「大臣! ほら、エルフの薬よ!!」
「おおお! 姫様!! よくやってくれました!!!」
サントハイム城に帰ってきて、真っ先に王座に駆けつけて、王の傍に控えていた大臣にさえずりの蜜を見せる。そして王座に座るサントハイム王のところまでやってきた。王は笑顔を浮かべてアリーナの手を握った。
きっと、ありがとう。と伝えているのだろう。アリーナから薬を受け取り早速口に含み、ゆっくりと嚥下する。王の様子を誰もが固唾を飲んで見守る。
「ぁ……あ……おお! 声が、声が出る!!」
王が久々に声を発した。嬉しそうに声を出した王の姿を見て、大臣が思わず感泣した。本当によかった、とナマエとクリフトは手を取って喜び合う。
心なしか以前よりも美しい声になった気がするその声で、王はずっと言いたかった事を語りだした。
「アリーナ、ナマエ、クリフト、ブライ。本当にありがとう。心から礼を言うぞ。実はな、わしはとてつもなく恐ろしい夢を見たのじゃ」
―――巨大な怪物が地獄から蘇り、すべてを破壊するという夢を何度も見るようになった。不安になり、大臣にそのことを話そうとした途端、声が出なくなったのだった。筆談しようにも、書こうとすると、何者かが邪魔するように書けなくなってしまう。
「もしかしたら、わしらの知らぬところで何かが起ころうとしているのかもしれん……。何か、悪い事が」
そこまで喋り、王は真剣な表情で黙りこんだ。予知夢、という言葉がある。一度ならず、何度も見るということは、それは何かを暗示しているのだろうか。
ナマエは鼓動が早くなるのを感じた。世界が、少しずつ変わり始めているのかもしれない。そう考えるとぞっとした。最近魔物が増えたとか、凶暴になったとか、噂はよく聞いていた。もしかしたらそれが関係あるのかもしれない。
今、何か悪い事が起ころうとしている。その片鱗を今見ているのかもしれない。
「もうわしは、止めたりせぬ。アリーナよ、世界の様子を見てまいれ。ナマエにブライにクリフト、アリーナを頼むぞ!」
アリーナのほんの力試しの旅は、変わりはじめた世界を視察する旅に変わった。王のただの夢ならばいいのだが、どうやらそういうわけにもいかなそうだった。それはここにいるすべての人が感じていた。なんとなくわかるのだ。身体が、感じるのだ。ナマエ、ブライ、クリフトは口々にわかりました! と叫ぶ。
アリーナは大きく頷いて、どんと胸を叩いた。
「任せてよ! そうだお父様、あたしエンドールに行きたいの。あそこの旅の扉を解放してくれない?」
あそこの、というのは砂漠のバザー東に位置する、サントハイムが管理する旅の扉のことで、サントハイム大陸からエンドール領に行くにはその旅の扉を使うか、船で移動するしかなかった。旅の扉が解放されたら晴れてサントハイム大陸から外へ飛び出すことができる。
「ああ、構わないぞ。すでに使いの者に言付けをしておいたから、行ってまいれ」
王の笑顔を見て、アリーナがやったー! と飛び跳ねた。これでアリーナのエンドールの武術大会での力試しが公認された。
