「くっ……! 出る、よ!」
その宣言ののち、下の口で咥えこんでいたものはより一層固くなって膨張すると、びゅくびゅくと脈打って白濁が放たれて、最奥へと注ぎ込まれていく。ナマエの口の端からはだらしなく涎が垂れていて、快楽に身を震わせた。
向かい合う形で交じり合い、そして果てたハンジは、ナマエの膣内から体液にまみれた性器をにゅるりと抜き取った。それは先ほど、何度目かわからない絶頂を迎えて射精をしたにもかかわらず、いまだ固く張り詰めて、質量をそのままに天に向かってそそり立っている。
「……はぁ、まだ収まらないよ。困ったな」
心底困ったようにハンジは言って額に滲んだ汗を拭うと、ナマエに口付けをしながら熱い性器をナマエの腹部に押し付ける。まだ、もっと、貴方に埋めたい、とでも言うように。
そしてそれを欲しがるように、ナマエの膣がヒクヒクと無意識に蠢く。ナマエももう何度目か分からないほどの絶頂を迎えているのにも関わらず、頭も身体も熱くて固いソレを欲しがっている。
ナマエは注がれた白濁が膣内からドロリと溢れ出るのを感じながらも、甘く痺れた頭でこうなった経緯を思い出していた。
+++
「助けてナマエ!」
悲痛な声と共にドアが叩かれたのは、少し前。明日は調整日というタイミングの夜だった。そろそろ寝ようと燭台の火を消すところだったのだが、手を止めて慌てて声の主を部屋に招き入れる。
扉を開けて現れたのはハンジだ。室内だというのに、自由の翼を背負った深緑の外套を着ている。息遣いが荒く、心なしか瞳が潤んで見えた。あまりに切迫した言葉と様子は、何かあったとしか考えられない。ナマエは心臓が嫌に早くなるのを感じた。
ハンジは扉が開いてすぐにもつれるように部屋に入ったと思いきや、扉を荒々しく閉めて性急な動きでナマエの肩を掴み、噛み付くような口づけをした。何かを発散するような、荒々しくて、獣を思わせる力強いものだった。何か事情が話されるかと思いきやそのようなキスをされたので、ナマエは何がなんだかわからないままだった。
ハンジの唇の端から漏れ出る吐息は、んっ、だの、はぁっ、だのとにかくいつもよりも熱っぽい。本当にどうしてしまったのだろうか。心配になり、結局肩を押して距離を置いて何事かと尋ねれば、ハンジは時間を惜しむように、簡潔に説明をしてくれた。
―――巨人の研究費用に対して足りない分を補うべく、内地の貴族相手に滋養剤という名の媚薬を開発して、裏ルートで売り捌こうとしていた。試薬品が完成したので、薬効を確かめるのに自分に使ったところ、これが効果てきめんだった。ムラムラして、感度が上がり、湧き上がってくる欲情を抑えきれず自分で慰めていたのだが、何回抜いてもどうにも収まらなくて、ナマエのもとへとやって来たのだった。
助けてとハンジは言っていたが、助けるとはつまり、痛いくらい矢印を向けられている性欲を受け止めることを指すのだろう。受け止め切れるのか些か不安になる程、ハンジは興奮している。
と、いうか、色々とツッコミどころがありすぎる。裏ルートで媚薬を売り捌いて研究費用に充てるということも、薬効を確かめるために自分で服薬するというのも、なかなかとち狂っている。正規で販売できない分、開発も秘密裡に行われるため被験者を大っぴらに探せないというのもわかるが、こっそり試されなくて良かったと密かに安堵する。
ハンジは込み上げてくる情欲をいなすように嘆息すると、外套を脱ぎとって、床に乱雑に投げる。外套に隠されて分からなかったが、ズボンの中でぎちぎちに膨れ上がったそれが窮屈そうに収まっているのが目に入った。そこでナマエはそれを隠すために外套を羽織ってきたのだと気付いた。
