。
すごい、わたしの手で、口で消太さんが感じてくれている。それが嬉しくて、わたしは目一杯奉仕に勤しむ。消太さんの片手がわたしの髪に指を通して、優しく梳かしていく。再び裏の継ぎ目を舌でなぞりあげれば、ぴくりと手まで電流が通ったみたいに小さく跳ねた。
じゅぼ、じゅぼ、と卑猥な水の音を立てて口と手で上下の摩擦を続けると、消太さんのそれが一層固くなる。鈴口からは先走りがこぼれて、唾液とは違ったとろりとしたそれがわたしと口の中で混ざり合う。
わたしの髪を梳かす手の動きが止まった。その代わり頭に添えられて、軽く押さえつけられる。おそらく、射精が近いのだろう。わたしは動きを早くすると、性器は一層膨れ上がった。消太さんはかすかに身じろいだと思ったら、口蓋にピュク、ピュク、と、何度か性液を放った。全部出し切れるように吸い上げ、落ち着いた頃合いに口を離して性液を飲み干した。口の中に広がる、独特の苦味のそれは消太さんの味。全部全部、愛おしい。
「え、飲んだのか」
消太さんは目を丸くして、わたしは悪戯がバレたみたいな笑みを浮かべる。消太さんが「汚いだろ、今水持ってくる」なんていって立ち上がろうとするから、わたしはそれを制するように立ち上がって消太さんの肩を押さえると、「やだ」と言う。
「汚くないですし、こうしたかったからいいんです」
だって、他ならぬ消太さんの性液なんだから。汚いわけなんかなくて、寧ろもっと欲しいくらいだ。消太さんは渋い顔で前髪をかき上げる。
「キスしたら俺の性液の匂いがしそうだから口をゆすぐまでキスはできないな」
「む……いいですよ、仕方ない」
「本当にお前ってやつは」
「消太さん、好き」
無性に伝えたくて、わたしはしかめ面する消太さんに気持ちを届ける。唇にキスはできないから、内腿にキスを落とした。
好きな人に好きだと言えること、気持ちを届けられること。今まで幾重もその奇跡に感謝してきたが、改めて何と幸福なことなのだろうと噛み締める。生きて、隣にいてくれるからこうしてわたしの声を届けることができる。
すると射精してくったりとしていた性器はみるみるうちに漲っていく。圧縮されて届いた荷物が空気を得て大きくなっていくみたいに、どんどんと勃ち上がっていった。
「悪い、ゴムをとってきてくれるか」
「……あ、あの」
「上に乗ってくれるって、さっき言ってたよな」
確かに言った。手とか口とか、上に乗ったりとか、と言った。でもやっぱり恥ずかしいと言うか、なんというか。でも消太さんの発情した雄の顔を見ていたら、わたしのお腹がキュンと疼く。欲しい、と率直に思った。
ゴムをとってきて消太さんに渡すと、屹立したそれにくるくると被せていく。その間にわたしは服を脱いで下半身を裸にすると、消太さんの肩に手を置いて、両足を挟むように膝立ちになった。
消太さんの指がわたしの性器に這わされると、今にも重力に従ってこぼれてしまいそうな愛液が纏わりついて、卑猥な水の音がした。消太さんのを舐めながら、わたしは驚くほど発情していた。
「……っあ!」
それを陰核に擦り付けて、ゆっくりと摩擦していく。そのたびビリビリと電流が流れたみたいに身体が快楽に満たされていく。さわさわと刷毛で撫でるみたいに柔らかい触り方がもどかしくて、怖いくらい気持ちよくて、わたしは消太さんの頭をギュッと抱きしめて、なんとか膝立ちを保つ。
「はっ、や………あっ、だめ……」
ゆっくり柔らかい動きが、急速に早くなった。グチュグチュと音を立てながらクリトリスを刺激し、わたしは頭の中が真っ白になるほどの快感に酔いしれる。やがて急速に上り詰める感覚がやってきて、呆気なく達した。その瞬間、頭の中で花火が打ち上がって、腰がガクガクと震えて立っていられなくなる。消太さんが腰に手を添えて支えてくれた。膣はきゅうきゅうと何かを探しているみたいに切なく蠢く。
花火が消えた後に残ったのは、消太さんで満たして欲しいという欲望だった。
「しょ、たさん……挿れていい?」
「うん、いいよ」
耳元で消太さんの低い声が囁いて許可をしてくれた。わたしはヒクつく下の口をゆっくりとおろしていき、ぴたりと消太さんの亀頭に吸い付いた。
「あっ」
今からこれが入るんだ、って考えただけでわたしの体の中心に雷のような衝撃が迸る。
「おいで」
「んっ……!」
わたしは腰を落とすと、ひだが消太さんの性器に纏わりついて受け入れて、わたしのナカに消太さんが入ってくる。貫かれるこの感覚が、火傷するほど熱い性器が、脳が溶けてしまうほど気持ちいい。ずっと待ち望んでいたものがようやく手に入ったみたいに、体中が幸福感で満ちていく。好き、大好き、消太さんが大好き。
あっという間に消太さんの性器はわたしのナカに入り込んで、互いに深く息を吐いた。
