リンクがエポナとともに牧場を出た後、ナマエはマロンの部屋を訪れた。マロンはベットに腰掛けて、ナマエは木製の椅子に腰掛ける。二人でマロンの部屋でお話するときは、だいたいこの場所だ。
「妖精くんはどうしたの?」
マロンは問う。
「タロンさんを探しに行ったよ」
「お父さんを!?」
まさかタロンを探しに行ったとは思わなかったのだろう、まあ、とマロンは大きく開いた口を隠すように手をかざした。
「でも、いいの? せっかく探してた妖精くんと会えたのに……」
「もちろんだよ! 会えたんだから、それだけで十分。また戻ってきてくれるし」
「そっかあ。ね、ナマエは、妖精くんについてくの?」
「んー……」
マロンからの問いにナマエは思考を巡らせる。先程もリンクから聞かれたことだが、自分の正直な答えを言えばマロンは絶対に反対するだろうし、気を遣わせてしまう。それはいやだった。マロンは大切な姉妹であり、友人だから、困った顔なんてさせたくない。そんなナマエの思惑を知ってか知らずか、マロンはナマエが答えるより前に言葉を紡ぐ。
「マロンはね、ナマエは妖精くんについていった方がいいと思うの」
「どうしてそう思うの?」
「だって、ずっと探してたし、妖精くんだってナマエと一緒にいたいと思うの。それにナマエと妖精くんは……想いあってるんでしょ?」
「おおおお想いあってる!?」
いまミルクを飲んでたら確実に噴き出していただろう。そういえばマロンという女の子は、少女マンガチックな頭をしていた。いつの日か白い馬に乗った王子様がマロンを迎えに来てくれるの! と、よく語っていたものだ。ナマエは首を横に振る。
「想いあってないよ、リンクはその、まだ子どもだし」
「子ども? 十分ナマエとつり合ってると思うよ??」
ああ、そうだ。と納得する。当たり前だがマロンはリンクが中身を伴わず成長していることを知らないのだ。マロンにはリンクが、精霊石の話や、王家に伝わる神話などは伏せて、世界を救うための重要な役割を担っていたのだが、突然消えてしまった。という風に伝えてあった。それにナマエの出生も、ここからすごい遠いところで生まれた、とだけ言ってあって、今の年齢よりも中身はずいぶん年をとっていることは言えていない。
「でもなあ……ここには随分お世話になったし、マロンやインゴーさんの負担が増えちゃう」
「そんなの気にしないでよ。ナマエの一人や二人いなくたって大丈夫なんだから!」
「わたしは一人だけどね! でもさ、タロンさんもまだ行方知れずなのに、わたし出ていけないよ」
マロンに気を遣わせてしまい、ナマエは申し訳ない気持ちになる。実際、驕りかもしれないがここでナマエがいなくなれば大変になるのは目に見えている。マロンは少し考えるようにうつむくと、やがて思いついたのか、ぱっと顔を上げた。
「じゃあ、こうしない? 妖精くんがお父さんを連れてきたら、ナマエは妖精くんと一緒に行く! これでどう?」
「うーん……」
実際にタロンが帰ってきたら、気を揉む要素は減るが、それではリンクの旅についていきたいかと言われれば、すぐに頷けないのが現状だ。
「ありがとう、マロン。色々考えてみるね」
けれどマロンの厚意はありがたい。彼女は本気でナマエの背中を一生懸命押してくれている。タロンが戻ってきて、インゴーが元に戻って、このロンロン牧場の人たちへの恩よりもリンクについていきたいと思えたら、もう一度自分の今後を考えてみよう。もしかしたら決める前にリンクは旅に出てしまうかもしれないが、それならばそれでいい。これまで通りロンロン牧場で働き、リンクに思いを馳せ、ガノンドロフを倒すその日を待てばいい。
「……それじゃあそろそろ寝るね、遅くにごめんねマロン」
「ううん、おやすみナマエ」
「おやすみマロン」
+++
なんだかリンクが気になってしまい、朝早くに起きてしまった。寝間着にケープを羽織って外に出ると、頬を撫ぜる朝の風が少し冷たい。門へ出てハイラル平原を眺めたが、人影は見当たらない。仕事を始めるにはまだ早い時間帯なので、朝食の準備を始めることにした。まだまだ時間はあるし、少し凝ったものでも作ってみようかな、と考えて張り切って始めた。
