なんて言葉を最初にかけようか。どこいってたの、怖かったよ、会いたかったよ。七年間で彼に言いたいことは日に日に増えていったから、何から言えばいいかわからない。そわそわとはやる気持ちを抑えながら、エポナとともにロンロン牧場への道を行く。日はゆっくりと傾き始めているが、夕方前にはロンロン牧場にたどり着くだろう。あの頃からそれなりに経験を積んできた。それにエポナもいる。もう魔物なんて怖くない。
予想した通りの時間に牧場へ戻ってこれた。もうすぐ夕暮れでハイラル平原が赤く染まる頃だ。今すぐにでもリンクを探したい衝動を抑えながらも、ひとまず買い出ししてきたものを馬車からおろして、定位置において馬車を片付ける。そのあいだもずっと胸が忙しく動いていて、寿命はどれくらい縮まっているんだろう、なんてぼんやり考える。そしてエポナを連れて、放牧場の中へとゆっくりと向かう。放牧場の入り口にはカルシウムが足りてなさそうなインゴーが立っていて、中にはいつも通り馬が何頭かいて、マロンが馬小屋に戻すために手綱を取って歩いている。それからその横には……
「ッ!」
緑の服に、緑の帽子をかぶっている男がいる。帽子からは金の髪がのぞき、そのまわりには一匹の妖精がいる。妖精が男に何かを話しかける。するとすごい勢いで男がこちらを見た。その顔を見て、ナマエはとうとう気持ちが抑えきれなくなった。
「リンク……!」
「ナマエ!!!!」
二人はお互いに駆けより、どちらともなく抱き合った。ぼろぼろと涙がこぼれて、何度も何度もリンクの名前を呼んだ。それに応えるようにリンクもナマエの名を呼ぶ。
「会いたかった……会いたかったよ!」
「ナマエ、俺も会いたかった、探してた!」
マロンがそんな二人を見守りつつ、エポナを連れていき馬小屋へ戻し始めた。ゆっくりと日が傾いていき、夕暮れで辺りがオレンジ色に染まっていく。ナマエは彼の存在を確かめるように抱きしめながら、リンクにかけたかった言葉を投げていく。
「探したよ、待ってたよ、今までどこにいたの……!」
「詳しいことは後でいうよ、とにかくいまは、ナマエと会えたことが嬉しいんだ……」
七年の歳月は彼を大人へと変えた。昔はナマエと同じくらいの大きな背だったのに、今ではナマエを包み込めるほど大きくなっていた。
落ち着きを取り戻したころにはもう夜の気配が迫っていた。二人はナマエの部屋に移動すると、ベッドの上に座って今までのことを話しあった。
なんと、リンクは剣……マスターソードを抜いてから七年間、眠り続けたのだった。マスターソード―――それは、聖地への最後のカギで、時の勇者の資格があるものだけが抜ける退魔の剣。しかし、時の勇者としてはまだ幼すぎたあの頃のリンクは、ラウルという、時の神殿を作り、聖地と繋いだ光の賢者によって眠らされていたのだった。そして結果、リンクが開いた聖地への扉からガノンドロフが侵入し、トライフォースを手に入れた。
そしてガノンドロフを倒す最後の希望、それは呪われた神殿を開放し、封印された賢者たちを目覚めさせること。
「あれおかしいな……でもわたし、聖地への扉、なかったような」
何せ七年前なので記憶があいまいだが、けれどそんな扉があったら絶対に覚えているし、聖地へ続く扉だろうと思うはずだから見逃すはずがない。とにかく、マスターソードを抜いたあと、リンクが忽然と消えてしまったことだけが強く記憶に刻まれている。
「それなんだけど……」
リンクが表情を曇らせる。
「聖地への扉は、この世界の人間にしか見えないし通れないらしいんだ」
ナマエの胸が深く脈づいた。
「ナマエ」
「そうだね、隠す意味なんてないよね。……わたし、違う世界からきたの」
リンクも予想はできていたのか、さほど驚いた様子は見せず、むしろ納得したような表情を見せた。
「……ナマエがこの世界の人間じゃなくても、俺がナマエを守るっていうのは変わらないから」
声が低くて、不覚にもリンクに男を感じた。リンクはそんなナマエに気づくことなく言葉を続ける。
「俺が目覚めてから、ナマエがいなくて、ずっと探してたんだけどいなくて」
「うん……」
「やっとみつけた。もう、離れたくない……」
隣りに座っているリンクにやさしく抱きしめられた。どきどきどきどき、突然のことに頭が真っ白になる。昔は抱きしめたって手を繋いだって何も感じなかったのに。むしろ照れてるリンクをからかっていたというのに。
「わたしも、離れたく、ないよ」
こんなにどきどきするのは、久々に会えたからだ、と言い聞かせた。リンクは離れると、ナマエを見つめた。その表情には少年の面影が残っている。
「ナマエはずっとここにいたの?」
「うん。知ってる人、マロンしかいないから、ここにきた」
「七年間も待たせちゃったんだね、ごめんね」
「ううん、いいの、こうして迎えに来てくれたんだから」
「怪我はない?」
「わああー懐かしいセリフ! うん、ないよ、リンクはない?」
「ない! 元気!」
姿はすっかり大人になったが、やはりリンクはリンクだ。幸せな気持ちが頭の先から爪先まで広がっていった。