ハンジは再びナマエの肩を掴んで、じっと瞳を覗き込んだ。
「ね、いいでしょ、いいよね。もう苦しくて、中に挿れたくてたまらないんだよ……!」
ナマエのことをひたすらに求めているハンジを見ていると、その興奮が視線を通じて伝播してくるようだった。ナマエは気がつけば、頷いていた。途端、ハンジの顔は喜び一色に染まって、「じゃあさ!」と言葉を続けた。瞬間、なんとなく嫌な予感がした。要求を飲んだ後のじゃあさ、にはいい思い出がない。そして案の定、この後のハンジの言葉にナマエは素っ頓狂な声を上げることになる。
「ナマエもこの滋養剤使ってみない?」
「はあ!?」
ハンジが尻ポケットから出したのは、白い粉末の入った薄紙だった。
「ほら、シラフで酔っ払いの相手をするのは大変だけど、同じ酔っ払いだったらいいだろう?」
「あー……あ、いや、ちょっと何言ってるかわからないです」
「えー!」
妙に説得力のある言い分に、一瞬納得しかけたものの、納得イコール怪しげな滋養剤を飲むことになる。それは御免被りたい。
だが確かに、果てがわからない性欲に付き合い切れるか不安ではある。ハンジのいう通り、同じような状態の方がお互いいいのかもしれない。それに、被験体は一人でも多い方が薬効の検証にはいいだろう。と考えて、結局いつもハンジを一番に考えている自分に気づく。惚れた弱みという言葉が頭に浮かんで、苦笑いを浮かべた。ナマエは観念して肺の空気を吐き出すと、手を差し出した。
「……もう。被験体、なりますよ」
「ほんとに!? もう、ナマエって最ッ高だよ!! さあ、早速飲んで、滾るセックスを始めようじゃないか!」
こうして、お互いが媚薬……もとい滋養剤を飲んで、ズブズブと底のない沼へと落ちていくような身体の交じり合いが始まった。
媚薬を飲んで薬効が出るまでの間、二人はベッドに横になり、ハンジは己の欲をいなすように、ふうーと熱い呼吸を繰り返していた。本当は今すぐにでも欲を解き放ちたいのだろうが、薬効が出るまでの時間を確認するため、ハンジは我慢しているのだ。時間さえ確認したら、待ち焦がれた甘い時間が始まる。こんなにも欲情しているのにきちんと研究のことは頭に入っているハンジの、根っからの研究者気質には思わず感心してしまう。
媚薬を飲んで三分経過すると、ナマエの身体に変化が起き始めた。体温がわずかに上昇したように熱くなり、特に股のあたりがジンジンと熱く、無意識に擦り合わせてしまう。おそらく薬効が出始めたのだと思った。
「ハンジさん、多分、効いてきました」
「本当? 時間は……三分経過、と。うん、私と同じだ」
ハンジは近くに置いておいた紙に時間を簡単に書き留めると、待っていましたと言わんばかりに服を脱ぎ捨てる。あっという間に一糸纏わぬ姿となり、張り詰めた性器が露わとなる。屹立したそれは、竿には血管が浮き出て、先端からは透明な液体がダラダラと流れ出て濡れている。ナマエはそれをみて、身体が疼くのを感じた。まるで子宮がハンジを欲しがっているようだった。パンパンに張り詰めたそれを咥え込むため、あっという間に割れ目は濡れそぼっていく。
「ね、脱いで」
お願いするようにハンジが低い声で囁いて、その声でまたナマエは身体が熱くなる。ハンジの声が好きだ、その声で紡がれる言葉も、名前も、全てが特別なもののように思える。
「ナマエ」
ほら、こうやって名前を呼んでくれるだけで特別な存在なんだと思わせてくれる。
「はい」