サラダに、コーンスープに、スクランブルエッグを作った。結局いつもと同じようなメニューになってしまったが、ナマエは料理を好んでする方ではないので、作っただけで今日の朝食当番であるマロンはさぞ驚くだろう。昨日カカリコ村で買ったパンを切ってる間にマロンがやってきて、「どうしてナマエが!?」という驚きの声を発した。
朝食が出来た後にインゴーがやってきて、三人で朝食を食べ始める。リンクがいつ帰ってくるかそわそわして待っていたが、食べている間も、食べ終わっても、やってこなかった。
「食器はマロンが洗っとくね」
「ありがとう」
ナマエはマロンの厚意に甘えることにして、牧場の入口まで行き、再びハイラル平原を見渡す。すると馬に乗った人の姿が遠く、カカリコ村方面から見える。しばらく待つと、どんどんと輪郭がはっきりとしていき、馬はエポナで、乗っている人はリンクに違いなかった。それにリンクは後ろに何かを載せているみたいだった。まさか、宣言した通り本当にタロンを連れてきたのだろうか。
「ナマエー!!」
リンクが近づきながら、名前を呼ぶ。ナマエも負けじと「リンク!」と名前を呼び、ぶんぶんと手を振った。
「ナマエ! お待たせ、タロンさんだよ」
ナマエの前で止まったリンク。その後ろには久方ぶりに見るタロンがいた。堪らず リンクがエポナとともに牧場を出た後、ナマエはマロンの部屋を訪れた。マロンはベットに腰掛けて、ナマエは木製の椅子に腰掛ける。二人でマロンの部屋でお話するときは、だいたいこの場所だ。
「妖精くんは?」
マロンは問う。
「タロンさんを探しに行ったよ」
「お父さんを!?」
まさかタロンを探しに行ったとは思わず、まあ、とマロンは大きく開いた口を隠すように手をかざした。
「でも、いいの? せっかく探してた妖精くんと会えたのに……」
「もちろんだよ! 会えたんだから、それだけで十分。また戻ってきてくれるし」
「そっかあ。ね、ナマエは、妖精くんについてくの?」
「んー……」
マロンからの問いにナマエは思考を巡らせる。自分の正直な答えを言えばマロンは絶対に反対するだろうし、気を遣わせてしまう。それはいやだった。マロンは大切な姉妹であり、友人だから、困った顔なんてさせたくない。そんなナマエの思惑を知ってか知らずか、マロンはナマエが答えるより前に言葉を紡ぐ。
「マロンはね、ナマエは妖精くんについていった方がいいと思うの」
「どうしてそう思うの?」
「だって、ずっと探してたし、妖精くんだってナマエと一緒にいたいと思うの。だって、ナマエと妖精くんは……想いあってるんでしょ?」
「おおおお想いあってる!?」
いまお茶を飲んでたら確実に噴き出していただろう。そういえばマロンという女の子は、少女マンガチックな頭をしていた。いつの日か白い馬に乗った王子様がマロンを迎えに来てくれるの! と、よく語っていたものだ。ナマエは首を横に振る。
「想いあってないよ、リンクはその、まだ子どもだし」
「子ども? 十分ナマエとつり合ってると思うよ??」
ああ、そうだ。と納得する。当たり前だがマロンはリンクが中身を伴わず成長していることを知らないのだ。マロンにはリンクが、精霊石の話や、王家に伝わる神話などは伏せて、世界を救うための重要な役割を担っていたのだが、突然消えてしまった。という風に伝えてあった。それにナマエの出生も、ここからすごい遠いところで生まれた、とだけ言ってあって、今の年齢よりも中身はずいぶん年をとっていることは言えていない。
「でもなあ……ここには随分お世話になったし、マロンやインゴーさんの負担が増えちゃう」
「そんなの気にしないでよ。ナマエの一人や二人いなくたって大丈夫なんだから!」
「わたしは一人だけどね! でもさ、タロンさんもまだ行方知れずなのに、わたし出ていけないよ」
