まただ……と、ハンジは起き抜けにため息をついた。今回で何度目だろうか。数えるのも馬鹿馬鹿しくなるくらいもう何度も起こってる。占いとかを信じるタチではないが、そういうものも一度調べてみようかと検討するくらいには追い込まれていた。
ぼさぼさの頭をかきながら、ナイトテーブルに置いた眼鏡をかけると、視界がはっきりしてくる。こういう時に頭に出てくるのは、リヴァイかエルヴィン。今日の午前中は幹部会議だ。リヴァイに会ったら聞いてみよう、とハンジは考えた。
午前中の幹部会議を終え、まだやることがあるというエルヴィンを置いて食堂へとぞろぞろ向かう。食堂へ着くと、既に多くの兵士が昼食を食べている。皆、昼食を受け取ると思い思いの席に座っていく。ハンジも昼食を受け取り食堂内を見渡すと、先ほどまで一緒にいた小柄で神経質そうな顔の兵士を見つける。ハンジは迷うことなく颯爽と寄っていく。
「やあリヴァイ、ご一緒していいかい?」
「駄目だ」
「聞いてくれよ、最近さぁ―――」
リヴァイの答えを聞かず勝手に目の前に座り話を始めるハンジに対し、リヴァイは片眉を吊り上げ不快感を露わにする。
「てめぇ、耳ついてんのか」
ハンジは目を丸くして、次の瞬間には破顔して笑い声をあげる。
「あっはっは! リヴァイ、耳ならここについてるじゃない。面白いこと言うなぁ」
そういって自分の耳を指さすハンジは至極面白そうで、それがまたリヴァイの神経を逆なでする。そんなリヴァイの心中などには意を介さず、ハンジは「それでね、」と話を続ける。
「最近夢にね、ナマエ・ミョウジが何度も出てくるんだ」
「……誰だソイツ」
被験体の巨人の名前か何かか? と、リヴァイは一瞬のうちに考えを巡らせる。
「知らないの? よく手紙とか配達してくれる子だよ。誰の班だったかな。よくナナバやゲルガーと親しそうにしているのを見るけど」
どうやら巨人ではなく人間らしい。
その情報で、思い浮かぶ女性兵士が一人いた。ここ数年に入った兵士だったか。ハンジが十人並みの兵士の名前を知っていることにリヴァイは驚いた。
「ソイツが夢に出てくるから何だって言うんだ」
「いやだってさ、一回や二回じゃないんだよ。ここ最近、またかってくらい出るんだから! 私は別に占いとかは信じないけど、ここまで出てくると、潜在的に何かがあるのかと思わざるを得ないんだ」
神妙な面持ちで言うハンジに、リヴァイは気づけば舌打ちをしてた。
「オイ、クソメガネ。巨人のこととなればアレコレと色んな考察をするクセして、テメェのこととなるとてんで何にも分かってねぇな」
「どういうこと?」
不思議そうな顔をするハンジ。なぜコイツは俺にこんなことを聞いたのか――と思うも、生憎調査兵は、こういったこととは無縁な独身だらけだ。リヴァイとてそういう話は得意としていない。尤も、ハンジに関しては、この話がどういう話かも見当がついていないようだが。
「知らん、俺に聞くな」
「ええ~! どうしても分からないからリヴァイに聞いたのにさぁ」
ケチ、と唇を尖らせて漸くハンジは昼食に手を付け始めた。リヴァイも同じく昼食に手を付け始める。スープはすっかり冷めきっていて、また舌打ちをしたくなった。
「なんでなんだろうなぁ~。ナマエ・ミョウジ……ナマエ・ミョウジ……」
ぶつぶつと、かの兵士の名前を呼びながらハンジが食べ進めていると、すぐ傍を当のナマエとニファが昼食のトレーを持って通りかかる。ハンジは俯いていたため気付かなかったが、リヴァイは気づいて事の行方を見守る。
一瞬、微かに聞こえてきた自分の名を呼ぶ声にナマエが立ち止まるが、すぐに歩み進める。
「どうしたの?」
「なんでもない。ニファ、午後は立体機動の訓練だっけ?」
「そうだよ。食べ過ぎないようにしないとね」
女子特有のきゃっきゃとしたやりとりは、周りの雰囲気を華やかにさせる。ただでさえ調査兵団は男が多いため、目立つ。ナマエとニファの楽しそうな声が食堂の喧騒に混ざり合う。やがてナナバとゲルガーが声をかけて、二人は近くに座った。
ハンジとナマエ、この二人の道が交わり合うのは、もう少し先の話。