「消太さん、すご、く、気持ちい……ごめんね、わたしばっか気持ちよくなっちゃって、っあ、ああっ!!」
消太さんを気持ちよくするためにはじめたのに、今となってはわたしばっかり気持ちよくなっている気がする。すると消太さんは、腰を使って下からぱん、ぱんと乾いた音を立てて突き上げる。その度深いところに入ってきて、わたしは眼裏で星が瞬くのを感じる。この体制、自重で深く入り込むので気持ちよすぎておかしくなりそうだ。
「名前が気持ちいいと俺も気持ちいいよ」
「んっ、ん……あっ、まって、わたし、動く……!」
消太さんは下から突くのをやめてくれた。どれだけ快楽の海に浸かっていようが、今回の趣旨を忘れていないわたし、なかなか偉いと自画自賛しつつ、わたしは自分の力で腰を上げ下げする。
だいぶたどたどしいものの、抜けるか抜けないかくらいまで腰を上げて、自重でストンと落ちる。それを繰り返す。消太さんの性器を咥え込むたびにやけに艶かしい水音が聞こえるものだから、耳を塞ぎたいくらいだけどそれは叶わない。それに消太さんに動いてもらった方が断然気持ちいいのだが、ここは自分で頑張らなければ意味がない。でも拙い動きを繰り返していくうちに、だんだんと気持ちよくなってきた。夢中で抜き差しを繰り返していくと、少しずつ絶頂へ向かって上り詰めていくのがわかる。自分の荒い息遣いと重なって消太さんの熱い息遣いも聞こえてきて、それにまた興奮してしまう。セックスって、当たり前だけど目でも耳でも感じるんだ。体全部で消太さんを感じて、心までも満たされていく。
「イキそうになったら言ってくれ」
消太さんの優しい声が耳朶を撫でる。その声すら、わたしを絶頂へと追いやる。ぐんとメーターが振れた。
「しょうたさん、わた、し、イキそ……あっ!」
「よく言えました。……俺も、そろそろ」
わたしの動きに合わせて消太さんも下から突き上げる。動きが絶妙に合わさって深く深く交わっては、どこか遠くへ意識が飛んでいきそうになる。体と体が合わさり弾けるような音、ぱちゅぱちゅと二つの性器が体液を潤滑油にして摩擦する音、わたしのあられのない喘ぎ声、消太さんの熱を孕んだ吐息。
「あっ、あっ、だめ、イク、イク……ぁ……ッ!!!」
やがて大きな波に飲み込まれて、何もかもが真っ白な世界に押し上げられた。消太さんを吸い上げるように膣が痙攣を繰り返して、やがて深い深い安らぎに包まれる。全身から力が抜けてくたりと消太さんに凭れかかると、消太さんはわたしの両頬を包み込んでキスをした。さっきは性液の匂いがしそうだからキスできないって言ってたのに。
「まだ……ゆすいでないよ」
「どうしても名前とキスしたかったから」
そういってまた消太さんはキスをして、「ありがとう」と囁いた。
+++
汗をかいて、それが引いた後のちょっと冷えた体で、殊更冷たくなっている爪先を布団乾燥機によってほかほかに暖まったベッドに入れた瞬間、あー。とも、はー。ともつかない声が漏れ出た。
消太さんの負傷した足には厳重な注意を払いつつ、並んでベッドに横たわる。隣から消太さんの体温が伝わってきて、息を吸い込めば消太さんの匂いがする。それを感じるたびに、どうしようもないくらいの多幸感に包まれる。
少しずつまどろんでいく意識の中で、わたしは目を瞑りながら独り言のように言う。
「わたしね、消太さんと結婚したいって心の底から思ったの」
わたしはもう半分くらい眠りの世界に浸かっていたし、夜通し働いていた消太さんもおそらくそうだと思う。半分寝言みたいな言葉をわたしは連ねていく。
「なんて、重いですね、ごめんなさい。でも、なんかあった時に真っ先に知らせてもらえる存在になりたいなって、思ったんです。なんかなんて、ないに越したことはないんですけどね……いつか、消太さんと結婚できたらいいな」
何にも阻まれることなく、消太さんのことを教えてもらえる権利が欲しい。おねがい、お星様。一番近くで消太さんを愛させて。
「………いつかでいいのか」
「ん……いつかでいいよ。でも……だから、ずっといっしょにいてね」
喋りながらわたしの意識はふわふわと空へ浮いていくような、それでいてどんどんと水の底へと沈んでいくような、どちらともつかない感覚に包まれていく。
―――あ、寝ちゃいそう。
消太さんにおやすみって言いたいのに、もう喉を震わせられない。手を握りたいのに、指先一つ動かせない。ただ深く深く、呼吸だけ繰り返している。
―――おやすみ、消太さん。
寝て起きたら横に消太さんがいる。それが今から嬉しくて、自然と頬が緩んでいく。
「そんな待たせるつもりはないから安心しろ」
そんな言葉が聞こえたのを最後に、意識がプツンと切れて深い眠りの世界へと落ちていった。
