ジョナサンさまを待っている間、手持ち無沙汰なわたしたちはジョースター邸のお庭にあるベンチに座って会話をぽつぽつと交わしました。
「ナマエ、君はいつからジョジョのことが好きなんだ?」
「うーん、いつからでしょう。気が付いたときには……」
一応記憶をたどってみます。ううーん、覚えてません。いつの間にやらジョナサンさまを意識していた、といったほうがやはり正しい気がします。
「でもたぶん、小さい頃は、男だとか、女だとか、そういった意識がわたしになくて、すごく仲が良かったのですが、大きくなるにつれてわたしは女で、ジョナサンさまは男だということを認識し始めたあたりから、だと思います」
「なるほどな。ってことは、ナマエはずっとここで住み込みでメイドをしているのか?」
「あ、はいそうですよ。ちょうど、ジョナサンさまを男の子だと認識をし始めたころ、ジョナサンさまとの関係も改めて理解して、ああ、わたしはメイドだからジョナサンさまに仕える存在であって、慕ってはいけないんだ。とも理解したんです」
「ほう。しかしジョースター卿なら君とジョジョが恋しようが、受け入れてくれそうだけどな」
「それ以前に、ジョナサンさまのことは勝手にわたしが好きなだけですから」
そのジョナサンさまは、いまほかの女の子と遊んでいるんですから……。ああ、悲しくなってきました。恐らくそれが顔に出ていたのでしょう。ディオさまがわたしの表情を見遣ると、ほんの僅かに眉を動かしました。
「ナマエ、話題を変えよう。ぼくのあげたリボン、まだつけてくれているんだな」
「ええ。もちろんですよ。とっても気に入っているんです。本当、ありがとうございます」
「いいや、いいんだ。紅茶をくれたしな。また街へ行こう」
「はい! 楽しみです。ディオさま、わたしなんかにかまってくれて本当にうれしいです」
「……ぼくは君との今後が楽しみだよ」
「そうですねえ! ふふ」
もっとディオさまとは仲良くなりたいです。
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……? こいつ、絶対にぼくの真意を理解していないうえに、その自分の解釈を疑いもせず間違いのないものとしているな。まあこいつがわかるわけがないか。隣のナマエの顔をちらりと見れば、ニコニコと、前方の景色を見ていた。
不意に、ナマエのすべてを奪いたくなった。
「ナマエ」
「はいっ……?」
ナマエの頬に手を添えて、じっと見つめた。唇を奪ってやろうかと考えた。
―――のだが、やめた。
キスをするにはナマエはあどけなすぎた。ぼくとしては、幼女のくちびるにキスをすると同じような心持になるだろう。罪悪感すら感じそうだ。だから、やめた。
だから代わりにぼくは、そのままナマエの額に自分の額を当てた。ナマエの鼻とぼくの鼻が触れ合う。
「あの……」
極力小さな声で、困惑気味にナマエが言った。
「なんでもない。もう少しだけ」
ナマエ、ぼくはいつだって君の唇を奪うことが出来る状態だということに気付けよ。このまま少し顔をずらせば、君と口づけすることが出来るのだ。けれどもしないんだ。つまり、お前の純潔はぼくが握っているといっても過言でもないんだぞ。
「はい……」
あどけないナマエ、阿呆なナマエ、隙だらけのナマエ、いつかジョジョに弄ばれても知らないからな。
まあぼくが、君を手に入れるのだがな。
ぼくは顔を離し、再び前方の景色を見た。まだジョジョは帰ってきていない。早くナマエにいってやれよ、好きな女ができた、と。
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ど、どどどどどどどどどどどどどどういうことなのでしょうか! え!! わたし、え!! もうなにがなんだかわかりません! ディオさまは一体、いま、どうして、あんなことを……!? しかし何事もなかったかのように姿勢を元に戻して前方を見ています。
「ナマエって、チェスとか弱そうだな」
「え? ええ、確かに強くはないですが……」
「今度勝負しよう。窮地に追い込まれて苦しんでいる顔を見てみたい」
「なんか悪趣味です」
ディオさま、一体、何を考えているのでしょうか。少し前に抱きしめられたこともありました。わたしからしたら、恋人同士がやるようなことをディオさまは平然とやってのけます。まるでそれは朝に、おはよう。と挨拶をするような自然な感じで。
(育った環境が違うからでしょうか……)
やはり美少年は、やることが違いますね。
「……ナマエ、ジョジョが帰ってきたぜ」
それまでディオさまのことをぐるぐると考えていたわたしの意識が、すべてジョナサンさまに向かいました。
