「たらいまあ〜」
ガチャ、と鍵が開く音が聞こえて扉が開いたと思ったら、やけに間延びした声が聞こえてきた。相澤は瞬時にスマホを確認するが、何の通知もない。トークアプリを開いても、相澤が最後に「終わる時間がわかったら教えて」と送ったきりになっていて、既読はついているようだった。
―――連絡しろっつったのに。
ため息をひとつ吐いて立ち上がり、玄関まで出迎えれば、案の定真っ赤な顔で楽しそうに左右にゆらゆら揺れている。彼女を目の前にして、さてどうするか、と相澤は考えを巡らせる。今説教したところで彼女が覚えているとは思わないから合理的ではない。エネルギーの無駄遣いだ。風呂に入らせるにしても、そのまま寝てしまいそうだ。ならば―――
「おかえり。着替えて寝るぞ」
「ん〜〜」
怒りはひとまず押し込んで合理的提案をすれば、彼女からは分かってるのか分かってないのか判断がつかない声が上がる。そして真っ赤な顔を破顔させると、持っていたハンドバッグを雑に置いて両手を広げた。
「抱っこ」
相澤は盛大にため息をつくと、雑に担ぎ上げてベッドルームへ向かい、ベッドに放り投げた。
「ひどぉい、投げたね今」
若干呂律の回ってない口で恨み言を呟くものの、その顔は変わらず締まりのない幸せそうな酔っ払いの顔だ。
名前はベッドの上で気だるげにアウターを脱いでベッドの下へぞんざいに放ると、正座をして両手を広げて相澤を見据えた。
「ねえ、きて」
何を考えているのかわからないが、ベッドの上に誘われているらしい。無視することも考えたが、結局相澤は無言で歩み寄る。ベッドのそばに立って見下ろせば、名前は相澤の腕を掴んだ。
「ぎゅーして」
甘えたい気分、なのだろうか。敢えて拒んだっていいが、素直に甘えてくる様は見ていて悪くない。だからお望み通り抱きしめることにした。ベッドの上に腰掛けて、抱きしめる。相澤の腕の中にすぽっと収まった名前から、「うふふ」と幸せそうな声が聞こえてくる。
「ねえ、消太くん」
名前を呼ばれたので抱きしめるのをやめて名前を見ると、上目遣いにこちらを見ている。
「触って……?」
挑戦的だが粉砂糖くらい僅かに恥じらいをまぶしたような表情で、名前の熱い手のひらが相澤の腕をぎゅっと握る。
「何を」
「ここ」
そういって、片手でニットの裾をたくしあげると、もう片方の手を使って相澤の右手を膨らみへと誘った。ブラジャー越し、押し付けられたそれは平時の体温よりも熱くて、むにゅっと圧力で形を変える。
「消太くん、触って」
触って、というか、触らされている。
蠱惑な表情で、潤んだ瞳で、艶っぽい声色で、相澤を惑わせる。こんなにも積極的に自ら誘ってきたことが未だかつてあっただろうか。いや、ない。
今日、彼女とするつもりはなかった。むしろ寝させようとしていたのだ。だというのに、酔っ払いとはいえこんなにも彼女から誘われて、もはやしないで寝るという選択肢はないように思えた。好きな女から誘われて断る男なんているのだろうか。少なくとも相澤は無理だ。現に下半身は下着越しに乳房を押し当てられた時点で反応を示している。
「んっ……」
しかも懊悩するように目元を閉ざし、漏らす声はなんとも色っぽい。気がつけば相澤は吸い寄せられるようにキスをしていた。
彼女の柔らかな唇が甘えるように吸い付いてくる。キスをするたびに相澤は、食べてしまいたい、と思う。そのままベッドに押し倒して、彼女に覆い被さる。舌を侵入させれば、彼女の舌も迎え入れてくれて、甘やかな吐息が漏れ出る。
名前は相澤の手を自分の乳房へさらに押し付けて、相澤に胸を揉ませようとする。まるで彼女の自慰行為を補助しているようで、それはそれで興奮してしまう。