うわ言みたいに返事をして、ナマエは服を脱ぎ去っていく。あっという間に二人はベッドの上で生まれたままの姿になった。ハンジはナマエの両足を開いて、股の割れ目に手を這わせた。ほんのわずか、膨れ上がった突起にハンジの指が近づいただけでナマエの身体にビリビリと強い刺激が迸る。
ハンジは嘆息した。
「前戯いらないくらい濡れてるね」
愛液がまとわりついた手を見て、その粘度を確かめるように指と指を閉じたり離したりしている。それよりなにより、早く繋がりたくて、もどかしくて、ナマエはハンジの手にそっと触れた。
「早く欲しいです、ハンジさん」
「私もナマエが欲しい。ねえ、一緒に気持ちよくなろうね」
ハンジは眼鏡を取って枕の上に置くと、勃起したそれに触れて、膣の入り口に充てがった。熱い先端がこれから膣に入ってくる。そう考えるだけで震えるような快感が背筋を抜けていって、僅かに背中がしなる。
「いくよ」
その合図とともに、ハンジがナカに侵入を開始した。ナマエの分泌液が歓迎するように熱い男根にまとわりついて、何の抵抗もなくぬぷりと膣内に飲み込まれていった。途端、脳が焼けるような強い快感がやってきて、目の奥で火花が爆ぜた。
「はっ、ああ! ああ……!!」
急速に昇りつめる感覚ののち、きゅうきゅうと膣が収縮を繰り返して、ガクガクと腰が震えた。ハンジがナカに入って来ただけで、あっという間に達してしまったようだ。
「あっ、ちょっと、ナマエ、締め付けな……っく、あ!」
焦ったようにハンジが言って、これまたあっという間に吐精した。二人揃って、性器を埋めてすぐに達してしまったようだ。二人分の荒い息遣いと甘い匂いが部屋の中を満たしていく。
吐精したら通常、質量がだんだんと小さくなっていくのだが、膣内に入ったハンジの性器はまだまだ固いままで、膣内で主張をし続けている。ハンジはピストン運動を開始した。普段するセックスだってとても気持ちいいのに、媚薬のせいで感度が研ぎ澄まされて、タガが外れたみたいに嬌声が溢れ出て、強い快感が押し寄せてくる。
「ハンジさ、やぁ、ああ、あッ、無理ッ、イク……ッ!」
再びナマエは達した。程なくしてハンジも打ちつけるスピードを早くして、低く呻くと同時に性器を抜き取ると、熱くて白い迸りをナマエの腹部に放ち、白い熱の花弁が散る。
まだ、まだ足りない。満たされることのない乾きがハンジを求めている。
こうして殆ど全身が性感帯となった二人は、快楽を貪る獣のようにひたすら交じりあった。
回想の旅は体感で言えば一瞬だった。意識が現在に戻ってきたナマエは息を整えながら、今度はハンジの上に馬乗りになった。ベッドも、身体も、既にお互いの体液でべとべとになっている。
ハンジは薄らと微笑んだ。それはまるで今から来る快楽を予感して、笑みが込み上げてきたようだった。一瞬、意地悪して焦らしてみようかと思ったが、生憎そんな余裕はナマエにもなかった。
まるでこの身体は、ハンジの陰茎が捻じ込まれているのが当たり前になってしまったかのようだ。だから何も埋められていない今のこの状態が切なくて、苦しくて、一秒でも早く繋がりたいと思ってしまう。
欲しい欲しいとじんじん疼く下半身の赴くまま、ナマエは屹立したそれを蜜口にあてがった。ハンジの性器も、ナマエの性器もすでに体液まみれのため、何の抵抗もなく咥え込まれていく。満たされていく幸福感と、脳が溶けてしまうような激しい気持ちよさに堪らず深い息が漏れ出た。
そして律動を開始した。ゆっくりと腰を上げて、素早く沈み込む。普段騎乗位は殆どしないため、やり慣れないものだから拙いものの、ハンジは気持ちよさそうな吐息を漏らしている。身体がぶつかりパンパンと弾けるような音と、グチュグチュといやらしい水音と、二人の熱い吐息と、喘ぎ声とが一つの音楽のように奏でられている。
