彩りキス

※イルゼの手帳らへんのやんちゃハンジさん

「飽きた」

 その一言が聞こえた瞬間、ナマエはなんとなく嫌な予感がした。横に並んで立っていたハンジから、気持ち距離を取ろうとしたその時、腰に手が回されてぐいと引き寄せられて二人の距離はなくなり、横にぴたりと密着した。

「ハンジさん、ダメです」

 何かされる前にナマエは窘めるようにいい、距離を取ろうとするものの、ハンジの手は力が籠ったままぴくりともしない。

「だぁーって、こんなのただのパフォーマンスじゃん。付き合わされるこっちの身にもなってほしいよねえ」

 今は三兵団―――憲兵団、駐屯兵団、そして調査兵団―――合同での訓練が行われている最中であった。取り仕切りは憲兵団が行なっており、ほかの二兵団は憲兵団の指示のもと動いていて、対人格闘から対巨人を想定した訓練など、様々な訓練が一日がかりで行われる。
 今は市街地に巨人が侵入する恐れが発生した想定での避難訓練を実施しているところだ。ハンジとナマエはペアになって市街地を外れた森の片隅で待機している。
 二人に割り当てられたのは避難誘導だ。避難誘導は主に駐屯兵団が担当のため、調査兵団は殆ど補助的な役割を担っている。
 二人は割り当てられた担当地区を早々に回り終えたので、時間を持て余しているところだった。
 普段混じり合うことの殆どない三兵団が合同で訓練することでより連携が深まり、また定期的に訓練をすることで有事の際によりスムーズに動くことができる。そんな目的で訓練をしているわけだが、ハンジの言う通り、『皆様のお金は、このように適切に使われております』、という対外的なアピールが真の目的だ。それが透けて見えるからこそ、ハンジに言わせれば、実に無意味な訓練なのである。そんなことに予算を使うのならば、巨人研究に予算を割り当ててくれた方がよっぽど人類のためだ、と。
 ハンジはピタリとくっついたまま、不満を口にする。

「この避難計画も穴だらけだよね。実際に壁が破られたらこんな綺麗にはいかないっていうのは十分過ぎるほど分かっているのにさ」

 まあでも避難は私たちの管轄じゃないしね。と言うと、ハンジは流れるような動作でナマエの頬にキスをして、すぐに姿勢を戻した。
 ナマエは目を白黒させながらもキスをされたという事実を認識して、抗議を申し立てようとするが、それを制するようにハンジが先に口を開いた。

「私たちやることやったし、少しくらいいいじゃない」

 僅かに甘えたような声色を混ぜて言うので、ナマエは言葉に詰まる。ややあって、ナマエは静かに言った。

「……こんなところ、モブリットさんが見たら怒られますよ」
「優秀な部下は違う持ち場だからいないもーん」
「市民がこんな光景を見たら通報されるかもしれませんよ。私たちの税金で食ってる調査兵団が訓練中にも関わらずサボってるって」
「こんな場末に誰も来やしないよ」

 確かに二人の担当区域も今の待機場所も市街地からだいぶ離れた場所にあるため、人が殆どいない。担当区域内には民家が一軒あるだけで、先ほど訪ねた時も畑仕事が忙しいから避難訓練には参加しないと言われた。だから二人で森の中にある待機場所でポツンと待機しているわけだが、とはいえ、サボっていいかと言われればそれは否だ。万が一見つかって通報されれば様々な方面からお叱りを受けることだろう。主に上司のハンジが。
 そんなナマエの心配が透けて見えたのか、ハンジは微笑む。

「ダーイジョウブ、怒られるのは私なんだし」
「全然大丈夫じゃないですよ!」

 ハンジが怒られる方が問題だというものだというのに、肝心のハンジはからりと笑うだけだ。
 ハンジはナマエの肩に手を置くと、身体を屈めて今度は唇にキスをした。まさかこんな短期間に二回もキスをされるとは思わず、堪らず心臓が飛び跳ねる。

