絶望を歩く

「まさか……ナマエが賢者だったなんて」
「わたしもびっくりだよ」

 賢者の間で俺たちは再会を果たした。ずっと一緒に旅をしてきたナマエが賢者だって気づいたときは本当にびっくりしたし、賢者になんてなってほしくなかった。だって、賢者ってよく分からないけど、サリアやダルニア、ルトみたいに、会いたくても会えない、歩いても歩いても見つけることのできない遠いところにいっちゃうんだろ。そんなの絶対嫌だったのに、けれどナマエは賢者として目覚めて俺の隣から消えたんだ。

「もっと一緒に冒険したかったよ。そばにいたかったよ」
「俺も……。俺も、ずっとナマエのこと守りたかったよ」

 ぎゅっと抱きしめる。最後の最後、ナマエを感じたくって、強く抱きしめる。ナマエの手も俺の背中に回される。俺たちの間に隙間はなくなったのに、なんで心が満たされないんだろう。俺にはわからない、どうしてこんなに心が空っぽなのか。

「リンクがさみしい時、辛い時、誰かにすがりたいときに一緒にいれなくてごめんね。でも、遠くからリンクのこと見守ってるよ、リンクは一人じゃないよ、大丈夫だから」
「……だ」
「ん?」
「や、だ……俺は一人になるよ。だってナマエがいないじゃん」
「リンク、見えなくたってそばにいるよ。見えるものがすべてじゃないんだよ」
「俺にはよくわかんないよ」

 見えなくちゃ、隣にいなくちゃ、そばにいるなんて言えないじゃん。俺にはわからないよ、見えるものがすべてじゃないってどういうことなの。ナマエのことを見ることができて、触れることができるのがすべてじゃないの。

「いずれわかるよ。大丈夫だから」

 ぽんぽん、と一定のリズムで背中を叩かれて、物凄い愛しさが体の底から湧き上がってくるのを感じた。なんて優しい声で言うんだろう。いずれわかるよ、なんて。俺はナマエの言っていることをこの先一生わかりたくない気がするよ。

「やだ、やだ、やだ……。ナマエ、ずっと一緒にいたい。ナマエ、ナマエ、ナマエ……」
「リンク、好きだよ」
「ナマエ、好きだよ、ナマエ……やだよ、大好きだ」

 そんな優しい顔で笑わないで。いやだって言ってるのに、どうしてナマエはこれからもそばにいるって言ってくれないの?

「ガノンドロフを倒してね。リンクならできるよ、ずっと、そばにいるからね」

 こうして賢者になったナマエとの再会は終わった。俺はただただその場に立ち尽くして、空を見ていた。何も考えられなかった。どれくらい経ったかはわからないが、暫くしてナビィが俺を現実に引き戻した。

『リンク……厳しいこと言うようだけど、前に進まなきゃだめだヨ。ガノンドロフを倒さなきゃ』
「……」
『ここでぼうっとしてても、ナマエは戻ってこないヨ』
「っそんなのわかってるよ!!!」
『ナマエが待ってるヨ、ガノンドロフを倒す時を』
「わかってる……わかってる。でも、ナマエがいないんだよ……この世界のどこをさがしてもいないんだ。たとえガノンドロフを倒したって、そこにナマエはいないんだ。喜びを分かち合いたくて振り返ったって、そこには誰もいないんだ」
『リンク……』

 絶望を歩いても、歩いても、その先に絶望が広がっているのなら、歩くだけ無駄じゃないか。どこにもいない、俺の好きな人はこの地上の隅から隅まで探したってどこにもいないんだ。

『リンク、もう忘れちゃったの? ナマエが最後なんて言ってた?』
「ガノンドロフを倒してね。リンクならできるよ………」
『嫌でも前進まなきゃ。つまずいても、転んでも、いやでも、前に進まないと』
「………う、ん」
『頑張れリンク、頑張れリンク……』

 なぜ俺が勇者で、ナマエが賢者なんだろう。そんな答えの出ない問いをずうっと自分にかけていた。
 ねえ、大好きだよナマエ。大好きだって今すぐ伝えたいし、これからもいっぱい伝えたいのに、どうすれば君に会えるの?