ナマエとハンジは、お付き合いをしている。所謂恋人同士というものだ。つい最近に晴れて付き合えることになったのだった。嬉しくて嬉しくて、ナマエはかねてより相談をしていたニファに真っ先に報告したが、それ以外には何も言っていない。だから、ナマエとハンジ、そしてモブリットとニファ以外はこの関係性を知らない。
今日も仕事を終え、人目を盗むように夜の兵舎を歩きハンジの部屋に転がり込んだ。
「ナマエ……すっげぇ可愛い」
甘い言葉を囁かれながら、夜は更けていく。身体を重ねた後は襲ってくる眠気に堪え切れず、気絶するように同じベッドで眠りに就いた。
翌朝、幹部会議があるのでハンジはいつもより早めに仕事へ向かった。ナマエは一緒に起きて、欠伸を噛み殺しながらハンジの部屋を後にして自室へと戻って準備を始めた。
(ああ、昨日のハンジさんも最高に素敵だった。今日もかっこいいんだろうなあ……)
ただ立っているだけでもかっこいい、息を吸っているだけでもかっこいい、実験に集中する姿は猶更かっこいい、壁外調査の時に指揮をする姿は最高にかっこいい、二人だけの時に見せる優しい姿がたまらない。ハンジのすべてが愛おしい。
昨夜のことを思い出し、思わずドキドキとし準備をする手が止まる。いかんいかん、と頭の中から昨夜のことを振り払いつつ、再び手を動かし始めた。
午前中は幹部会議の内容を共有があった。次の壁外調査のことについてだった。そして午後はミケ班と合同訓練の予定だ。ナマエとハンジは昼食をとるべく食堂への道を歩いていると、ミケが前方から歩いてきた。ハンジは片手をひらひらと振り、名を呼ぶ。
「午後はよろしくぅ。お手柔らかにね」
「ああ、頼む。……?」
ミケは何か引っかかることがあるのか、ハンジを不思議そうに眺めてすんすんしたのち、次に傍らに控えていたナマエのこともすんすんして、目を見開いた。ミケが改めて二人の匂いを嗅ぐなんてどうかしただろうか。しかも鼻で笑わないなんて。と、ナマエは不思議に思う。
「お前ら……」
ミケは何か言いかけて、そして口を噤んだ。ミケは何を考えているのだろう。すっごく気になる。それはハンジも同じらしく、今度はハンジが不思議そうな顔で首をかしげていた。
「どうかした?」
「……なんでもない」
ミケはそれ以上の追及を拒むように、すたすたと歩いて行ってしまった。
「変なミケだなあ」
去りゆく背中にハンジが呟いた。
ナマエの頭の中では様々な情報が浮かんで、連鎖していった。匂い、驚く、二人とも嗅ぐ、鼻で笑わない……。情報が繋がり、弾かれたように導き出されたことがある。そしてその瞬間、ナマエは一気に血の気が引いた。
「ハンジさん………もしかして、昨夜のその、アレの時の匂いを察知されたのではないでしょうか……?」
「アレって?」
昨夜、夜の営みをした。そのときの体液的なものをミケの鼻が察知したのではなかろうか。と、いうか絶対そうだ。その後シャワーを浴びていない訳なので、体液の匂いがしても可笑しくはない。羞恥心を通り越して、絶望感がナマエの中を占める。アレにピンときていないハンジに、ナマエはモゴモゴとそれはそれは言いづらそうに言う。
「アレとは……夜にしました、あの……」
「あぁ、なるほど。ミケは鼻がいいなぁ、あっはっは」
対するハンジは、ナマエの言いたいことを把握して尚、いつも通り軽い口調で言う。相変わらずの強心臓ぶりだ。
「わたし恥ずかしくてもうミケ分隊長の目が見れません……」
「まさかこんな風に気づかれるとはねぇ」
あまりハンジにとっては恥ずかしく思うことではないらしく、他人事のように言うのだった。
「次からはきちんとシャワーを浴びてから出勤することにします」
「でも私は、ナマエが私の匂いをさせてるなんて、すっげえ興奮するんだけど」
眼鏡が妖しく光るのをナマエは見た。
「ねえナマエ―――」
「だめです」
「まだ何も言ってないよ」
「言わなくてもわかります!」
そうはいってもナマエはハンジのことをこの上なく好いているため、状況はどうであれハンジに求められることは嬉しかったりするわけだが、誰が聞いているか分からない廊下で白昼堂々でこんな会話はいただけない。早々にこの話は切り上げて、すたすたと歩き出した。背中に突き刺さる、えぇ~。という非難がましい声は無視だ。
案の定、午後の訓練はナマエはミケの目を見ることが出来ず、ミケもまた気まずそうにするものだから、ナナバとゲルガーに不審がられたのだった。
その日の夜はハンジがナマエの部屋にやってきて、急いたようにベッドに押し倒される。
「ねえねえナマエ、今日もマーキングしたいなぁ!」
「変な言い方止めてください!」