「ハンジさん、わたしの話聞いてます……?」
「聞いてるよ。でもさ、キスしたときのナマエの表情がすっげぇいいんだもん。なんか癖になっちゃう」

 全く悪びれる様子がない。

「表情ですか……」
「そう。誰かに見られたらどうしよう、でもその背徳感もまたいい! みたいな」
「そんな表情してませんよ! ……多分」
「ハハッ。鏡があったら見せてあげたいなぁ。可愛い可愛い。だから半分ナマエのせいでもあるんだよ。ナマエが煽るからさぁ」

 とばっちりにも程がある。抗議の意味を込めて睨め上げても、ハンジは笑みを崩さない。ナマエは見せつけるようにため息をつくが、それは気にも留めず、ハンジは「次の訓練はなんだっけなー」なんて鼻歌でも歌い出しそうに言う。

「あとは集合の信号弾が上がったら撤収して、本部に集合したのちに解散だったと思います」

 ナマエは頭の中に詰めてある今日のタイムラインをもとに言って、答え合わせをするように四つ折りにして尻ポケットに忍ばせていた資料を出して確認すれば、やはりそうだった。
 するとハンジは同じように紙を覗き込んで、呆れたように言った。

「改めて見てみても、本当に意味のない一日だったなぁ。これだったら三兵団の総力を上げて巨人捕獲装置を作った方が有意義だよねえ」
「まあ確かに、それは否めませんね」

 技巧科の人手も限られている上に、巨人捕獲装置となると非常に大掛かりなものになる。そのため、発注してすぐには出来上がらない。捕獲装置を作って巨人を捕獲し、巨人の謎を解明して反撃の糸口を見つける方が有意義だというハンジの主張は、部下としては同意だ。

「ねえ、あの大きな木に登ってみて周りがどんな状況なのか見てみない? 信号弾を見逃したくないし」

 ハンジが指さしたのはこの辺りに生えている木の中でも一際太く大きく天に向かって伸びている木だった。確かに、木の上にいた方が信号弾を見つけやすいし、これは調査兵団の職業病みたいなところだが、木の上にいた方がなんだか落ち着きそうだ。
 二人は木の近くまで行き、大人二人が乗っても差し支えないような丈夫な枝を見つけると、アンカーを射出して木に引っ掛けて、ガスを吹かして一気に浮上した。先にハンジが、次にナマエが枝に降り立った。
 太い枝は幅も太さも充分で、足場も安定している。ずっとこの地を見守り続けているのだろう。余程やんちゃしない限りは落ちると言うことはなさそうだ。調査兵団が木から落ちて怪我をしたなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。

「はい、ナマエはこっちね」

 そう言って、より足場が安定した幹の側にナマエを誘導する。ハンジはこういうさりげない気遣いが、意外とできる。嬉しくて心が暖かくなるのを感じる。幹に手を添えつつ、目の前に広がる景色を眺める。手前には木々が生い茂り、その少し先には市街地が広がっている。そしてその奥には世界を仕切る無機質な壁が聳えている。隔てられたその先は、憲兵団の守る貴族の園だ。

「あの市街地では今も駐屯兵団が意味のない訓練をやってるのかと思ったら笑えるね。一体どこへ逃げられるって言うんだろう」

 皮肉を込めてハンジが言う。ウォールマリアの壁が壊れたとき、ウォールローゼへと逃げた訳だが、そのうち生き残れた人間は極僅かだ。弱いものは容赦なく打ち捨てられる。もちろん表立ってではないが、強いものが生き残るように世界はできている。残酷だが、それが摂理だ。それだけこの世界は土地も、食糧も何もかもが不足しているのだ。
 もし、ウォールローゼの壁が壊された時。ウォールシーナは果たして受け入れるのだろうか。いや、あの狭い箱庭のような世界はきっと……

「あーやっぱ馬鹿馬鹿しいし、くっだらねぇ。ナマエと一緒でよかったよ」
「なん―――んっ」

 なんでですか、その疑問は本日三度目のキスでハンジの唇に吸い込まれていく。これが答えだと言わんばかりのキスだった。
 ちゅ、とわざとらしく音を立てて顔を離したハンジは、僅かに口角を上げて、もはや嫌になる程の色気を醸し出している。
 何故この人はこんなにも色気を放つのだろう。しかも本人が意図していないというのが厄介だ。

