熱い吐息はどちらのものなのかもうわからなくなってしまった。生きている実感が欲しくて、リヴァイのことを感じたくて、縋るように、溺れるように舌を絡めて互いの体温を交えていく。ずっと待ってくれていて、最後まで諦めないでくれたリヴァイがどうしようもなく愛おしかった。膨れ上がった感情をぶつけるように、夢中で求め続ける。
かつて体温を交えていた人とはもう記憶の中でしか会うことができなくなってしまった。やっとそのことを認めることができた。これから先は、ハンジがいない世界を生きてゆく。けれど忘れられるわけなんてなくて、これからもこの胸の真ん中にずっといるのだろう。
けれど今は、今だけはどうしてもリヴァイの熱をこの身体に埋めて欲しかった。昂ぶった感情は確かにリヴァイを求めていて、ハンジを思う気持ちとリヴァイを思う気持ちはない混ぜになって、もう自分でもよくわからない。今だけごめんなさいと、誰に向けてなのかも分からない謝罪を胸の内で唱える。
舌を絡ませながら、口の端から漏れ出る抜けるような互いの熱い吐息に背筋をゾクゾクとさせる何かが駆け抜けていく。そのまま自然な流れでナマエは身体を押し倒されて枕に迎えられ、リヴァイはその上に覆い被さる。一瞬、その姿がハンジと重なり、かつての情事を思い出す。刹那、胸に鈍い痛みが訪れるも、瞬きすればハンジの姿は見えなくなった。焦点をすべて現実に向ける。ナマエの顔の両側に肘をついて見下ろすその目は紛れもないリヴァイの涼しい切れ長の瞳で、身体の中心が熱くなった。ひとりでは埋めることのできない空白が、満たされるその時を今か今かと待ち侘びているようだった。
その熱に突き動かされて、ナマエはリヴァイの両頬に手を添えて、頭を浮かせて自分からキスをする。リヴァイはそれに応じて、再びナマエは枕に頭を横たえて、リヴァイから降り注ぐ雨みたいなキスを享受する。リヴァイとは今日初めてキスをしたと言うのに、なぜだかもう幾度となくしているような錯覚に陥った。唇の形がとても馴染んだからかもしれない。唇の裂傷に啄むようにキスすれば、今確かにリヴァイとキスをしているのだと思えた。人類最強の男と、世界の片隅で夢中でキスをしている。
実に久しぶりに行為をすることについても去ることながら、リヴァイは右足の膝から下の自由を失っているので、果たして上手くいくかどうか一抹の不安を覚えつつも、それはすぐに頭の片隅へと追いやられる。リヴァイからのキスが、思考を取り留めのないものにしていくのだ。ナマエはリヴァイの身体に腕を回して感触を確かめるように抱きしめると、彼の身体はもう訓練をしていないにも関わらず、細い体躯に密度の濃い筋肉が纏われていて、まるで鎧のようだった。ハンジとはまた違った身体付きだ、と思った瞬間、胸に鋭い痛みが走った。思い出そうとしなくても、当たり前のようにハンジのことを考えてしまう自分がいた。もうその姿に蓋をすることはしないが、今は都合が悪い。すべてを振り払うように、リヴァイを抱きしめる力を強くした。
二人は少しも隙間なくぴったりとくっついて、身体に伸し掛かるリヴァイの重さが苦しくも心地よい。そして下腹部に固く熱いものを感じ取り、心臓が痛いくらい縮こまる。それはまるで、彼がナマエに欲情している、という事実の証左のようだった。そして自分も身体の中心がじんと熱くなって、己の中に燻っている欲を自覚する。
