名前を組み敷く男の表情も、顔色も、至っていつも通りのフラットだ。けれど彼が酔っているということを名前は分かっている。そして次の日、目覚めた時には彼の頭から記憶がすっぽりと抜けているということも。
「ね、消太くん、ちょっと」
だから、今されていることも、明日の朝には名前だけが覚えていることとなるのだろう。今、名前はすべての服を脱がされた状態で、捕縛布で至るところを縛られてベッドに横たわっている。
両手首は頭の上で一つにまとめられて、両足はM字になるように左右に開かれて固定されている。加減されているため痛くはないが、自力で解くことは出来なさそうだ。まさか彼が使っている捕縛布で自分が縛られる日がくるとは夢にも思わなかった。
「恥ずかしいから解いてよ……」
秘部が丸出しなのが恥ずかしすぎて今すぐ足を閉じたいのに、それが叶わない。閉じようとすれば、捕縛布がぴんと張ってそれを遮る。
「大丈夫」
相澤は短くそう告げて、ぎしりとスプリングを軋ませながら近づいてくる。何が大丈夫なの、という問いを投げかける前に、相澤の指が剥き出しの乳房の尖りに柔く触れた。
「あっ」
ぴりりと甘い痺れが迸る。刺激を受けてみるみるうちにぷくりと膨れ上がる蕾は、もっともっとと欲しがっているようだった。
相澤のおおきな手が乳房を揉みしだく。ふにゅ、ふにゅ、と手の動きに合わせて形が変わる。そして片方の蕾にざらりとした感触。
「ひぁッ!!」
舌全体を使って、膨らんだ突起を相澤が舐めている。強い刺激に堪らず身体を捩らせるが、相澤の愛撫が止まることはない。今度は舌先でつついたり、輪郭をなぞるように舌を這わせたり、あの手この手で舐め上げる。
「あっ、あ……! や、やめ」
我慢できずに漏れ出る声。相澤は一頻り舐めると顔を上げて、今度はもう片方の尖りを愛撫する。先程まで舐めていた蕾は、今度は指でいじり出す。唾液が潤滑油がわりになって、甘やかな刺激が断続的に名前の身体に蓄積していく。
「んっ、ふぅ……!」
舌先で、指先で、甘くて優しい愛撫がもたらすのは脳が痺れ、壊れてしまいそうな程の怖い快感だ。鼻から抜けるような甘い声が止められない。やがて突起をいじっていた指はつぅっと下へと移動していく。素肌を撫でるその柔い手つきはくすぐったいと気持ちいいを行ったり来たりする。
「やっ、くすぐったい、よ……!」
その手はやがて無防備に晒し出された秘部へと到達した。相澤は乳首を舐めながら、指先でつうっと蜜口を撫でると、にゅるりという感覚が名前にも伝わってきて、随分と濡れていくことがわかった。身体は正直で、待ち焦がれて涎を垂らしているみたいに思えた。
相澤は蜜口から溢れ出た透明な液を二本の指で掬い、その上に位置する小さな蕾に、優しく撫でるように塗りたくって緩慢に動かし始めた。
「あっ! や、あぁ……っんんっっ!!」
優しい手つきとは裏腹に、強い刺激が陰核を起点にブワッと全身に広がっていき、声のボリュームの調整ができなくなってしまった。絶妙な加減で愛撫され、脳が溶けてしまいそうだ。名前の何もかもを知り尽くした男から与えられる怖いくらいの快楽に股を閉じてしまいたいのに、捕縛布で縛られているためそれが許されない。
「気持ちいい?」
不意に顔を上げ、首を傾げて問うた相澤の唇が蠱惑に濡れている。陰核はジンジンと痺れるように甘く疼いていて、今すぐイかせて欲しいと身体が言っているようだった。名前はコクコクと頷いて、「きもちい」と呟く。
「すごいエロい顔してるな」
そういうと相澤は名前に荒々しく口付けて、舌を侵入させた。名前の歯列をなぞり、その隙間から侵入して舌に絡みつき、舌先での交歓に耽る。同時に指先をゆるゆると動かしてクリトリスへの刺激も再開して、何もかもが沸点を超えて融解してしまいそうだった。
