「女の子は情熱的な告白が好きなんだよ」
「そうなのか?」
「もっちろん! 崖の上とか、凄い遠いところから大声で『好きだー!』とか言われたら、私キュンキュンだなぁ」
楽しそうに、そして嬉しそうに笑うエメロードの話を、熱心に聴いている瑠璃。
「ありがとう。参考にするぜ」
瑠璃はすく、っと座っていたイスから立ち上がり、爽やかな笑顔で礼を述べて、エメロードの部屋から出て行った。エメロードはその後姿に手を振りながら「がんばって~」とのんびりとした様子で応援した。
実はエメロードにナマエに告白をしたい旨の相談をしたところ、冒頭のような話をしたのだった。有力な情報を得た、とほくそ笑んだ瑠璃は今からナマエに告白をしに行く。勿論、エメロードから聞いた情報を参考にしながらだ。ひとまずナマエを呼び出さないと。と思い、走り出したい気持ちを抑えてはや歩きにナマエの家へ急いだ。だが、途中で気持ちを抑え切れなくて、結局走り出してしまった。いつもの仏頂面ではなくニンマリとしながら走る瑠璃の姿は、他の珠魅から不審がられたとか。
+++
「ナマエ、邪魔するぜ」
「あー瑠璃くんいらっしゃい。どうしたの? 急に?」
何も知らないナマエは、いつもどおり朗らかな笑顔で瑠璃を迎えた。今日もやっぱりナマエは可愛い。と高揚した気持ちのままその不変の事実を確認して、瑠璃はニヤつきそうになったが頬をひねってごまかした。
「ど、どうしたの瑠璃くん?」
「あ、いや、なんでもないんだ。それより、ちょっと出れないか?」
瑠璃の脳内プランはこうだった。ナマエと港町ポルポタの入り江へいき、ナマエを砂浜で待機させ。そして自分は崖へ行き、高いところから愛を告げる算段だ。
勿論ナマエはそんなことは知らず、うん、とうなずいた。
「出れるよ。どこいくの?」
「ああ、ポルポタまでいこうかなって……」
「ふうん、結構行くね。わかった。じゃあ、準備してくるね」
準備を終えると、二人はポルポタへ向かった。
+++
潮騒の聞こえてくるポルポタは今日も観光客で賑わっていた。白を基調とした建物が燦々とした太陽の光を受けて眩い。
「何の用事なの?」
「ああ、ちょっとな」
ナマエの問いには答えず、意味深な笑顔を浮かべた。その笑顔にナマエは首を傾げて、瑠璃くんが笑うなんて珍しい……。と驚く。今日は突然やってきてポルポタに行こうなんて、色々と珍しいことだらけだ。とは言え、何か考えがあるだろう。ナマエは深くは追求せずに追随していく。
やがて二人は、あまり人のいない入り江へとたどりついた。ここまでは瑠璃の計画通りだ。
「じゃあナマエ、ちょっとそこで待っててくれないか?」
「? うん。どこいくの?」
「秘密、だ」
またも意味深な笑顔を浮かべ、瑠璃は崖へ急いだ。白波が崖にぶつかっては消えていく。そんな音を聞きながら、ナマエは言われた通り瑠璃のことを待ち、ようやく瑠璃は崖の一番先端へとやってきた。崖の下にはナマエが見える。すうっと大きく息を吸い込み、
「ナマエーーー!!」
腹の底から声を出して彼女の名前を呼ぶ。こんなに大きな声を出したのは始めてかもしれない。崖の下のナマエが、風に乱れる髪を耳にかけ、耳のそばに手を添えた。どうやら聞こえているようだった。後はもう、思いを伝えるだけだ。瑠璃は意を決して、再び大きく息を吸い込む。
「俺、ナマエが好きなんだ!!!!! 俺の恋人になってくれないか!!」
よし、よく言った! と、自分を賛辞しながらも、ナマエを見ると、何か言っているようだった。だが、波音に邪魔されてうまく聞き取れない。瑠璃はナマエの元へと向かうことにした。上機嫌に、鼻唄を唄いながら。
「さっき、なんていってたんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。波音がうるさくて、瑠璃くんがなに言ってるかさっぱりわからなかったよ」
悪意のない、屈託ない笑みを浮かべて残酷なことを言ったナマエ。はっとした。波音が邪魔してナマエの声が聞こえないっていうことは、即ちナマエにも自分の声は届いてなかったと言うことだ。気分が高揚していて、そんな簡単なことにも気付かなかった。
瑠璃は顔が赤くなるのを感じた。
「で、なんていってたの?」
「……なんでもないぜ」
「えー。すごい必死に叫んでたじゃない」
「……」