息継ぎするように顔が離れたタイミングで、ナマエはリヴァイを押しやって自身の身体を起こすと、躊躇いなく服を脱ぎ去って下着のみの姿になった。リヴァイも上体を起こしたので、ナマエはボタンを一つ一つ取っていき彼を脱がせていく。そうして着ていた服を脱ぎとると、二人はあっという間に下着だけの姿になった。初めて見るリヴァイの裸は白く、しなやかな筋肉に覆われている。芸術作品のようなその身体にはいくつか古傷があり、それが彼の美しさを際立たせているようだった。
今度はナマエがリヴァイをベッドへと押し倒して、リヴァイの身体に刻まれた古傷を見遣る。大きなものも、小さなものも、そのどれもが今のリヴァイに至るまでの過程だとしたら、そのすべてが堪らなく愛おしく感じて、ひとつひとつに唇を這わせていく。
「くすぐってぇ」
途中そんな抗議が飛んできて、ナマエは顔を上げて彼の腰の上に跨ると、下着越しでもリヴァイの猛りが伝わってくる。それはまるで鎖に繋がれた獣が、解き放たれるときを今か今かと待ち侘びているようだった。
上体を屈めて彼の顔の横に肘をつき、触れるだけのキスを落としてリヴァイを見る。人類最強と称された男が今、ナマエの下に組み敷かれている。初めて見るその光景に、一種の支配感のようなものを感じつつも、意識はリヴァイの顔に刻まれた二筋の縫い跡へと向かう。細やかで緻密な縫い跡は医療の心得のないハンジがリヴァイを助けるために無我夢中で施したものだ。ハンジのことを受け入れる前はその縫い跡を見るのが辛かったが、今となってはその縫い跡を通じてハンジのことを感じて、懐かしく思うことができる。もう二度と会うことができない、世界で一番愛しい人。
と、束の間の思考の旅を見透かされたのか、リヴァイのナマエの胸を覆う下着をずりあげて、左胸の頂きにかぶりついた。
「ひっ!」
情緒もひったくれもない悲鳴のような声を上げるのもお構いなしに、舌がまるで生き物のように動きまわり突起を舐めて、こねくり回し、吸い上げる。
「あっ! ……ん……あ……」
与えられる刺激に、自分の意志とは関係なく、甘やかな声が漏れ出て、身体から力が抜けそうになる。
刺激が一旦収まると、今度は右側の頂きを舌で犯される。そして左側はリヴァイの指が先程の唾液を潤滑油にして刺激を与えたり、揉んだりする。ぷっくりと膨れ上がったそれをじゅるじゅると吸い上げる水の音と、鼻を抜けるような自分の嬌声が、いつもは静寂を湛えたこの空間に響き渡る。
不意にすべての動きが止まって、ナマエは堪らずリヴァイを見る。きっと、隠しきれないほどの情念が瞳から伝わっているに違いない。対するリヴァイの三白眼もいつもよりも温度を感じるもので、それがまたこの状況を物語っている気がした。剥き出しの生せいを、互いに感じ取ろうとしている。
「腰を浮かせられるか」
「はい」
言われたとおりに膝をついて腰を浮かせてると、リヴァイは右手でナマエの顔を引き寄せて唇を重ね、舌を入れ込んで口内を蹂躙しながら、左手は背中のラインを撫でるように滑らせて、擽ったいような、気持ちいいような快楽が背筋を通り抜けていき、堪らず唇の端から甘い息が漏れ出る。そして内腿へ到達しパンツの隙間から指が入り込む。割れ目から既に愛液が溢れ出ていてリヴァイの指を迎える。指が割れ目をなぞるように上下すると、思わず耳を塞ぎたくなるような、くちゅくちゅと言う水の音が聞こえてくる。そして、主張するように膨らみ濡れそぼった陰核に到達し、そこを擦る。途端に瞼の裏がチカチカするような強い刺激がやってきて、堪らず顔を上げて瞼を閉じる。
「……っ、り、ゔぁ、あ」
