城下町を抜けてかつてのハイラル城で今はガノン城と化した城へと続く荒れ果てた道をひた走る。やがて現れたガノン城は、ハイラル城だった頃の面影はなく、すっかりと姿を変えてしまった。かつては緑で満ちていた美しいハイラル城の敷地は草木一つない、生命をまるで感じない赤銅色の大地になっていた。禍々しい空は薄暗く、遠くにそびえるガノン城は無骨で、まさに魔王が棲まうに相応しいような姿だった。
ガノン城は、周りの大地を堀のように穿ち、他者の侵入を拒んでいたが、リンクが目の前に立つと、賢者たちの力で虹色の架け橋が掛かった。終末の大地に虹彩を放つ虹色を踏みしめながら、リンクはガノン城の中へと誘われていった。
城の中央ホールでは真ん中に結界が張られた塔があり、それを囲うように六つの扉がある。恐らく、その部屋の仕掛けを解かなければ真ん中の塔へ行くことはできないのだろう。それぞれの扉の先には、今まで呪いを解いてきた神殿をそれぞれ凝縮したような部屋の造りになっていた。そして部屋の奥には球があり、ナビィ曰く『結界の力の源』らしかった。それを矢で射抜くと、退魔の光が眩く輝き、結界の力を消し去った。
(ナマエ……無事だよね)
結界を解きながらも、リンクは気がつけばナマエのことを考えてしまい、少しでも気を抜けば怒りと焦燥で我を失いそうだった。
七年の眠りから目覚めたときも隣にナマエがいないことが何よりも怖かった。失ってしまうこと、それを考えてしまうから。ナマエがいない世界は、リンクにとっては無意味なものだ。ナマエがいるから戦えて、ナマエがいるから歩いていけるというのに。もしこれでナマエの身になにかあったら……ナマエのいない世界を受け入れることができるのか、そんな事を考えて、その考えを振り払うように頭を振る。
『リンク……二人ならきっと大丈夫だヨ』
「うん……わかってる」
リンクの様子を見かねてナビィが安心させるように言うが、リンクの心は遠くに行ったままだった。
そして六つの結界をすべて解き放つと、中央に聳える塔の結界が解除された。いよいよ、ガノンドロフとの対決が迫っている。しかしリンクの心に迷いも恐れもなかった。
「行こう、ナビィ」
『ウン……!』
階段を一歩一歩踏みしめて上り、ガノンドロフとの最終決戦へと向かった。
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ナマエが深い眠りの海を漂っていると、覚醒へと誘うようなピアノを奏でる音が聞こえてきた。そのメロディは不穏な調べで、その調べから逃げたくて走り続けているのに、少しずつその音は大きくなっていき、まるで追いかけられているようだった。
そして、何者かの深く恐ろしい声が聞こえてきて、ナマエの意識は急速に覚醒へと向かった。
「共鳴している……トライフォースが一つに戻ろうとしている」
ナマエは目を覚まし、荒い呼吸を繰り返して酸素を取り込みながら、無意識に辺りを見渡す。ゴシック調の建物で、横には何やら容れ物に入った宙に浮いているゼルダがいて、眼下にはリンクがいる。そして真下ではリンクに背を向けてガノンドロフがピアノを弾いていた。先程のメロディはガノンドロフが弾いていた調べで、恐ろしい声の主はガノンドロフなのだと気づく。そこで、時の神殿での出来事を思い出した。シークの正体はゼルダで、そしてゼルダとともにナマエがガノンドロフに封印されたのだ。
リンクはナマエの意識が戻ったことに気づくと、「ナマエ!」と名を呼ぶ。
「リンク! ごめんね、ごめんね……!」
ナマエも堪らず叫ぶが、声は封印の入れ物の中でくぐもって反響し、どうやら外へは届いてなさそうだ。まんまとガノンドロフに捕まってしまい、悔しさや申し訳無さが募る。あのときロンロン牧場に残っていれば……と後悔の念に苛まれるが、ガノンドロフはずっとリンクのことを見張っていたに違いない。故に、リンクが言う通り、どこにいたってリンクを呼び寄せるための囮として囚われていたのだろう。
ガノンドロフはピアノを弾くのをやめると、マントを翻しながら振り返り、リンクと対峙する。
「七年前のあの日、我が手にできなかった二つのトライフォース。そして今、ここにすべてのトライフォースが揃った。貴様らには過ぎたおもちゃだ! 返してもらうぞ!」
リンクが聖地の扉を開き、それと同時にリンクが聖地で眠りに就いたとき。ナマエには聖地への扉は見ることができず、消えてしまったリンクを待つこともできず、戦火が広がる前に城下町を立ち去った。そのあとガノンドロフが聖地に侵入しトライフォースを手に入れた。
しかし、トライフォースに相応しくないと判断されてトライフォースは三つに砕けて、結果、ガノンドロフには力のトライフォースが宿り、聖地は魔界へと化した。
ここでリンクとゼルダを葬り、砕け散った二つのトライフォースを手に入れる算段なのだろう。
「臨むところだ……!」
リンクがマスターソードを構える。
『ナビィ、近づけない……! ごめんネ、リンク』
ナビィはいつも近づいて敵の弱点を探るのだが、ガノンドロフの邪悪なオーラがそれを阻む。近寄れば一溜まりもないようなそれは、ナビィの心をすくませた。
「大丈夫! 戦いながら弱点を見つけるよ!」
「やれるものならやってみろ!」
いよいよ時の勇者リンクと魔王ガノンドロフの最終決戦が始まる。