「はぁ……ナマエ、すっげ、エロ……くっ」
「ハンジさ、あっ、ああ……ッ! あ、ああ、あああっ、ん! う!」
自分の意思とは関係なくはしたない声が出続けていて、もはや喉が痛い。
律動を繰り返すたびに揺れる乳房にハンジが手を伸ばし包み込む。尖った先端に指が掠めて、また甲高い声が漏れ出る。意識が乳房に逸れたタイミングで、ハンジが下から突き上げる。力強く奥まで捩じ込まれては抜かれ、また下から強く突かれる。ナマエの動きとハンジの動きが丁度重なって、より深いところまで熱いものが押し寄せる。
「やっ、あ、あ、すご……! 奥、あっ!」
「うん、はっ……くっ! 出すよ」
ハンジのストロークが早くなる。そして一際強く突くと、最奥に白濁を放った。
+++
それからも本能の赴くまま様々な体位で交わり続けていると、漸く薬効が切れてきて、二人はどちらともなく力なくベッドに横たわっていた。その姿はさながらただ呼吸を繰り返すだけの生ける屍のようだった。
どんどんと意識が遠ざかっていく。体液まみれの身体も、シーツも、早いうちに処置しないと目覚めた時大変なことになると分かっている。分かっているのに、まるで身体が動かないのだ。指先一つ動かすこともできない。やがて重たい瞼が降りてきて、開けようとするのだがやはりぴくりともしない。身体の自由が奪われてしまったようだった。
隣で聞こえてきた安らかな寝息はハンジのものだろうか、それとももう夢の中に片足を突っ込んでいて、夢の中の誰かの寝息なのだろうか。判然としないが、そんなことはもうどうでもよかった。とにかくこのまま眠りたかった。
程なくしてナマエの意識は眠りの海を泳ぎ始める。夢の中でもナマエはハンジとセックスの続きをしていた。挿入され、クリトリスを擦られ、ナカのいいところをぐりぐりと攻め立てられる。そして、オーガズムに達した。その感覚が身体中に行き渡ってぱちっと目覚めた。膣がびくびくと収縮を繰り返している。
「っ……はぁ。……ゆ……め?」
カーテンから薄明かりが漏れている。朝のようだ。
もしかして一連の媚薬の話は全て夢だったのだろうか。二人して媚薬を飲んでセックスしたなんてとんでもない淫夢を見たものだ、欲求不満だったのだろうか。と思ったのち、むわっと漂ってきた匂いと、一糸まとわぬ己の身体を見て、目眩がした。
「夢じゃ……ない」
部屋に漂う匂いも、ガビガビになったシーツも、カラカラに乾いて痛む喉も、乾いた体液が身体にまとわりついているのも、力を入れた拍子に膣からドロッとした白いものが出てきたのも、全て現実だった。サイドテーブルにはハンジが書き留めた、薬効が出始めた時間が書かれた紙も置いてある。
気が遠くなるのを感じながら、ひとまず隣で気持ちよさそうに寝ているハンジを揺する。今日の調整日は後片付けで終わりそうだ。
―――もう当面、媚薬の被験体は御免だが、あの時感じた快感は癖になりそうなほど強くて甘くて、筆舌に尽くし難いくらい甘美なものだった。
だから、ハンジがどうしてもというのなら、またしてもいいかな。なんて思いつつ、気怠そうなハンジとひとまず水分補給をしたのちに、身体を清めるため風呂へと向かった。その途中、やっべぇ、とハンジが慌てたように言って、
「薬効が切れた時間確認するの忘れてた」
「ハンジさんってほんと、どこまでも研究者ですね」
「まあね。今度はちゃんと忘れずに書かないとね」
今度は、という言葉に、ナマエは思わずハンジのことを見上げたのだった。
