短編

走れ!

 空気は目に見えない。けれども確かにそこに存在していて、息を吸い、生きることが出来る。熱が出て初めて健康だったことに気づく。よくある話ではあるが、なくなってはじめて気づくことがある。「ねえ、クリフト、顔が怖いわよ?」「……ッ姫様! すみませ…

真っ赤なお鼻と天体観測

「ちゃんとクリフトくんはきっと、将来結婚する」 こういう言葉を昔からよく言われていました。当人であるわたし、そしてクリフトはどこ吹く風。また言われた、くらいにしか捉えていませんでした。どうしてそんな風に言われるのか、皆目見当もつきません。ず…

隙だらけ 好きだらけ

「レポートが……終わらないです……」「頑張ってください。明日提出でしょう?」 自室に備えられたテーブルで、羽根ペンを持って絶望に打ちひしがれているは、今にも泣きだしそうだった。その様子を向かいのイスに座って見ているクリフト。彼女は明日にレポ…

Would you marry me

 世界の人々が再び、なんの恐れや心配もなく笑って過ごせる日々が戻ってきた。サントハイムにも無事人が戻ってきて、とクリフトはそれからも二人のペースで歩んできた。「珍しいですね。クリフトが夜にデートに誘うなんて」「ええ。まあ」 クリフトは曖昧に…

躊躇いの日々に手を振って

 すべて伝えた。自分の持てる限りの言葉で自分の中にある気持ちを根こそぎだ。だがそれは押し付けたとも言えたかもしれない。しかし、今となってはそれはどっちでもいいことのように思えた。今は驚き、戸惑っているの口から一言でもいいから言葉がほしかった…

淡い絆が消えゆく前に

「……はい」 が立ち止まり、ゆっくりと振り返った。早鐘を打つ心臓に気付かないふりをして、クリフトは息を吸い込んだ。「私にできることは、もしかしたらの期待していることとは違うかもしれない」――私にできること。「私は、止めることしかできません」…

これが最後の選択肢

  走った。短い距離なのだが、とにかく走った。一刻も早くのもとへといきたかった。ウッドデッキに出ると、がぼんやりと夜空を眺めていた。勢いよく扉を開けたため、すぐに誰か来たことはに伝わったらしく、あけたと同時にがこちらを見た。「クリフト……?…

先延ばしにしてきた報い

「今日という記念すべき日に、スペシャルゲストとして、この町を作るきっかけを与えてくれたさんたちにきてもらいました! 皆さんもご存知かと思います。では、一言どうぞ!」 町の真ん中で、ホフマンがマイク片手に楽しそうに舞踏会を進行していく。ランプ…

「届かなくていい」なんて嘘

  伝わらないでほしかった。もしも、幼馴染と言う関係すら危うくなってしまったら、と自分をつなぐものは脆くも崩れ去ってしまう。だから自分の気持ちを伝えたくはないし、伝える気もない。 はずだった。 でも、とを見ていると、言いたくて言いたくて、い…

指先一本のふれあい

「舞踏会?」「ええ。今日は、この町に私がやってきてから一ヶ月経った記念すべき日なのです!」 聞き返したに、移民の町の代表であるホフマンが楽しそうな顔で説明をした。「ですから、今日は夜に舞踏会を開こうかなと」 たまたまルーラで様子を見にきたの…

押さえ込んだ言葉

 言葉というものは本当に怖いもので、捉え方ひとつで世界が一変してしまう。言葉は凶器、言葉は癒し。自分の気持ちを正確に伝えられるかは、誰もわからない。「最初は、クリフトさんとさんが付き合っているのかと思っていました」 クリフトの隣を歩く褐色の…

もしもこの日常が壊れたら

 彼女の事が、好き、なのかもしれない。そう意識してから、もう何日経つのか。相変わらず彼女とは平行線のままだ。「ああ、どうしましょう……」 心底困ったように、目の前のはいった。今にも泣き出しそうな彼女に、思わずこちらだよ、と教えてしまいたくな…