「だって時間は有限だろ。私はこの訓練を無意味と判断して、ナマエとキスする方が有意義だと判断したんだ」
「不良……」

 ハンジは本当に豪胆で、自由だ。ルールに縛られず、他人からどう思われようが一向に構わない。大切なのは自分の食指が動くか否か。さすが調査兵団きっての変人と言われるだけある。いつか年月が経ったら変わったりするのだろうか。或いは立場が変わり、己の意思よりももっと大きな、例えば組織の利を重んじなければならなくなったら。
 それはそれで寂しいものだ、と思った。いつまでも隣で好奇心が服着て歩いているようなハンジを眺めていたい。

「不良で結構。無駄な避難訓練なんて糞食らえ、だ。で、どう? 一緒に不良にならない?」
「うー……」

 ハンジは狡い。目元を細めて問うているが、はじめからナマエの答えなんてお見通しなのだ。その上で聞いている。木に背を向けてハンジを見上げれば、ハンジは囲うように両手を木についた。
 そしてゆっくりと四度目のキスを落とした。唇が離れるときに下唇を啄んで、今度は唇全体を啄む。そして何度も何度も角度を変えて淫靡な交歓を続ける。
 キスされるたびに頭の芯が溶けていき、輪郭を朧げにしていく。キスの回数なんてとうに分からなくなり、今ではもうハンジのことしか感じられなくなっていた。吹き抜ける涼やかな風も、それによって梢揺れる音も、ナマエの世界からは全てが消えて、今はただハンジとナマエだけが存在している。

「んっ……う」

 キスとキスとの合間に漏れ出る吐息は熱を帯びていて、もう自分の意思で止められるようなものではなくなっていた。
 一度足を取られたら最後、落ちていくのを止められない底なし沼のように、ナマエはゆっくりと落ちていく。思わずハンジの背中に手を回す。もっと隙間なく、もっと裸で愛してほしい。ここが木の上で、今が訓練中なんて、もうどうでもいい。昂る気持ちが抑えられない。
 ハンジの舌が唇の間から入り込んできて、番を求めるように口内を動き、やがて番を探し当てると、まるで求愛するように情熱的に絡みつく。
 舌が絡み合うたびに淫靡な水の音が響いて、鼓膜を通じて身体のすみずみまで熱くなっていく。
 このままでは腰から力が抜けそうだ、と思ったタイミングでキスは終わり、顔が離れた。

「ハンジ、さん……」
「やっべぇ。我慢できなくなる……」

 薄らと瞼を上げれば、思った以上に切羽詰まった様子のハンジと目が合う。ハンジもまた欲情している、そう思えばナマエの身体に灯った種火が勢いよく燃え上がる。
 と、そこに、遠くから身体に響く低い破裂音が聞こえてきた。同時に音のする方―――市街地―――を見やれば、訓練の終了を意味する信号弾が上がっている。まるで、そこの二人、如何わしい行為を今すぐやめなさい、と言われているようだった。
 ハンジは忌々しそうに言う。

「早く終われと思っていたけど、今じゃないっての。空気読めないなぁ」
「……帰りましょうか」
「えー、続きしたい」

 ぎゅっと抱きしめられる。ハンジの香りに包まれて一瞬本能に軍配があがりかけたものの、流石にまずいということで、理性が勝った。

「だーめーです」
「ちぇ」

 最後に顎を掬われると、名残惜しそうにキスを落として、二人は木から降りた。
 一応区域内の民家に避難訓練が終わった旨を告げに伺った。すると、「参加できなくて悪かったね」なんて言って採れたてのトマトを食べさせてもらったので、多少の罪悪感を感じた。サボっててすみませんでした、と心中で土下座する。
 そうして訓練は終わり解散となったものの、片付けを手伝うようにエルヴィンから言われた。

