ばーんと派手な音を立ててわたしの部屋のドアが何の前触れもなく開け放たれた。こんなことをする人はひとりしかいない。わたしはベットからちょうど立ち上がったところだった。
「ナマエー!! 聞いてよ!! ついにエルヴィンの許可が下りたんだ!!」
扉を開け放ったハンジさんがそのままの勢いでわたしのもとへ走ってきて、きつく抱きしめられた。
「もしかして、巨人捕獲作戦ですか?!」
「そーう!! いやっほーい!!」
巨人の生態を知るために、巨人を生け捕りにして実験をしたい。兼ねてよりハンジさんがエルヴィン団長に訴えかけていたが、生け捕りはあまりに危険なことから、なかなか首を縦には振らなかった。巨人を倒すだけでも多数の兵が死にゆく中、生きたまま捕らえるというのは難易度がかなり上がる。ところが先日、ハンジさんが何度も試行錯誤を重ねて巨人捕獲装置を完成させた。それによりついに作戦のゴーサインが出たらしい。
「よかったですね! ハンジさんの発明品のおかげですよ!」
わたしはハンジさんの腕の中で賛辞を送る。ハンジさんが認められたようでわたしも自分のことのように嬉しい。やはりハンジさんは紛う事なき天才なのだ。
「私だけじゃなくて、私の考えをきちんと形にしてくれた技巧班のおかげさ!」
「もちろん、技巧班の皆さんもすごいです! でも、0から1を思いつくのって本当にすごいことですよ! わたしには考えもつきません! さすがハンジさんです!!」
「褒め過ぎだよナマエ。あなたは人を褒める達人だね!」
よぉ~~しよしよし、と頭を少々雑に撫でられる。そしてハンジさんは不意に熱に浮かされたような目になり、
「あぁ……それにしても、巨人を生け捕りにしたら何をしよう……」
ああしてこうして、とぶつぶつ呟く。その間ハンジさんの興奮度はどんどんと上昇しているのが見て取れる。
「やっべぇナマエ、キスしていい?」
「あ、はい」
ぱっと身体が離れて、噛みつくようなキスがハンジさんから降ってくる。それは段々と深くなっていき、口内に舌が侵入して執拗に絡みついてくる。肩に置かれたハンジさんの手のひらから熱が伝わってくる。ねっとりと濃厚な絡み合いが続いて、やがて離れた。唾液が銀の糸のようにわたしたちの間を繋いでいるのをハンジさんは舌で舐めとった。その姿がひどく妖艶で、熱に浮かされたような心地になった。
「あぁナマエ……すっげぇエロい顔してる」
低く囁かれると、ハンジさんはわたしの肩を押して、そのままベッドに寝かせた。ハンジさんはその上に馬乗りになりジャケットを無造作に脱いで床に脱ぎ捨てた。
「ああもう嬉しすぎるよ! ナマエ、ねえ私、興奮が収まらないんだ。今、ここでしたい。ねえ、いいでしょう? いいよねぇ……? しようよ」
わたしの顔の横に両手をついてハンジさんが興奮をそのままに言う。興奮したハンジさんは野生的で、ちょっぴり狂気めいたものを感じるけど、でも官能的で妖艶で、わたしは身体の芯がゾワゾワとするのだ。
「う、あ……はい……」
「ナマエ、ナマエ、ナマエ……堪んない、好きだよ、ああ可愛い、もっとよく顔を見せて? エッロい顔してんなぁ。こんな顔、私以外に見せちゃダメだからね」
ちゅっ、ちゅっ、と額に、頬に、唇に、口に、唇を落としていく。馴れた手つきでシャツのボタンを外しながら鎖骨に口づけをした。ハンジさんに触れられる場所のすべてが神経が尖っているかのようで、与えられる刺激に思考がどろどろと溶けていくような心地がした。ハンジさんの下腹部で固く熱いものが存在を主張していて、それがまたわたしを熱くさせる。
「おいてめぇら」
突如聞こえてきた声に血の気が引いた。わたしとハンジさんは同時に声のした方―――扉の方を見ると、リヴァイ兵長が廊下で、腕を組んで仁王立ちをしてこちらを見ている。なぜ扉が開いている!! わたしは反射的にハンジさんの下から逃れようとするとするも、ハンジさんはわたしの腰の上にぴったりと跨っているので全く動けなかった。そうか、ハンジさんは扉を開け放って豪快にやってきた。扉を閉めるなんてこと頭になかったのだろう。ああ、穴があったら入りたい。穴はどこですか。
「あれ、リヴァーイ。どうしたの? 今すっげぇいいとこなんだけど」
特に驚く様子も狼狽える様子もなくハンジさんはいつも通りの調子でリヴァイ兵長に言う。どんな強い心臓してるんだこの人。
「そのようだな。だが扉が開けっ放しだ。おめぇらが何をしようと勝手だが、扉ぐらい閉めてからしやがれ。声が廊下にだだ漏れでクソもでねぇ」
淡々とリヴァイ兵長に言われる。今までのやりとりを恐らくすべて聞かれていたのだろう。それだけじゃなくて、見られていた可能性もある。もう兵長に合わせる顔がない。リヴァイ兵長の三白眼がどんな感情を湛えているのか、怖くてたまらない。
「あはは、ごめんごめん。悪いんだけど私は今手が離せないから扉閉めてくれる?」
リヴァイ兵長は神経質そうな顔を歪めて盛大に舌打ちをすると、荒々しくも扉を閉めてくれた。
「ありがとう!」
それはそれは軽快にハンジさんは閉ざされた扉に向かって礼を述べた。わたしはハンジさんに向き直ると、ハンジさんも同じタイミングでわたしに視線を戻していた。
「恥ずかしかったです……」
「いやぁ吃驚したね」
何と清々しい顔で言うのだろうか。全然びっくりした感じもないし。この強い心臓と揺るがない心根がハンジさんの凄いところである。
「私は見られてても別にいいけどね。ああでも、ナマエのエッロい顔はいくらリヴァイでも見せたくないなあ」
言いながらハンジさんは先ほどの続きを始める。ハンジさんは鎖骨を吸い上げれば、その上を細くしなやかな指がなぞりあげる。
「……やっぱり誰にも見せたくない。ナマエは私だけのものだよ」
低く囁くハンジさん。再びとろけだした頭ではもはやハンジさんの言葉を深く噛みしめることも出来ず、快楽へといざなわれていく。
