脱衣所からワンピースを一枚着て出てきた風呂上がりの名前に声をかけたのは、彼女の体の動かし方がいつもと違うように感じたからだ。
「どうかした」
「え? えーと」
立ち止まり、明らかに気まずそうに目を泳がせている。なんて言おうか考えている顔だ。違和感に対して確信を持った瞬間だった。
「……ブラ、忘れちゃって」
いつもなら着替えセットにブラジャーを持って行っているのに、今回は忘れてしまってブラジャーを取りに行こうとしていた、ということか。つまり今、ワンピースの下はパンツだけ、ということだ。
気がつけば相澤は名前のもとへ歩み寄り、腕を引いていた。
「え、な、なに」
「ちょっとおいで」
寝室のベッドに彼女を横たわらせれば、名前は両手を胸の前でクロスさせて警戒心むき出しの瞳で相澤を見ている。その警戒は正しいと言えよう。なぜなら今、相澤は名前に欲情しているからだ。だがこれは名前がいけない。ワンピースの下の裸体を想像させてしまったのだから、そういう気持ちになってしまうのは仕方のないことだ。
名前の上に馬乗りになると、シャンプーだろうかボディソープだろうか、清潔さの中に甘さのあるいい匂いがしてきた。
「消太くん、今から何しようとしてる……?」
「多分、名前の想像通りのこと」
クロスした両手を退けようとするが、無駄な抵抗よろしく力を入れてそれを妨害してくる。仕方がない、実力行使だ。ぎゅっと固く結ばれた小さな拳をとるとそれを顔の横まで持っていき、指と指の隙間を割って入り、シーツに縫い付けるように手を繋いだ。
そうして上体を屈めて唇に口付けをすれば、彼女の体から強張りが消えていくのがわかる。舌をねじ込めばそれに応えるようにおずおずと絡ませてきた。しばし舌同士での交感に耽れば、ただ開くだけだった指はぎゅっと抱きつくように相澤の指に絡んでくる。
顔を離してじっと名前の顔を見る。目元は蜂蜜を溶かしたみたいにとろんとしていて、少し潤んでいる。唇は唾液で湿り、頬は上気していて、率直に言えば艶っぽい。
縫い付けていた手を離して、ワンピース越しに乳房に触れる。いつものブラジャーによって寄せられたツンと澄ましたような形ではなく、あるがままの柔らかさだ。
「ん……ッ」
マッサージをするようにゆっくりと、手のひら全体を使ってぐるぐると触る。やがて相澤の指先が頂きを掠めれば、眉根を寄せた名前から「あっ」と鼻から抜ける声が聞こえてきた。瞬く間にそこは芯を持ち、たちあがって、ワンピース越しに艶かしく主張している。もっと触って、と言っているみたいだった。そんなことを言ったら名前は「言ってない!」と否定してくるだろうから、勿論言わない。そのかわりに、ピンと張り詰めたそこを刺激していく。指先で弾いたり、摘んだり、カリカリと擦ってみたり。そのたびに懊悩する声が聞こえてくる。
「やッ……ん、う、んん……っ!」
今度は直に舐めようかとワンピースの裾をたくし上げて、相澤は絶句した。
「おま……パンツも履いてなかったのかよ」
当然のように下着が纏われていると思ったのに、何も履いていなかったのだ。どうやら彼女は下着を持っていくのを忘れていたらしい。そのままワンピースを脱がせると、相澤は脱がした服をベッドの下にぽいと投げやった。
「わざわざいうことでもないと思って……やっ、ちょっと消太くん!」
相澤は膝を持って大きくM字に開かせれば、割れ目が現れる。相澤を受け入れ、包み込んでくれる名前の深い海。
「恥ずかしいから、見ないでよ」
消え入るような声で抗議をしつつ、膝を閉じようとするも、勿論それを相澤は許さない。ぐいと相澤の体を挟み込んで閉じないようにすれば、ぷっくりと膨らんだそこを口に含む。
「あっ! あ、ぁ……っ!」
舌先で舐め、突いては甘やかな嬌声が聞こえて悶えるように身を捩らせている。もう片方の尖りの輪郭をなぞるように舌を這わせて、もう片方は指先で撫でたり弾いたりしてみせる。じゅっと膨らみを吸い上げると、彼女の両足が快感をいなすように相澤の体を締め付けた。
そろそろ下の方の様子を確認しようと思い、舌先での愛撫を続けながら、右手で割れ目をなぞれば、すでにしっとりと湿っていた。蜜口からの愛液を指先に纏ってその上にある陰核に塗りつけると、そこを撫で回す。