「んぅ、ふっ、う、んんっ!! ぁ、やぁ……!」
すると、キスに応える余裕なんてなくて、名前の口からははしたない声が漏れ出るばかりだ。快楽をいなすように身体を捩ったところで、何にもならない。少しずつ、身体が高みへと昇っていくのを感じる。
きっとそれが相澤には分かるのだろう。相澤の指の動きが速くなる。ぐちゅぐちゅと音を立てながら、陰核への的確な刺激を早く、強くして、絶頂へと押し上げようとする。
「だめ、いっ、ぐ………あっ!!!!」
ぎゅっと瞑った眼裏で閃光が迸って、花火が打ち上がったように身体中で大きな快楽が爆ぜた。腰ががくがくと震えて、呼吸も乱れ、膣は切なく痙攣を繰り返して早く埋めて欲しいと言っている。
ふー、ふー、と荒い息を整えていると、相澤が頭を撫でた。
「イけたの偉いな」
その顔があまりにも優しくて、名前はオーガズムに達したばかりだというのに子宮の奥がきゅんと疼くのを感じた。何なんだこの酔っぱらい男は。無自覚に色気を振り撒いているのが、本当にタチが悪い。
「もっと欲しい?」
欲しいに決まっている。ひくひくと物欲しそうに膣が蠢いているのを知っているのに、あえて聞くなんて酔っ払い相澤はちょっぴり意地悪だ。
「ん……」
名前の小さな返事を聞いた相澤は濡れそぼった蜜口に指をつぷりと入れる。ナカの調子を確かめるように一本入れて抜き差しを繰り返すと、今度は一気に三本に増やして抽送を繰り返す。そして腹の側にあるざらざらとした部分を見つけると、ぐちゅぐちゅと押しながらピストンを繰り返した。
「ひぁ! あ、やっ!!」
指での刺激を繰り返しながら、相澤は体制を変えて名前の股の間に顔を埋めると、その上の陰核を舌先で舐め始めた。
「や、ちょ、と、イった、ばっか……! あぁぁぁぁ、んぁ!!」
達したばかりで敏感になっているところをやわやわと舌先で舐められると、身体は気持ちいいと触って欲しくないでせめぎ合う。しかし、腰をくねらせて抵抗しても、全く止める気配がない。
ぴちゃぴちゃと陰核を舐め上げる音と、ぐちゅぐちゅと指で内部を掻き鳴らす音が断続的に耳に届いて、名前の身体には止めどなく快楽の粒が蓄積していくのを感じる。この粒が溢れた時どうなるか、分かっているからこそ怖くもある。自分が壊れてしまいそうで、未知の世界へいってしまいそうで。
「消太、くん、だめ、おかしくなるっ!」
「うん。おかしくなって」
「あっ、あ、ああ……っ!!」
声が止められない。気持ちいい、しか考えられなくなる。また脳が灼き切れて、意識が真っ白になってしまう。
もう止められない、快楽が溢水してしまう。その予兆のように、がくがくと腰が震え出した。
「ああっ!!!!」
そして二度目のオーガズムが訪れた。背中が弓形にしなって、喉が反る。そのまま天まで昇ってしまいそうなほどの大きな波が何度も何度も押し寄せた。もう限界だと言わんばかり、びくびく、と膣が切なく痙攣して、相澤の指をきゅうきゅうと咥え込む。全力疾走をした後みたいに肩で息をしていると、
「挿れるよ」
と相澤は言って素早く衣服を脱ぎ去ると、固く勃起し、反り勃ったそれを膣口にあてがった。熱くて固い感覚が伝わってきて、それだけで待ち焦がれたものがようやく手に入るような高揚感に包まれる。早く挿れて、身体を相澤で満たして欲しい。そんな気持ちが伝わったようで、相澤のソレが一息に押し寄せて、子宮口を叩く。
「はっ……! きも、ちい、しょーたくん……!」
あまりの気持ちよさに、涙が一粒こぼれ落ちる。相澤の性器が名前の性器に挿入されただけだというのに、脳髄が痺れるほどの快楽が全身に広がるのは本当に不思議だ。苦しいくらいの幸福が胸の内で広がって、呼吸が乱れる。
