11.大人びた君と少女の心

「リンク、泊まっていくでしょ。わたしはマロンの部屋にいくから、わたしの部屋、つかってよ」
「え、なんで? ナマエも一緒に寝ようよ」

 ドキッと心臓が痛む。いい年をした男女で同じベッドで寝るなんて……と、すっかりリンクを男として意識してる自分がいて戸惑う。見かねたナビィが『リンク!』と、慌てて名前を呼んだ。しかしリンクは不思議そうに首を傾げるだけだ。ナビィはナマエのそばへやってきてこそっと耳打ちする。

『ナマエ、この子見た目は大人だけど、中身はあのころのまんまだから……ネ』
「なるほど、そうだよね……」

 そう、七年間眠らされていたわけだから、七年前と中身は何ら変わらないわけだ。けれどすっかりと美しい男性に成長したリンクに言われると、どうしたって意識してしまう。なんとタチが悪いのだろう。

「ああでも、中身がそのまんまなら、一緒に寝ても問題ないよナビィ」
『? どういうこと、ナマエ』
「なんでもない。積もる話もあるし、わたしの部屋で寝よう」

 中身があの頃のままならば、大人が思いつくようなやましいこと、リンクは思いつきもしないはずだ。結局ナマエは同じ部屋で寝ることにした。簡単な食事を用意してナマエの自室に運び、二人は食事を摂る。リンクはナマエの二倍の量を、二倍のスピードで食べた。むしろ食べ終わったのはナマエのほうが遅かった。

「ごちそうさま、おいしかったー!」

 リンクは腕を伸ばしながらごろりとベッドに寝転がった。

「おそまつさま。あーほらリンク、食べてすぐ寝っ転がらない」
『ナマエは相変わらずお姉さんみたいね、ナビィ安心しちゃったヨ。ちょっとお出かけしてきてもいい?』
「いいよ、ハイラルも変わったから、色々見ておくといいと思う」

 ナビィが部屋の小窓からふわりと飛び立った。ナマエは食器をキッチンへ持っていき食器を洗い、部屋に戻るとリンクは相変わらずベッドに寝転がっていて、ナマエはその隣に腰かけた。

「ベッドなんて久々だなあ……」
「リンクってば」

 もともと美少年の部類だったであろうリンクは、今は美青年に成長した。さらさらの金髪に、つんと尖った鼻先、どこまでも綺麗な澄んだ青い瞳。ああ、ずるい、とぼんやり思った。

「ナマエ」
「なあに」
「ナマエが元いた世界って、どんなところだったの」

 リンクが上体を起こしてナマエの隣に並び座った。「リンク、泊まっていくでしょ。わたしはマロンの部屋にいくから、わたしの部屋、つかってよ」
「え、なんで? ナマエも一緒に寝ようよ」

 ドキッと心臓が痛む。いい年をした男女で同じベッドで寝るなんて……と、すっかりリンクを男として意識してる自分がいて戸惑う。

『リ、リンク! ナマエ、この子見た目は大人だけど、中身はあのころのまんまだから……ネ』
「そうだよね……」

 そう、七年間眠らされていたわけだから、七年前と中身は何ら変わらないわけだ。けれどすっかりと美しい男性に成長したリンクに言われると、どうしたって意識してしまう。なんとたちが悪いのだろう。

「ああでも、中身がそのまんまなら、一緒に寝ても問題ないよナビィ」
『? どういうこと、ナマエ』
「なんでもない。積もる話もあるし、わたしの部屋で寝よう」

 中身があの頃のままならば、大人が思いつくようなやましいこと、リンクは思いつきもしないはずだ。結局ナマエは同じ部屋で寝ることにした。簡単な食事を用意してナマエの自室に運び、二人は食事を摂る。リンクはナマエの二倍の量を、二倍のスピードで食べた。むしろ食べ終わったのはナマエのほうが遅かった。

「ごちそうさま、おいしかったー!」
「おそまつさま。あーほらリンク、食べてすぐ寝っ転がらない」
『ナマエは相変わらずお姉さんみたいね、ナビィ安心しちゃったヨ。ちょっとお出かけしてきてもいい?』
「いいよ、ハイラルも変わったから、色々見ておくといいと思う」

 ナビィが部屋の小窓からふわりと飛び立った。残されたリンクはベッドにごろんと横になっていて、ナマエは食器をキッチンへ持っていき食器を洗い、部屋に戻るとリンクは相変わらずベッドにごろんと寝転がっていて、改めてリンクと会えたのだという事実が胸を暖かくする。ナマエはそのベッドに腰かけた。

「ベッドなんて久々だなあ……」
「リンクってば」

 もともと美少年の部類だったであろうリンクは、今は美青年に成長した。さらさらの金髪に、すらっと通った鼻筋、どこまでも綺麗な澄んだ青い瞳。ああ、ずるい、とぼんやり思った。

「ナマエ」
「なあに」
「ナマエが元いた世界って、どんなところだったの」

 リンクが身体を起こしてナマエの隣に座った。ナマエは考えを巡らせる。

「どんなところ、か。少なくともこことは全然違った。みんなみたいに耳は尖ってないし、建物とかがいっぱいで、学校っていう、お勉強を習う施設があって、わたしたちぐらいの年の子はほとんど学校へ行ってた。喋ることが出来るのは人間だけで、ゴロン族とか妖精とか、そういうのはいなかったよ」
「へえー……いつかいってみたいな、ナマエの世界も」
「そしたらきっとリンクはモテモテだと思うよ」
「もてもて? なにそれ」
「いろんな女の子がリンクを好きーってなること」