きゅうきゅうと膣が切なく締まり、今か今かとその時を待ち侘びているようだった。リヴァイは擦るのをやめてパンツを脱がそうとしたので、ナマエもその動きに合わせて足を動かして、パンツを脱ぎ去った。
ナマエは再びリヴァイに口付けると、すぐに舌先が侵入してきて、それを迎え入れる。一方で愛液が溢れ続けるそこには人差し指を一本挿入され、ぬぷ、と濃度の高い湿った音が聞こえてきた。そして中の感覚を確かめるように出し入れをする。一本だった指は二本になり、恥骨側の膣壁を押すように擦り上げる。その傍ら、親指で陰核を擦り上げて、頭がおかしくなりそうなくらいの刺激が絶え間なく訪れる。
口内を蹂躙するその舌も、下腹部を蕩けさせるその指も、鼓膜を揺らす水音も、すべてが長いこと快楽とは無縁だったこの身体を、快楽の果てまで引き上げていく。もうキスに集中ができなくて、快楽を感じることへすべての神経が集中した。
「あっ、ああっ! い、く……!! はっ、ああっ、はぁ……う……ん、はぁ」
程なくして、急速に上り詰める感覚の先、一際大きな波に飲み込まれて、悲鳴のような声とともに背中が弓なりにしなる。膣が収縮を繰り返し、中に入っているリヴァイの指を切なく締め付けた。腰はガクガクと震えて膝立ちしているのがやっとだった。ナマエは乱れる呼吸をそのままに、自身の中に穿たれた空白を一刻も早く埋めてほしくて、縋るようにリヴァイを見る。
リヴァイはナマエを横たえると、自身は上体を起こしつつ、下着を脱ぎとる。そこからぎちぎちに張り詰めた雄の象徴が現れて、思わず息を呑む。もう戻れない、戻るつもりもない。
リヴァイはナマエの両膝に手を置いて、外へ広げると、今か今かとその時を待ち望んでいる女性器が露わになる。そこに熱く膨らんだ亀頭をあてがった。そしてナマエが胸の前で組んでいた手をひとつ、またひとつとリヴァイの手がかすめ取り、シーツの上に縫い付けた。
「挿れるぞ」
「はい」
今から、世界で一番愛しい人以外の熱で身体を埋める。
頭に浮かんだのは、愛しい人の名前だった。
もう二度と会うことのできないその姿が脳裏に浮かんで胸が焼けるように痛むが、身体はリヴァイに貫かれる瞬間を、今か今かと待ち侘びてヒクヒクとしている。
やがてリヴァイは腰を動かして、勃起したそれをゆっくりと膣の中へと挿れていく。
「あ……う……あっ……はぁっ……」
にち、にちと熱い肉欲が膣を拡げながら進んでいき、快楽の傍らリヴァイに貫かれているのを身をもって感じる。無意識にリヴァイの手をぎゅっと握り締めれば、それに応えるようにリヴァイも握り返す。
やがて鍵穴に鍵を差し込んだように、二つの性器はぴたりと隙間なく結び合った。リヴァイはすべて挿れ終えると熱の籠った息を吐き、ナマエは切ない空白がリヴァイによって満たされて、なぜだか一筋涙が零れ落ちた。
「動くぞ」
リヴァイは律動を開始した。入っているだけでも気持ちいいのに、彼が動く度に甘い刺激が全身へ駆け巡る。ただ挿れて、抜いてを繰り返しているだけなのに、なんとも不思議だ。と俯瞰する自分は、リヴァイに貫かれるたびにどんどんと快楽に溺れていく。
肌が触れ合う音と、水の音と、自分のはしたない声と、貫く度に漏れ出るリヴァイの短い吐息、全てがひとつの音楽のように鼓膜を揺らす。その全てが、生があるからこそ奏でられるものだ。今、二人は終末の大地で一生懸命生きている。
もう一度生命を与えてくれたのは、今目の前にいるリヴァイだ。無性に恋しくて、今だけは全て忘れて無我夢中で名前を呼ぶ。
「あっ、へいちょ、んぁ!」