「気持ちいいね、名前」
相澤も余裕がないのか、普段よりも荒々しい動きで抽送を繰り返す。ギシギシとベッドのスプリングが軋んで、その激しさを伝えている。
「あ、あ、やぁ、ああ……っ!!!」
どちゅ、どちゅ、と最奥を突いて、名前を深い快感で満たしていく。
「ん、っ……!」
相澤から時折漏れ出る吐息が切実さを孕んでいるようで、薄く目を開いて相澤の表情を盗み見れば、眉根を寄せているが気持ちよさそうで、ああ、消太くんも気持ちいいんだ、と感じて名前の快楽が一段と深いものになる。
大好きな人と肌を重ねる喜び、大好きな人の求められる幸せ。身も心も満ち足りていくのを感じる。―――身体は縛られているけれど。
いつもよりも荒い、ガツガツとした性交は、まるで獣の交尾のようだと思った。快楽に導かれるまま貪欲に、本能のまま遺伝子を残すための交尾。
普段、冷静沈着な姿で教鞭をとっている相澤が雄となり、雌の名前を組み敷いて、相澤の遺伝子を種付けしようとしている。そう考えるだけで、ゾクゾクとするのだ。
「っ、出すから、受け止めて」
「うん、うん……っ! 出して、……っ!」
「名前、……っく!」
何度か激しく突かれて、名前の最奥に相澤の白濁が吐精された。子宮の中、二人の遺伝子が混じり合うのがなんと甘美なのだろうか。
やがて力尽きたようにくたりと相澤の身体が名前に重なって、大きく息を吐いた。
「……あー、すっごい気持ちよかった」
「ん……わたしも」
なんだか可愛くて、名前の胸の上に頭をのせた相澤を撫でようとしたのだが、腕が拘束されていることを思い出す。
「ねえ消太くん、いい加減解いて……?」
「ん……? あ、そうだな。ごめんね」
今にも眠ってしまいそうな顔もまた可愛いが、このまま寝るわけにはいかない。
名前のナカから相澤の性器が出ていくときに、にゅるりという音と、体液が流れ出る感覚がした。自分の濡れ具合を改めて感じて、なんだか恥ずかしい。
そうして漸く拘束を解かれて、腕と足の自由を堪能しつつ身体を起こしたら、先程放たれた精液がどろりと股から溢れ出て、ベッドのシーツを白く汚した。
「……明日シーツ、洗わないと」
もう夜遅いから寝たいというのに新しいシーツに変えるというイベントが発生してげんなりしたが、相澤が既に新しいシーツを持ってきてくれていた。
「わ、気がきくね消太くん」
「そもそも名前の体液でびしょびしょだから変えようと思ってた」
名前は反射的に酔っぱらい相澤に枕を投げていた。誰のせいだ、誰の。
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明るい気配が漂っていて、名前は薄らと瞼を開いた。朝の清廉で眩い光がカーテン越しに部屋に広がっている。
隣を見れば、相澤が瞳を閉ざして規則的に肩を上下させていた。白い肌に生えた無精髭はそれなりに伸びていて、そろそろ剃ればいいのに、なんてぼんやり考えながら寝顔を眺める。
―――なんか痛い?
手首に違和感を感じて見れば、縛られた跡がある。それに引っ張られるように、昨夜の記憶が物凄い勢いで思い出される。飲み会から相澤が帰ってきて、なぜか全裸にされて、捕縛布で拘束されて、そして―――
「ん……はよ」
低く掠れた声に回想が途切れて、意識が目の前の男に戻った。先程まで閉ざされていた瞳が開いて、名前を見つめている。
「おはよ、消太くん」
相澤は薄く微笑むと、不意に名前の手首を見て瞬いた。
「どうしたんだこれ、手首。縛られたような跡があるけど」
名前は反射的に相澤に枕を投げていた。誰のせいだ、誰の。
