「ナマエちゃんとクリフトくんはきっと、将来結婚する」
こういう言葉を昔からよく言われていました。当人であるわたし、そしてクリフトはどこ吹く風。また言われた、くらいにしか捉えていませんでした。どうしてそんな風に言われるのか、皆目見当もつきません。ずっと一緒にいるからでしょうか。
小さいころからずっと仲良しだったクリフトとは、いわゆる幼馴染と言う間柄です。そのころから、冒頭のことはずっと言われていました。最初は躍起になって否定していましたが、言われすぎてもうどうでもよくなり、否定もしなくなりました。それからアリーナ様とブライさん、そしてクリフトとともに旅に出て、4主たちと出会い、アリーナ様の力試しの旅はいつしか世界を救う旅になり、世界を救ってからもわたしたちの間柄は変わらず、仲の良い幼馴染のままでした。
明日はわたしもクリフトもお休みしたので、お勤めが終わった後クリフトと一緒に星を見ることになりました。お仕事が終わって一緒にサントハイム城の食堂で食事をとると、それぞれの部屋に戻って準備し、サントハイム城の中庭に集合しました。わたしは寒空の下でも耐久できるように、服をたくさん着込んで、カイロも持ってきて、準備バッチリです!
やってきたクリフトがわたしの姿を上から下まで見て、
「随分あったかそうですね」
「防寒に抜かりなし! です」
「それにしたって、防寒に命をかけすぎですよ」
顔の半分がぐるぐる巻きのマフラーでおおわれているのと、ニット帽がそのように見えるのでしょう。ニットの手袋をした手でぴしっと敬礼をしてわたしは言いました。クリフトは薄手のマフラーをぐるぐる巻いてるだけで目立った防寒をしていませんでした。防寒ナメているのでしょうか。
「そういうクリフトは、そんな防寒で生き残れると思ってます?」
「まあ多少、寒いですが、仕方ありません。さあ、行きましょう」
クリフトは望遠鏡を背負い直し、歩き出しました。わたしはクリフトのあとについていき、観測地点である草むらで望遠鏡の準備をせっせとするクリフトをぼうっと見ながら、わたしは座り込んで膝小僧を抱きしめました。
「うー寒い寒い……」
「ほうら、やっぱり防寒が甘いのですよ」
鼻の頭を真っ赤なクリフトを見てくすくすわたしは笑いました。望遠鏡の準備をしてる手を止め、むっと眉を寄せてクリフトこちらを見ました。
「煩いですよナマエ」
「はあーい」
ぴしゃり言い放ち、望遠鏡の準備を再開しました。
「ナマエ、レジャーシートを持ってきたのになぜ地べたに座り込んでるのですか」
「ああそうでした」
言われてみればレジャーシートを持ってきたのでした。わたしは背負っていたリュックの中からレジャーシートを取り出して草むらに敷くと、改めて座りました。
「ようし、オッケーです」
準備が終わり上機嫌なクリフトがわたしの隣に座り込みました。
「それにしても寒いですね」
「そんなクリフトにいいものをあげます」
ポケットに手を突っ込んで用意をしておいたカイロを探します……が、あれ、ない。
「あれ……」
「何をくれるのでしょうか」
「えっと……カイロを準備したのに、忘れてきました……」
確かにポケットに入れたはずなのに、どのポケットを探ってもカイロはありませんでした。ああ、かなりへこみます。
「そんなことだろうと思いました」
隣のクリフトががさごそとバッグの中身を漁ると、なんとカイロが! わあ、嬉しいです。やっぱりクリフトは最高です……!
「さすがですねクリフト」
「もう何年あなたと一緒にいると思っているのですか。忘れそうなものなんて予想するのが容易いですよ」
わたしの足りないところをこうやって補ってくれるのはやっぱりクリフトなんです。
「やっぱりクリフトですね」
「仕方ないのでずっとナマエのことを支えてあげます」
カイロを手渡しながらクリフトが悪戯っぽくそう言いました。その時わたしの脳裏を、あの言葉が掠めました。
『ナマエちゃんとクリフトくんはきっと、将来結婚する』
ドキリとしました。気にも留めてなかったあの言葉が今、いのちを得たように脈を打ち、熱を持ち、鼓動を始めたように思えました。なんだって急にそんなことを言うのでしょうか。そしてそれに引っかかってしまったのでしょうか。
「何をそんなに驚いてるのですか?」
クリフトなんて、高いところ苦手ですし、泳げないですし、運動全般が苦手で、男性としてキャー! と叫ばれるタイプでもないのに、どうしてこんなに意識してしまっているのでしょうか。
「ナマエ」
「はいッ」
急になんだか真面目な顔になります。
「これからも傍にいてくれませんか?」
「はい!? ど、な、え、どうしたのですか急にそんなこと言って! あた、あたりまえじゃないですか!」
動揺を抑えきれません!! もう、なんなんですか!
「あたりまえならいいのですが。今が永遠に続くわけではないじゃないですか。なので」
「そ、ですね。でもわたしたちは変わりませんよ、きっと。だって世界を救ったあとだってわたしたちは変わりません」
「確かにそうですね」
くすり、クリフトが笑みをこぼしました。
「では、ずっと傍にいてくれるということでよろしいですね?」
「はい……」
なんなんでしょう。いったいこれはなんなんでしょう。この、何かが始まりそうな予感と、高鳴り。
小さいころからずっと一緒で、世界を救ってもずっと一緒で。けれども今、そのずっと一緒だった幼馴染が何を考えているのか、どういう意図をもってそんなことを言っているのか、全くわからないです。どんな気持ちなんですか、ねえクリフト教えてください。
