すべて伝えた。自分の持てる限りの言葉で自分の中にある気持ちを根こそぎだ。だがそれは押し付けたとも言えたかもしれない。しかし、今となってはそれはどっちでもいいことのように思えた。今は驚き、戸惑っているナマエの口から一言でもいいから言葉がほしかった。裁きを待つような気持ちで彼女の言葉を待つ。
「クリフトとわたしは幼馴染で、それはきっとこれからも変わらないのだと思いました」
ナマエが小さく、ゆっくりと、でもはっきりとした声で喋りだす。
「でも、わたし、気付いちゃったんです。このままではわたしたちは一緒にいられない、と。幼馴染という関係は深いようで本当はとても浅い。それをこの旅で毎日痛感しました。あなたの隣を歩くことが当然だったこれまでとは、もう違うのだって。正直、クリフトが違う女性の隣を歩く様子がとても辛かったんです」
そういって彼女はふわり、笑った。
「そして気付きました。わたしはクリフトが好きです。あなたなしでは生きていけそうにないんです」
心臓が大きく脈づいた。目が自然と見開かれた。ナマエが、私を、好き。
「ずっと一緒にいて、何も変わらない日常にいたから気付きませんでした。でも、旅に出てやっとわかったんです。自然と遠ざかっていくわたしとクリフトの距離が辛くて寂しくて……」
私もそれを感じてましたよ。なんだ、私たち同じことで悩んでたんですね。ミネアさんのいっていたとおりですね。
「でも自分から言うこともできなくて、そしたら4主に告白をされて……。クリフトにこのことを話してもしも祝福されたらそのときは4主と付き合おうかと考えてました。彼はわたしのことをよく理解してくれていますしとてもいい人ですから。辛い片思いを続けていられるほどわたしは気丈ではないし、お互いの今後を考えればこのまま何も言わず、わたしの中だけで終わっていけばいいんだと思っていましたから」
もう、何も言葉にすることができなかった。気がつけばクリフトは彼女を抱きしめた。できるだけ優しく、愛が伝わるように、と。二人は抱きあったってキスをしたって許される仲になった。それは決して幼馴染ではできなかったこと。
クリフトは身体を離して、改めてナマエと向き合う。瞳いっぱいに薄い膜が張っていて、そこには星の瞬きが美しく輝いていた。
「ナマエ、付き合ってくれますか?」
「……はいっ!」
元気のいい返事ののち、ナマエは泣き出してしまった。再び抱きしめれば、ナマエの乱れる呼吸が、身体で伝わってくる。耳元で聞こえるナマエの啜り泣きの声は、今まで生きてきたなかで一番近い距離で伝わってきた。
「泣かないでください。ね?」
ぎこちないながらも背中をさすりながらクリフトは言う。
「は、はいっ、で、でも、嬉しくって……」
次いでぽんぽん、と落ち着かせるように背中を優しくたたく。すると彼女は徐々に落ち着きを取り戻していた。自然と二人は離れた。見つめあうと、ナマエが目を細めて笑った。
「これからは、クリフトの隣を堂々と歩いていいんですね」
「手だって、つなげますよ」
「つっ、つなぐんですか!?」
「い、え、いやっ、そ、その……それはちょっと……」
「恥ずかしいです」
クリフトが“恥ずかしいです。”と言う前にナマエが悪戯っぽく言ってみせた。
「さすがナマエ。……私が何を言うかなんてお見通しですね」
くすくすと笑って「ええ」と言った。
「だって、私はあなたの“恋人”ですから。ね、クリフト?」
「……照れますね」
恋人という甘い響きにクリフトの心臓が破裂しそうになった。
「ナマエ、クリフト」
「!! 4主……」
ウッドデッキに突然の来客。――4主だった。どことなく穏やかではない雰囲気が漂う。言わなくては、とクリフトが意を決して口を開いた瞬間4主が先にしゃべりだす。
「こんなことじゃないかって思ってたんだ。ナマエはクリフトが好きで、クリフトがナマエのことを好きなのは俺も知ってたから」
「!? 知ってたんですか?」
ナマエとクリフトが同時に驚くと、4主は「仲がいいね」と笑って、
「二人を見ていればわかるさ。でもやっぱり俺はナマエが好きだったから、思い切って告白したけど……それが起因して二人がくっつくきっかけになれたなら、俺も満足だよ。ナマエには、幸せになってほしいから」
「4主……」
「クリフト、ナマエのこと幸せにしないと俺が奪っちゃうからね?」
「は、はい! 幸せにします……!」
「よろしい。……じゃあ、あとはお二人で」
4主は爽やかな笑顔を浮かべてテラスから出て行った。彼にはとても悪いことをしたと思ったが、明るく送り出してくれたので胸のつかえが取れたような気がした。――躊躇いの日々に手を振って、私たちはこれからどこへでもいける。
「明日、みんなに報告しましょうか」クリフトが提案する。
「そうですね」ナマエが頷く。
「幸せにします」クリフトがナマエの肩をつかむ。
「はい……」ナマエが目をつぶる。
そして緊張で震える唇を、重ねた。
躊躇いの日々に手を振って
(幸せになりましょう。)
