「カンパ〜〜〜〜イ!!」
というミッドナイトのテンションの高い乾杯の発声で3つのビアグラスが重なり、カチンと音がなる。わたしの前にミッドナイトとマイクが座り、気分的には取り調べを受ける感じだ。ミッドナイトはビールをそのまま飲み切ると、「で」と艶っぽい表情で、切れ長のセクシーな瞳がわたしの顔を覗き込む。
「相澤くんのどこが好きなのよ」
「もう聞いちゃう!? で、どうなのよ名前ちゃん!」
マイクの丸くて大きな瞳にも覗かれて、わたしは言葉に詰まる。二人の目は好奇心でギラギラと輝いて見えた。相澤先生のどこがいいのか、か。ありすぎてどこから説明すればいいのやら。わたしが言いよどんでいるとマイクは「その前にどうやって知り合ったかからだろぉ!? おれがリスナーの恋のあらすじを紹介するぜッ」と言い、わたしと相澤先生がどうやって知り合ったのかを説明してくれた。その間にわたしはおかわりのビールを頼む。ミッドナイトはわたしの話を肴に、まるで水を飲むかのようにどんどんと酒を飲んでいく。間違いない、とんでもない酒豪だ。マイクの脚色もありつつ、あらかた説明すると、ミッドナイトは色っぽい長めの吐息を吐いた。ミッドナイトの所作はいちいち色っぽくて見習う点がありすぎる。
「青臭ッッッ!!! はぁ……大人になっても青臭いことってあるのね……まさかこんな近くにいたなんてね」
あまり自覚はないのだけど、青臭いのだろうか。わたしは首をひねる。
「青臭いでしょうか」
「青クセェのはイレイザーよ! アイツいい年こいて何やってんだって話だぜ」
マイクが言い、ミッドナイトが「そうそうそうそう」と同意し、続ける。
「相澤くんがそんなに意気地なしだと思わなかったわ」
「そ、そういうわけではないと……ただ単にわたしのことはなんとも思っていないと言うか、そういうことだと思うんですよね……」
尻すぼみになりながらもなんとか言うが、自分で言っていて胸が痛い。相澤先生にとって、そういう存在じゃないから、ここから進まないだけなんだ。わたしの居場所は、わたしがなにかアクションを起こさない限りはきっと永遠にココだ。
マイクは「そうはいってもよ」とわたしの目を真っ直ぐ見た。
「いくら優しいやつとは言え、合理主義者のアイツが毎日毎日わざわざ時間を合わせてまで家が反対方向の名前ちゃんを送っていくかって話なんだよ。おれのイメージだと、もうとっくに『そろそろ自転車買え』とか言ってるはず」
「あーわかるわそれ、あたしもそっちだと思う」
ミッドナイトが激しく頷いた。
「しかもよ、今日イレイザーに言われたぜ」
マイクはニンマリと笑みを浮かべて、ミッドナイトとわたしの顔を交互に見た。
「『名字と飲むんだろ? アイツがタクシー乗るのをちゃんと見とけ。一人で歩いて帰ろうとしたらお前がタクシー呼べ。とにかく一人で帰らせるな』って言ってきたんだぜ。なんて言えばいいんかな……あ、そう! 過保護! ただの同僚に対する対応にしてはちょっと過保護だと思うんだよなァ。そこんとこどーよミッドナイトセンセェ」
モノマネを交えながら相澤先生との会話を再現したマイクが手をマイクのようにして(ややこしいな)ミッドナイトの顔の前に持っていく。
「そりゃぁもう……決まってるじゃない!」
マイクの手マイクを、ミッドナイトは持った。
「相澤くんも好きに決まってるわ!」
「だーーーよーーーなァ!!! 」
きゃっきゃとマイクとミッドナイトが盛り上がっている。そんな様を見ながらわたしはお酒を煽る。なんだか楽しそうだなあ、と他人事のように思う。わたしのことで盛り上がってるのだけど、どこか違う世界の話をしているみたいに聞こえた。
もし二人が言うみたいに相澤先生もわたしを……だったら、この世の全てに感謝するくらい嬉しい。いや、嬉しいなんて言う言葉では表せないくらいの感情だ。でもそうじゃなかった時、この世の全てに絶望するくらいの悲しみに陥りそうで、わたしは自分を守るためにも、予防線を張るのだ。だから二人のやりとりを薄いフィルターを通してみている。傷つかないように、絶望しないように。
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最終的にべろんべろんに酔っ払ったミッドナイトにタクシーを手配し、わたしはマイクと同じタクシーで送られることになった。
『イレイザーの大切な名前ちゃんをロンリーにさせるわけにゃいかねぇからな!』
とのこと。もう二人の中ではそういう解釈で確定したらしい。(後半はわたしも聞き流し、ミッドナイトが作る凶悪なお酒から逃れることに注力していた)タクシーで我が家まで到着すると、そのままタクシーはマイクの家まで向かっていった。家に帰り時計を見ようと思い何気なくスマホを見ると、ロック画面に通知があった。
「相澤先生!?」