「そんなの駐屯兵団の仕事だろ」

 と不服そうにハンジはエルヴィンに訴えるものの、

「貸しを作るのも必要だ」

 といなされる。建前を取り払ったストレートな物言いに、結局ハンジとナマエはテントの片付け班に合流することになった。申し訳なさそうな駐屯兵団に謝られつつ、避難用の簡易テントの片付けを手伝う。
 テントを仕舞うのは少しコツがいるらしく、駐屯兵団が二人がかりで仕舞ったものをハンジが倉庫まで運び、ナマエが倉庫に格納するという流れになった。
 倉庫は雑然としていて、どこにテントを仕舞えばいいのかも判然としないほどだった。ナマエはハンジからの搬入を待つ間、テントを収納するスペースを開けていくことにした。
 なんとなくだが整理していき、棚に隙間ができたところで「おまたせー」と言う声とともにハンジがやってきた。両脇にテントを抱えていたのでそれを受け取ろうと手を伸ばすが、それを制するように「待って」とハンジが言った。慌てて手を引っ込めてハンジの顔を見やれば、なんの躊躇いもなくハンジがキスをした。

「ちょ、ハンジさん」

 さすがにこんなところでキスはやりすぎだ、と言うささやかな抗議を視線に乗せるが、ハンジは楽しげに微笑む。

「誰も来ないし、へーきへーき。はい、お願いね」

 持っていたテントの片方をナマエに渡し、もう片方は「ここでいい?」と、先ほどスペースを開けた箇所を示して尋ねるので、ナマエは頷いて、ハンジはそこに入れ込んだ。
 わたしがいる意味あんまりないような……なんて思いつつ、颯爽と倉庫を立ち去っていったハンジの後ろ姿を見守り、ナマエも手渡されたテントを格納すると再びテント内の片付けを始めた。
 それからもハンジはテントを持ってくるたびに、それが決まりみたいにキスをしていく。キスをしたあと、名残惜しそうに熱に浮かされた瞳で見つめられるとえも言われぬ感情に覆い尽くされた。
 度重なるキスは悪戯にナマエの身体をどんどんと熱くして、キスをされる度にその熱が蓄積され、身体の中で窮屈そうにする。どうして今日はこんなにキスをするんだろう、と不思議に思って聞こうとするのだが、そうなる前にハンジにキスをされて、聞こうと思っていたことは全て唇に持っていかれてしまうのだ。
 勤務中に、キスなんて。しかも駐屯兵団の人がいるというのにあり得ない。という良識は、どこかへ旅行にでも行ってしまったのだろう。今は寧ろ、心待ちにしている。そしてそれはきっとハンジには透けて見えていて、兵舎に戻って来て早々にハンジの部屋へと連れ込まれた。
 パタン、と扉を閉めたと同時に、肩甲骨は硬い扉にぴたりとくっついて、ぐいと顎を持ち上げられると、何かに急き立てられているような粗くて熱いキスが始まった。

「んっ……ふ」

 漏れ出るのはナマエの余裕のない呼吸だ。薄い扉を隔てたすぐ後ろは兵舎の廊下が伸びていて、通りかかった誰かに声や物音が聞こえてしまうかもしれない。そんなことはわかっているのに、それでも熱い吐息を我慢することができない。それもこれも、少しずつ蓄積して身体の中で持て余していた熱のせいだ。身体も心も呆気なく昂っていく。
 手は顎を起点にして輪郭を撫でて、耳朶に触れ、髪に触れる。ぞくぞくと抜けていくような甘い刺激に、身体中の細胞が歓喜を表しているようだった。だんだんと身体から力が抜けていくのを、ハンジが腰に手を回すことによって支える。
 やがてハンジはキスをやめると、今度はナマエを抱き上げてベッドへ横たえた。視界には、両腕をベッドについてナマエを見下ろすハンジがいる。その瞳の奥、情欲の炎が燃えているのを見つけて、それが伝播したようにますます身体は熱くなる。