「兵長じゃねぇって、言ったろ」
躾けるようにリヴァイは打ち付けて、その度にぐちゅ、ぐちゅと卑猥な水の音が響き渡り、愛液が溢れていく。
「りゔぁ、あ、ああ……っ!」
何度も最奥を突かれて、その度にさざ波のように押し寄せていた快楽はどんどんと大きな渦のようになり、もうそこから逃れることはできない。シーツに縫い付けられた手を抜き取って、夢中でリヴァイの身体に腕を回して抱きつく。
「まっ、やっ……あっ、い……くっ、あっ、あああっ! ッ!!!」
やがてナマエはリヴァイを咥えこんだまま達した。頭が真っ白になり、膣は蠢いて、リヴァイの固く勃起したそれを締め付ける。リヴァイは動くのをやめて深く息を吐いた。
「リヴァイ、さん……わたしばっか、気持ちいい、です……リヴァイさんも気持ちよくなって欲しい、です」
気を抜けば遠のいてしまいそうな意識を必死に繋ぎ止めて彼に言えば、リヴァイは僅かに口角を上げて、ナマエの頭をゆっくりと撫でながら言った。
「十分気持ちいい。だがそんなにいじらしいこと言うんだったら、尻を突き出してくれるか」
「はい……」
彼の下から出て体勢を変えて四つん這いになり、彼の前に尻を突き出す。普段だったら羞恥心が勝って絶対にやらないようなポーズも、今は僅かな躊躇いを感じるだけで、熱の導くままやってのける。
リヴァイはナマエの尻の前で膝立ちになると、ナマエの腰に両手を添えて蜜口にリヴァイの男根を再び宛てがい、深く貫いた。くぐもった水の音を立ててぐっと押し込まれたそれはいいところを擦り上げて最奥へと到達し、ナマエは目の前で火花が爆ぜたような衝撃を感じ、たまらず声を上げる。
「あぁっ! はぁ……」
最奥まで咥えこんだそれは焦ったいくらいゆっくりと抜けていき、再びナマエを貫く。対面より深いところへと到達し、見えない分いつ来るかわからなくて、それがまた快楽を強く感じる。もう今は断続的に与えられる快楽を享受することしかできなくなっていた。
リヴァイが腰を打ちつけるたびに、ぱん、ぱん、と肌と肌とが触れ合って弾けるような音が響き渡る。そしてその度にあられもない声が漏れ出て、やがてリヴァイの呼吸も熱の籠ったものになっていき、剥き出しの性をぶつけ合う。
もう既に二度も達したと言うのに、突かれる度にじわじわと上昇していくのを感じる。そしてそれはリヴァイも同じなのだろう、ペニスを打ち付けるスピードが徐々に早くなって、膣内でより一層固く膨らむ。
やがてリヴァイの低い声が、告げた。
「くっ……出るぞ……!」
「きて、くださ……っあ!!!」
浅い呼吸を繰り返し、最後に呻くような声とともに捩じ込むように奥まで突かれて、最奥に白くて熱い欲を迸らせた。ナマエは痙攣するように下半身が震えて、注ぎ込まれた白濁を一滴残らず搾り取るように膣が収縮を繰り返してリヴァイの雄に吸着する。
二人の体液は混じり合い、ナマエの中でひとつになった。それがとても淫靡であり、美しいとも感じた。
じっくりと熱を注がれたあとに性器が引き抜かれると、粘度の高い液体が膣の外にどろっと出ていくのを感じた。ナマエは全身から力を抜いて、ベッドに倒れ伏す。
身体は疲労感と達成感に包まれていて、荒い呼吸を繰り返しながらも、今、確かに生きているのだと実感した。
そして、ひとつ大きく深呼吸をすると、
(さようなら)
と、心内で呟いた。きゅっと締め付けられた胸の痛みに、涙が一筋流れた。
◆◆◆
次で最終話です。
拙いR18にお目通しいただきありがとうございました……!
