「おはようナマエ」
「おはようございます、ジョナサンさま」
朝廊下ですれ違いざまに、ジョナサンさまに挨拶をされました。わたしは立ち止まり、頭を下げて挨拶をします。頭を上げると、ジョナサンさまの後ろからディオさまがやってきていました。昨日の出来事が思い返されて、一瞬どきっとしてしまいました。
「おはようナマエ、それにジョジョ」
ディオさまがジョナサンさまの隣に歩み寄りながら、挨拶してくださいました。昨日あの後、身体が離れた後、「おやすみ」とディオさまが言ってすたすたと自分のお部屋に戻って行かれました。
わたしはしばらく動けないでいたのですが、はっと我に返って自室に戻ったのでした。あれは一体、何だったのでしょうか……? 男性に抱きしめられる経験なんて初めてで、わたしにとっては大事件だったのですが!
「やあ、おはようディオ」
「おはようございます、ディオさま」
再び頭を下げて、挨拶をします。
「ナマエ」
名前を呼ばれて頭を上げれば、ディオさまがきれいな笑顔を浮かべて人差し指を立てて口元に持っていくと、ウインクをなさいました。すなわちそれは、わたしたちの間に交わされた秘密の確認であることに気づきました。わたしがジョナサンさまを好きなことは、自分の胸の中にあるからね、といった具合の。
わたしは笑顔を浮かべると、ひとしきり頷きました。
「? どうかしたのかい??」
「いっいえ、なんでもないんです!」
わたしは慌てて手を横に振ります。不思議そうな顔でわたしを見るジョナサンさんの隣で、ディオさまがくすっと笑いました。
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この女がジョジョのやつのことを慕っているのだろうということは目に見えてわかった。しかし簡単にジョジョから取り上げ、ぼくのものにするには少しもったいない気がした。そう簡単にぼくのものになってしまっては、面白くないじゃあないか。
徐々に、徐々に、女の気持ちをこのディオに向かせていこうとぼくは考えた。この家での面白い暇つぶしになるだろう。
絶対に自分の味方であると思っていた女が、のこのこと現れたぼくを好きになったらどんな気持ちになるのだろうなぁ? それにこの家じゃあぼくは紳士であるように思われている。このディオの野望がばれてしまっては、この家での立場が危うくなってしまう。それはまずい。自分の目の前で頭を下げているナマエに、一種の快楽を見出しつつ、
「ナマエ」
と名を呼んだ。それに合わせて彼女が顔を上げたので、ぼくは片目をつぶって合図を送る。それに対しナマエがはにかみながら頷く。
「? どうかしたのかい??」
「いっいえ、なんでもないんです!」
追及を拒む様子に、ジョジョが面白くなさそうな顔をする。
そうだ、貴様にはわかるまい。ぼくとナマエとの間にある何かが。その、疎外感を感じる様子すらぼくには甘美なのだよ。
こみあげてくる笑いを抑えきれず、ぼくは少し笑った。すたすたと逃げるように駆け出したナマエの後姿を見送りつつ、ぼくとジョジョは朝食を食べに向かう。
「ナマエの様子が少しおかしかったけど、ディオ、君は何か知っているかい?」
「ああ、知ってるぜ。だが君には教えない」
優越感を覚える。そうだ、その顔が見たいのだ。その敗北を味わっているその顔を。どうだ? お前の周りのものが徐々にぼくに傾いていく様子は。
「……そうか。ナマエと仲良くなったんだね、彼女はいい子だから、よくしてやってくれないか?」
「ああもちろんさジョジョ。彼女とは仲良くなれそうだ」
彼女には手を出すんじゃあない、ということか。あっぱれだな、そのクソみたいな紳士の心。
だからぼくは、お前が嫌いだ。
「さあ、朝食を食べに行こうぜ」
強制的に切り上げて、ぼくは歩き出した。