「今日いっぱいキスしちゃったね、興奮した?」

 無意識に頷きかけて、ハッと我に返る。首を小刻みに横に振れば、「えー」と不満そうな声をあげる。

「今だってすごくとろんとしてるけどなぁ。興奮してないのかぁ」

 しているに決まっているが、意地だ。そしてそれはハンジもわかっていて、白々しく言うのだ。だから再び否定の言葉を口にする。

「してません」
「でもさ、私とキスした場所がいっぱいになれば、どこ行っても私のこと思い出しちゃうよね」
「それが狙いですか!」
「狙いってほどのことでもないんだけどさ。でも私とのキス思い出して悶々としてたら滾るなって思ったんだよねぇ」
「もう既に、わたし……?!」

 はっと口を噤む。ハンジの瞳が三日月型に湾曲した。それはそれは、愉しそうに。

「もう既に、わたし、何?」

 メガネの奥、まつ毛に縁取られた瞳の瞳孔が開かれていく。

「なんでもないです」
「素直に言わなかったら、あんなところやこんなところでもキスするよ? 団長室でしょー、会議室でしょー、備品倉庫でしょー、夜の食堂でしょー」
「や、やめてください」

 本当にやりかねないのがハンジの怖いところだ。ハンジはナマエの答えを今か今かと待ち侘びている。観念してナマエはぽつりぽつりと紡いだ。

「……もう、既に、わたしは、ハンジさんのこといろんなところで思い出してます、って言おうとしました」
「本当に?! すっげぇ嬉しい!!」

 もはや先ほどまでの艶っぽい雰囲気はどこへやら、虹彩を輝かせてハンジは喜びを顔いっぱいに表している。このギャップに、時に振り回されるものの、ぐっと心が惹かれるのは、仕方ないと思う。残酷なまでの純粋さが眩しくて、ずっと見ていたい。

「そんなにですか?」
「だって好きな子にはずっと私のこと考えて欲しいじゃないか」
「考えてます、よ?」

 ハンジが知ったら引いてしまうんじゃないかと思うくらい、ずっとハンジのことばかり考えているというのに。そのことを知って欲しいような、知って欲しくないような。
 ハンジは「んーん」とかぶりを振る。

「もっともっと、考えて欲しいの。私以外考えられないくらい、頭の中埋め尽くしたいんだから」

 こういうとき、もしかしたらハンジはナマエが思う以上にナマエのことを好きでいてくれるのかもしれないと思う。ハンジの言葉に胸がきゅっと締め付けられる。

「……じゃあ、もう無理ってくらいハンジさんで埋め尽くしてください」

 ちょっと生意気なこと言ってしまっただろうか、と少し心臓がドキドキしたが、ハンジの瞳の奥で再びゆらりと焔が立ち上がるのが見えた。

「これはもう、最ッッ高に滾る夜になりそうだねえ……?! 外でする?!」
「イヤです!!」

 なんでそうなるんですか! というツッコミは声にならなかった。

「いつか人類が壁の外の世界を取り戻したら、壁の外でしてもいいよね? いいでしょ?」
「そのときは……まあ」

 そのいつかは、お伽話のようなものだ。いつ来るともわからないそのいつかを拒絶するのは野暮な気がして頷けば、ハンジは何を想像しているのだろうか、涎が垂れてきそうな恍惚に浸った表情で吐息を漏らした。

「約束ね。今日は私の部屋で我慢しとくよ。もうこれ以上待てないし」

 そういって、明らかな熱を帯びたキスをして、手は服を弄り始める。
 キスをするたび、身体を重ねるたび、そこが絵の具で彩られていくかのように、ハンジの気配が色濃くなっていく。それはハンジも一緒だろうか。一緒だったらとても嬉しい。
 どこにいたって、何をしていたって、その色を見つけてお互いのことを思い出せたなら、それはきっと幸せなことなのだろう。

◆◆◆
リクエストいただいたネタで、いろんなシチュエーションでハンジさんからキスされる話です!!遅くなりました、そして書き終わった今となってはもっとキスさせてぇーー?!?!ってなったのですが、こんなところでひとまず…!
素敵なリクエストいただきまして本当にありがとうございました!!