相澤は性急な動きでブラジャーを上にずらせば、そこに現れた尖りを指で刺激する。
「んう……あ、いい、ああ……っ!」
輪郭をなぞるようにくるりと指でなぞれば、途端にそこは勃ち上がる。それを捏ねて、弾けば、彼女の口からは甘やかな声が溢れ出て、相澤の鼓膜を刺激する。まるで楽器みたいだ。
相澤の興奮を伝えるように怒張した相澤の下半身を押し付ければ、名前の足が絡まってくる。
顔を離して名前の顔を見る。目を瞑ってただひたすらに快楽に浸っているような表情はとても扇情的で、相澤はたまらず息を呑む。
両の手でそれぞれの乳房を揉みしだけば、乳首が擦れて気持ちいいのか一際甲高い声で嬌声をあげて、身体を捩る。
「あっ、気持ちい、消太くんの手、おっきい」
こんな風に欲望に忠実な姿を見るのはなかなかお目にかかれない。可愛くて、愛おしくて、めちゃくちゃにしたくなる。己の中で生まれた衝動をなんとかいなしながら、彼女のニットを、下着を、順々に脱がしてあっという間に一糸纏わぬ姿になる。
「消太くんも脱いで、はやく、欲しい……」
「脱がしてよ」
少し意地悪を言えば、彼女は素直に起き上がって、相澤の上のスウェットを脱がした。
それから彼女は相澤の両頬に手を添えて優しくキスをすれば、その手は少しずつ下へと降りていく。
頬から首、鎖骨、腹筋。ひとつひとつ、相澤の質感を確かめるように。そしてその手は熱く膨らんだそこへとたどり着いた。最初は優しく、昂りを確認するように触れて、今度は布越しに輪郭を握り込む。それだけで、名前のナカを思い出して、身体が熱く疼いていく。
「かたいね」
嬉しそうにつぶやいて、相澤を見上げた。欲情を溶かし込んだような甘くとろけた瞳とぶつかって、その欲の度合いを感じとると、それが相澤にも伝播したように一層深いものになる。下の衣服も全部脱ぎ去れば、二人は生まれたままの姿でベッドで絡み合った。相澤とは違う、すべらかで柔らかい身体。体温というのはなぜこうも温かくて安心するのだろうか。裸で抱き合うたびに相澤は深い安堵を覚える。いつもと違うことといえば、相澤の上に名前が乗っていることだ。
「ねえ、挿れていい……?」
屹立したそれをやわやわと撫で上げながら、名前が尋ねる。交わりの最中で彼女が上になることはたまにあるが、初めから彼女が上に乗るのは初めてだった。
「どうしたんだ、今日は随分積極的だな」
「だめ?」
「だめじゃないよ」
やったぁ、と微笑んで、彼女は相澤の性器を優しく握って、その上に蜜口を当てがう。熱くてぬるぬるとしたものが亀頭に触れて、堪らず息が止まり腹筋に力が入る。まだ触ってないのに、彼女の秘部は愛液で充溢していて、準備は整っているらしい。―――まあそれは俺も同じか、と彼女の手の中にある自身の昂った性器を眺めて思う。
「挿れるね」
そう言って先端を埋めた。途端、甘やかな刺激が電流のように身体中に伝わっていく。彼女も同じなのか、懊悩するように眉根を寄せて「んっ」と声を漏らす。
「んっ……あ、ああ……っ」
名前は吐息と共に淡い嬌声を漏らしながら少しずつ沈み込み、相澤のモノを咥えていく。その様をじっくりと見つめれば、あまりに淫靡な光景に相澤の性器はより一層かたくなる。
ゆっくりと、相澤の屹立が彼女の熱に抱き締められれば、あまりの気持ちよさに脳が灼ききれてしまいそうな心地になる。ゆっくりなのがかえって気持ちよさを増長させていて、もしわざとやったのだとしたらなかなかのテクニシャンだし、たまたまだとしたら天性の魔性だ。すべて咥え込むと、名前は息を吐いた。
「……入ってるだけで気持ちいい」
「これで満足か」