 こんな美青年がいたらそこら中の女の子が放っておかないだろう。

「へえーそれいいな」
「ん、そうね」

 嬉しそうに微笑んでいるリンクに勝手ながら腹が立つ。言ったのは自分だが、嬉しそうにされるとなんだか癪だった。

「ナマエも好きになってくれる?」

 大きな碧い瞳が、ナマエを期待の籠めて見つめる。そんな目で見られてしまっては、頷かないわけにもいかず小さく頷いた。けれどあながち嘘でもない。きっとリンクみたいな男の子がいたら、意識するに決まっている。

「やった! ナマエが俺のこと好きなら、それでいいや」
「そ、そう?」

 そう言われると、満更でもない。ナマエは口角が上がるのを感じた。

「……なんかさ、俺、さっきから変なんだよね」
「どうしたの? 風邪?」
「なんか、よくわかんない。いいや。ねえナマエは俺についてきてくれるよね?」

 リンクの言葉に胸がずんと重くなる。脳裏に浮かぶのは、あの日自分を庇って倒れたリンクの姿だ。忘れられない、忘れてはいけない、あの日の姿。ゆっくりと、自分の中の思いを言葉に落としていく。

「……ずっと、考えてるんだけどね、もちろんリンクについていきたいんだけど、でもロンロン牧場にもお世話になったし、リンクの冒険の足手まといになっちゃうかなって思うの」

 ずっと探してたし、ずっと会いたかったけれど、冒険についていきたいかというと、答えはまだわからない。自分の無力さならよくわかってるし、もう二度と自分を庇ってリンクに怪我してもらいたくなかった。
 それにこのロンロン牧場、今ナマエがここから出てしまっては、この牧場はどうなってしまうのだろう。タロンもいなくなり、インゴーもあんな調子だ。マロンが大変な思いをすることになる。それは絶対に嫌だった。

「牧場の人なら、俺が説得する。足手まといだなんて思ったこと、俺は一度もない」
「でも、リンクが思ったことなくても、わたしは感じるよ。いる意味ないんじゃないかな、って」
「ナマエ!」

 そんなこというな、と嗜めるように名を呼ばれてナマエは黙り込む。

「俺にとってナマエって、そうじゃないんだよ」
「そうじゃない、って?」
「なんていえばいいんだ、あー、なんていうか、ナマエは、そばにいてくれればそれでいいんだ」
「でも……」
「一生“でも”っていうな!」

 少し大人びたことを言ったと思ったら、今度は子どもの言いそうなことを言い出した。見た目は大人で中身は子どものリンクの緩急にはまだ慣れないものの、あの頃のリンクを思い出して胸が暖かくなる。リンクは言葉を続ける。

「ナマエがそばにいないと、気が気でないんだ! 大切な人は俺のすぐそばで、俺自身の手で守りたい! 離れ離れなんか、二度といやだ」
「リンク……」

 リンクに肩を掴まれて、真剣そのものの目で見つめられて、情けなくもどきっとしてしまう。何年生きてるんだ、これぐらいのことでどきどきして、緊張するなんて、らしくない。少女じゃあるまいし。

「――――っ! リンク、そうだ、エポナ覚えてる? あの子も成長したんだよ。見に行こうよ」

 結局ナマエは緊張に負けてそそくさ立ち上がって、リンクの手をとって部屋を出た。

「へえ、エポナ、懐かしいな!」

 すっかりとその気になったリンクがウキウキと目を輝かせた。
 そしてカンテラを片手にやってきたのは馬小屋。エポナの前にやって来ると、リンクはエポナの姿に歓喜した。すかさずリンクはオカリナを取り出して、エポナの歌を奏でた。するとエポナもリンクのことを思い出したのか、顔をリンクにすりよせてきた。そんな二人の様子を見ながら、ナマエの脳裏に献上の事が思い浮かんで、心に暗い影を落とす。

「……でもエポナ、もうすぐガノンドロフの馬として献上されちゃうの」
「なんだって!」

 ガノンドロフ、という言葉にリンクの顔が歪んだ。ナマエはぽつりぽつりと事情を説明する。

「いまね、インゴーさんがガノンドロフに認められて、ここの牧場主になったの。それでタロンさんがショックを受けちゃってどっかいっちゃって……。それで、エポナが献上されることが決まって。いま、ロンロン牧場は大変なんだ」
「……そうか」
「インゴーさん、いい人なのに、最近人が変わっちゃって。きっとガノンドロフに認められたことで、頑張らなきゃ、ってなってるんだと思う」

 少し神経質なところと、苦労人なところはあるが、インゴーはいい人だった。記憶の中のインゴーと、いまのインゴーがあまりにかけ離れていて、ナマエの胸にちくりと針が刺さったような痛みが走る。

「なるほど……。ナマエ、エポナを借りてもいい?」
「エポナかあ……どれくらいの間?」

 献上の件でインゴーが少しエポナに対して神経質になっているので、あまり貸したくはないというのが本音だ。

「明日には戻るよ」
「今から? もう夜だよ」
「善は急げっていうでしょ」

 このリンクの行動力には懐かしさを感じる。そうだ、リンクはいつだって思い立ったら行動だ。とはいえ、本当はほかの馬に乗ってほしいが、なんだかガノンドロフに屈しているようで嫌だった。もしなにかインゴーにいわれたら、よく走る馬ほどいい馬だよ、とでも言って誤魔化せばいい。

「わかった、いいよ。でもどこにいくの?」
「タロンさんを探しに行く」
「ええ! ほんとうに? でも手がかり全然ないんだよ……?」
「うん。俺に任しといて!」

 にこっと笑ったリンクの笑顔はやっぱり昔のままだった。