マロンに気を遣わせてしまい、ナマエは申し訳ない気持ちになる。実際、マロンとインゴーの二人となると、大変になるのは目に見えている。マロンは少し考えるようにうつむくと、やがて思いついたのか、ぱっと顔を上げた。
「じゃあ、こうしない? 妖精くんがお父さんを連れてきたら、ナマエは妖精くんと一緒に行く! これでどう?」
「うーん……」
実際にタロンが帰ってきたら、気を揉む要素は減るが、それではリンクの旅についていきたいかと言われれば、すぐに頷けないのが現状だ。
「ありがとう、マロン。色々考えてみるね」
けれどマロンのご厚意はありがたい。タロンが戻ってきて、インゴーが元に戻って、このロンロン牧場の人たちへの恩よりもリンクについていきたいと思えたら、もう一度自分の今後を考えてみよう。もしかしたら決める前にリンクは旅に出てしまうかもしれないが、それならばそれでいい。これまで通りロンロン牧場で働き、リンクに思いを馳せ、ガノンドロフを倒すその日を待てばいい。
「……それじゃあそろそろ寝るね、遅くにごめんねマロン」
「ううん、おやすみナマエ」
「おやすみマロン」
+++
なんだかリンクが気になってしまい、朝早くに起きてしまった。用意をして外に出ると、朝の風が少し冷たい。牧場の中や外、いろいろ探してみたが、まだリンクは帰っていないようだ。仕事を始めるにはまだ早い時間帯なので、朝食の準備を始めることにした。まだまだ時間はあるし、少し凝ったものでも作ってみようかな、と考えて張り切って始めた。
サラダに、コーンスープに、スクランブルエッグを作った。結局いつもと同じようなメニューになってしまったが、ナマエは料理をそこまで好んで料理をする方でないので、作っただけで今日の朝食当番であるマロンは驚くだろう。パンを切ってる間にマロンがやってきて、「どうしてナマエが!?」という驚きの声を発した。
朝食が出来た後にインゴーがやってきて、三人で朝食を食べ始める。リンクがいつ帰ってくるかそわそわして待っていたが、食べている間も、食べ終わっても、やってこなかった。
「食器はマロンが洗っとくね」
「ありがとう」
ナマエはマロンの好意に甘えることにして、牧場の入口まで行き、ハイラル平原を見渡す。すると馬に乗った人の姿が遠く、カカリコ村方面から見える。しばらく待つと、どんどんと輪郭がはっきりとしていき、馬はエポナで、乗っている人はリンクに違いなかった。それにリンクは後ろに何かを載せているみたいだった。まさか、宣言した通り本当にタロンを連れてきたのだろうか。
「ナマエー!!」
リンクが近づきながら、名前を呼ぶ。ナマエも負けじと「リンク!」と名前を呼び、ぶんぶんと手を振った。
「ナマエ! お待たせ、タロンさんだよ」
ナマエの前で止まったリンク。その後ろには久方ぶりに見るタロンがいた。ナマエは堪らず声を上げた。
「タロンさん!!」
「ナマエ、わりぃことしただあよ。マロンはどこだあ?」
「ううん、いいの。マロンなら今食器を洗ってると思うよ」
「わかっただ。ありがとうな、リンク」
「いいえ!」
タロンはエポナから降りて、駆け足でマロンのもとへ向かった。その姿を見守ったあと、リンクもエポナから降りた。
「ただいまナマエ」
「おかえりなさい。早かったね、タロンさんどこにいたの?」
「カカリコ村のね、宿舎にいた。ナマエやマロンが探しに来ても言わないでって、村の人達に口止めしてたらしいよ」
「そうなんだ……どうりでみんな知らないって言うわけだ。ありがとうねリンク」
すっかり村人の言葉を信じていたが、どうやらタロンが先に根回ししていたようだ。してやられた。
「ナマエのためだ、なんだってするよ。それにしてもエポナはいい馬だ、ガノンドロフに渡したくないな」
リンクはエポナのたてがみを撫で付けると、顔をしかめる。勿論ナマエとてリンクと同じ意見で、ガノンドロフになんて渡したくないに決まっている。
「わたしもエポナはガノンドロフに渡したくない。エポナだけじゃない、何も渡したくない」
「よーし、インゴーさんに交渉してみよう!」
「……できるかなあ」