「ううん」
名前は首を振って、相澤の腹筋に手をつくと、ゆっくりと腰を持ち上げた。
「動いたらもっと気持ちいいから」
そう言って、自重で腰を落とす。ぐちゅ、と粘膜と粘膜が擦れる音をさせながら、彼女はピストンを繰り返す。性器に与えられる断続的な刺激もさることながら、相澤の上で乳房を揺らしながら喘ぎ、淫らに上下する名前の扇状的な姿にも、相澤の身体は昂っていく。
「あっ、あ、や……んっ、あぁっ!」
「くっ……」
堪らず隙間から漏れ出た吐息は、相澤の余裕のなさを表すようだった。気を抜けばあっという間に達してしまいそうで、歯を食いしばって耐える。
彼女の腰を持って、今度は相澤が下から突き上げる。ぱちゅ、と音を立てて肌と肌がぶつかる。
「あぁっ!! 下から突かれるの、きもち、い……っ!」
あまりに気持ちがよさそうなので、相澤は突き上げながら名前の陰核を擦ってやる。すると、悲鳴にも似た喘ぎ声が彼女の喉から弾け飛ぶ。
「ひゃっ!! や、だめ、それ、だめえ……っ!」
強い刺激に彼女は上下運動を止めて、なんとか身体を支えながら相澤の突き上げと指での愛撫を享受する。
「イク、だめ、イキそう、イ……くっ!!!」
喉を大きく逸らして、名前は果てた。膣が激しく収縮して、相澤の性器を深く締め付ける。
やがて萎びた植物のようにくたっと相澤の上にしな垂れた名前をベッドに寝かせて、攻守交代だ。名前の両膝を持ってぐいっと開いて、まだヒクヒクと収縮を繰り返している膣口に容赦なく相澤の楔を打ち込んだ。
「あっ!! ま、ってぇ、まだ、イってる、イってるのぉ……!」
ぐちゅ、ぐちゅ、卑猥な音を立てて身体を打ちつけて、彼女のナカを犯していく。
「イってすぐに突かれるの好きでしょ」
「あ、あっ、うん、だいすき、だいすきい……っ!!」
酔った彼女は欲望に忠実で、なんと可愛いのだろうか。ただひたすらに、貪欲に、身体を気持ちよさで満たしていくことに夢中になっている。相澤から与えられるものすべてを、余すことなく飲み干しているようだった。
「アホ、あんまり煽るな」
そんなに可愛くて淫らな姿を見せられては、ぐちゃぐちゃになるまで抱いて、壊してしまいたくなる。恐ろしい衝動はもちろん胸の内だけで止まるが、そんな風に誰かのことを強く思うなんて、自分でも驚きを禁じ得ない。
そして少しずつ果てが近づいてくる。それは名前も同じようで、「ぎゅっとして、ぎゅっとしながらイキたい……っ!」と懇願されたので、相澤は彼女に覆いかぶさった。名前の腕が背中に回されて、まるで溺れてしまいそうな人が必死にしがみつくみたいに抱き締められる。
首筋に唇を寄せて吸い付きながら、すぐそこまできている果てに向かって熱い楔を打ち続ける。粘膜が擦れる音と、肌と肌がぶつかり、弾ける音が断続的に響き渡る。
「またイク、イク、あっああ………っ!!!!」
「………くっ!」
やがて全身に強い快感が迸り、白濁が名前の胎にぴゅくぴゅくと解き放たれる。それをすべて飲み干すかのように、名前の膣壁が吸い付いて、収縮を繰り返した。目を瞑れば、眼裏がちかちかと明滅する。射精の余韻に浸っていると、名前は腕だけでなく、足まで相澤に絡みついてきた。挿入がぐっと深くなる。
「ぜんぶ、ちょうだい……、消太くんのぜんぶ」
「……はぁ、欲しいだけやるよ」
射精した後の泥濘のような思考で、酔っ払った名前は些か刺激が強いな、なんて考えながら、名前の額にキスを落とした。
程なく寝息が聞こえてきて、それに引っ張られるように相澤の意識も少しずつ眠りの海へと誘われていく。今日は振り回されてばっかりだが、たまには悪くない。たまには、だが。
