「貴様……ジョジョ、お前が生きているということは、あの二人の騎士を倒してきたということか……」
城の上に上り詰めてきたジョナサンを認め、ディオは感慨深げに言う。タルカスとブラフォード、彼らを倒すとは、ジョナサンは想定通り力をつけてやってきたようだ。
「ディオ……ナマエはどこだ?」
ジョナサンが怒りに顔を歪ませて問う。その表情にディオは優越感を感じる。ジョナサンの知らないナマエの居場所を、自分のみが知っている。たとえジョナサンに敗れようと、決して言うまい。
「ナマエ……か、やつなら今、眠っている。貴様には渡さん」
「ディオ……!」
今にも飛びかかってきそうなジョナサンに、ディオの背後に控えている護衛のゾンビが反応する。そんなゾンビを手で制し、彼らの動きを止める。
「こいつだけはこのディオが殺る!」
「ディオ、君を倒してナマエを取り戻す!!」
ジョナサンとディオの最終決戦を、スピードワゴンとそして石仮面の因縁に終止符を打つべく助太刀にやってきた波紋使いのトンペティとストレイツォが見守る中、戦い始まった。
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「WWWWRRRRYYYYY!!!!」
特殊な呼吸法によって織りなす、“波紋”と言う太陽のエネルギーを身に着けたジョナサンに、ディオは敗れた。彼はバルコニーから落ちていく。
「ディオ……」
そんな様子をジョナサンは涙を一筋流しながら見守る。ジョナサンの脳裏には彼と過ごした日々が浮かんでいた。
ディオを貫いた波紋はだんだんと彼の身体を蝕んでいき、最後には彼の肉体は消滅し、彼の着ていた服だけが闇へと消えていった。人類は、吸血鬼に勝ったのだ。
「勝ったんだ!! ジョースターさん!!」
スピードワゴンは歓喜の声をあげる。ジョナサンは振り返ろうとして、意識が急激に遠のくのを感じ、そのまま白んでいく意識のままバルコニーに倒れこんだ。無理もない、ジョナサンは夜通し命を賭して戦い続けたのだ。
残されたゾンビたちを、同じく波紋使いであるストレイツォが倒し、危うく一夜にしてゾンビの町へと化しそうだったウインドナイツロッドの平和は保たれた。
スピードワゴンの提案でジョナサンが目を覚ましたのち崖の下にあったディオの服を燃やし、更に石仮面を封印するべく、粉々に砕いた。父と母の形見ではあったが、念には念を入れて、だった。
その後ジョナサン達は手分けしてウインドナイツロット中を探したのだが、ナマエの姿は見当たらなかった。夜が明けてから町の人に聞き込むが、ナマエのことを知っている人がたくさんいたが、行方を知る者はひとりもいなかった。町はそれよりも、一夜にして73名の行方不明者が出たため、ざわめいていた。
聞き込みをしている中で奇妙な話を一つ小耳挟んだ。
『あの日、街の失踪事件が起こった日の夜、東洋人に船を盗まれたんだ』
港で陰鬱気な表情で男が語ったのだった。東洋人と言われて思い浮かぶのは、ディオに毒を提供していたワンチェンと言う東洋人だ。気にはなるが、船の行方を探す手がかりもないのでその話はそのままにした。
「嬢ちゃん、眠っていると言っていたからには生きてることには違いないだろうが……町中探してもいないとなると……」
スピードワゴンが言いにくそうに告げる。もう3日、ウインドナイツロッド及びその周辺を探したが、手がかり一つつかめなかった。ジョナサンは悔しい思いを抱きながらも、ジョースター邸の後始末やらなにやら、やらなければならないことが山積みであることも分かっていた。ジョナサンは後ろ髪ひかれつつも、仕方なしにロンドンに戻っていった。
ロンドンで後処理に追われる傍らナマエを探すが、彼女は一向に見つからなかった。そんなこんなしているうちに、ジョナサンとエリナ・ペンドルトンの結婚が決まった。
「ジョースターさんが結婚して新婚旅行に出るとなれば新聞各社も放っておかねえはずだ! きっと、新聞を見た嬢ちゃんが慌てて駆け付けるはずだぜ」
スピードワゴンは言うが、ジョナサンもそうであればいいと思った。彼女に会いたい。恋愛のそれとはまた違う、彼女に抱く純粋な想いがジョナサンの胸には確かにあった。どういう形であれ、彼女に自分の居場所を報せたかった。無事であると伝えたかった。
きっと、彼女は誰よりも自分のことを心配していてくれるから。
そうして迎えた新婚旅行の当日―――運命の2月3日、ジョナサンとエリナはアメリカに行くべく船に乗り込んでいた。その船に怪しげな棺が一つ、男四人がかりで運ばれる。
「まるで金庫みたいだ……棺のナリをしているが、装飾も豪華で鍵までついてやがる。いったいどんな大切なものが入っているのやら」
「いいから運ぶぞ、これを運ばねえと東洋人から金がもらえないんだから!」
男たちは棺を船倉に運び込み、東洋人から報酬をもらうと街中へと消えていった。
「ナマエ……ああナマエ、もうすぐ目を覚まさせてやろう」
しんと静まり返った船倉で、くぐもった声が聞こえてくる。声は棺から聞こえてきた。愛おしそうな、待ちきれないような、そんな色のある男の声であった。