「やっ、あっ! あぁっ! らめぇ……っ!」
指を動かすスピードを、舌先の動きを早くする。名前の腕が相澤の背中に回された。溺れそうなのを必死に耐えているみたいな切実さだった。
「だめ、だめ、あっ……あっ、ああっ!」
やがて名前の体は電流が流れたみたいにビクビクと痙攣した。どうやら達したらしい。相澤は体を起こして名前の様子を確認すると、眉根を寄せて乱れた呼吸を整えている。
相澤自身、もうそろそろ我慢の限界だ。下着の下、はち切れんばかりに膨れ上がったそれが、今か今かとその時を待ち侘びている。着ていた黒いTシャツを脱ぎ取れば、名前がじっと相澤の腹部辺りを見ている。
「どうかした?」
「あ……体、鍛えられててえっちだなって……」
「そんな目で見てたのか」
「仕方ないじゃん。だって大好きなんだもん、消太くんの全部が」
その言葉で、相澤の中の何かがぷつんと切れた。下着ごとズボンを脱ぎ去れば、既に先端が濡れそぼった相澤の陰茎が天に向かって勃ち上がっている。それを手で持ち、彼女の膣口に当てがって擦り付ける。相澤の粘膜と名前の粘膜が擦れ合い、卑猥な水の音を奏でる。
「俺の全部、あげるよ」
押し付ければ、亀頭が呑み込まれるように名前の中に入っていく。それだけでも、相澤の体に快感が伝っていく。
「だから名前の全部もちょうだい」
グッと、相澤の屹立を全て押し込むと、一際高い悲鳴にも似た嬌声が上がった。膣壁が吸い付くように相澤の陰茎に纏わりついて、相澤の頭のてっぺんから爪先まで快楽の電流が通り抜ける。最奥まで辿り着くと、パズルのピースがぴたりと嵌ったような、あるべき場所にお互いがいるような錯覚を覚える。それから、この体を内側から支配できる征服欲で満たされる。毎度のことながら、この感覚は病みつきになる。
「ああ!! んっ! あぁ……っ!」
律動を開始すれば、動くたびに名前の口から甘やかな声が漏れ出る。グチュ、グチュ、と音を立ててゆっくりとストロークを繰り返せば、絶頂を迎えてしまいそうになるほどの快楽が脳を焼く。
「ゆっくり、やば、うっ、うぅ、イクぅ……! あっあっ!!!」
膣が、子宮が、相澤の遺伝子を求めてきゅうきゅうと収縮を繰り返した。これには相澤も達しそうになり、あわてて引き抜いて一つ息を吐いた。
「次はどんな体勢がいい?」
相澤が尋ねると、名前は「んん……」と吐息まじりの声を漏らした後に、「下から……」と小さく呟いた。
「下から?」
「下から……突いてほしい」
「うん。そうしよう」
今度は相澤がベッドに横たわれば、名前は膝を立てて相澤の上に跨った。そして相澤の屹立を優しく掴むと、自身の蜜口に当てがって、ググッと体を沈めていく。
「あっ、あぁぁ〜〜〜……っっっ!」
再び二人の体は一つになった。彼女の体の中に入り込んでいく様をまじまじ見ていると、それだけで達してしまいそうだった。
相澤が下から突き上げれば、「あっ!」と叫んで、喉を反らした。突き上げるたびにふるっと乳房が揺れるのが、なんとも官能的な光景だった。もっともっと気持ち良くなってほしくて、相澤は名前の胸を弄りながら、下から何度も何度も力強く突き上げる。
「それ、だめ、だめっ、やっあ、あっあっ!!! いく、いっちゃぅぅ……ッッッ!!!」
名前がオーガズムを迎えたのを、視覚でも、相澤の性器でも感じる。力強い収縮に、相澤もいよいよ限界を迎える。
「……っ、出すぞ」
脳裏で明滅がいっぱいに広がって、脳が強い快楽で焼き切れてしまったようだった。物凄い勢いで射精して、そのすべてが名前の胎に受け止められる。何度か突き上げて全てを出し切ると、名前がくったりとしなだれてきた。しっとりとした質感で、お互いの体が汗ばんでいることに今更ながら気づいた。
名前は相澤の体の上に重なった状態で、深く息を吐くと、「また、お風呂入ろうかな……」と呟いた。
「……下着、忘れるなよ。また襲われたくなかったらな」
「はぁい」
このまま寝てしまいそうな、気怠げな返事だった。このまま寝れたら幸せだろうなと思いながらも、起きた後絶対後悔するのもわかっている。「ほら、風呂入るぞ」とペシっと名前のお尻を叩くと、「お尻叩かないでよお」と名前がふにゃふにゃと笑った。
