ナナバさんに欲情する

 ここのところ激務で全くナナバさんと会えない日々が続いていた。厳密に言えば仕事中に会うことはもちろんあるが、あくまでも同僚として。幹部として調査兵団を支えるナナバさんは仕事が終わるのも深夜近くになることも多く、一緒に夕飯をとったり、お互いの部屋を行き来してお喋り……なんていうささやかな繋がりすらない。
 極めつけに、ナナバさんが急遽特命を受けて内地に赴くことになり、この兵舎を数日間開けることになった。本来だったらエルヴィン団長が行くところだったのを代役でナナバさんが行くことになったのだ。出発直前にわざわざわたしの部屋までやってきて教えてくれて、触れるだけのキスをして別れた。それがまた身を熱くさせて、彼を待つ間その熱は燻り続けた。
 会えないのはいつものことだが、会えないけどそばにいるのと、会えない上に近くにいないというのは、全く心持ち違う。ナナバさんが内地に行っている間、どこか心に穴が空いたような心地で過ごしていた。
 そしてようやくナナバさんは帰ってきた。帰ってきたのはほとんど深夜と言えるような時間で、ナナバさんは荷物を置いて早々に部屋を訪ねてきてくれて、ほんの数時間だけ同じベットで睡眠をとって、朝方には自分の部屋へと戻っていった。短い間ではあったが、久しぶりに感じたナナバさんの温もり、匂い、声、どれを取ってもわたしは幸福感と安心感に包まれた。
 ナナバさんが帰ってきてから数日。ようやく落ち着いてきたであろうナナバさんに一日休みが与えられた。と言うのを、夕飯時にゲルガーさんに教えてもらった。わたしはその話を聞いた瞬間、手に持っていたフォークを落としそうになった。なぜなら偶然にもわたしも明日急遽休みになったのだから。とは言えナナバさんはやっと与えられた休日だ。色々とやることもあるだろうし、あるいは身体を休めることに専念したいかもしれない。だから求められるまでは、会わないほうがいいかもしれない。と、物分かりのいい彼女であるように己に言い聞かせるが、ゲルガーさんにはお見通しだったのだろう。

「アイツの部屋突撃してもいいんじゃねえか」

 と、提案されたが、わたしは首を横に振る。

「滅相もない! ゆっくり休みたいでしょうし」

 なんて言ったが、兵舎の自室に帰ってからも、お風呂に入ってからも、ゲルガーさんの言葉が耳の裏に残っていて、悶々とする。行ってもいいのだろうか。迷惑じゃないだろうか。
 そしてわたしは結局、居ても立っても居られずに、悶々とした気持ちを抱えたまま夜の兵舎を歩いてナナバさんの部屋まで向かっていた。物分かりのいい彼女になんてなれなかった。身の内を焦がし続ける熱を受け止めて欲しかった。滅茶苦茶になるまで抱いて欲しかった。なんて身勝手な彼女なのだろうか、ナナバさんは軽蔑するだろうか。
 そうしてやってきたナナバさんの自室の前。廊下は既に静まり返っていて、この心臓の高鳴りすら静かな廊下に響き渡りそうだ。わたしたちがお互いの部屋を行き来する時に、決めているノックがある。一定のペースで五回叩くのだ。大きく深呼吸をして、わたしは五回ノックをする。すると、

「ナマエ?」

 部屋の中からナナバさんの声が聞こえてきた。苦しいくらい待ち望んでいたその声がわたしの名前を呼んだ。「はい」と返事をすれば、すぐに扉は開いた。
 ナナバさんは部屋着姿で、ほんの少し驚いたような表情をしていた。部屋の中の燭台からは火が消えていて、今は窓から差し込む月明かりだけがこの部屋の光源だ。

「暗いんだけどとにかくどうぞ」
「お邪魔します……」

 ナナバさんの部屋に入れば、部屋中がナナバさんのいい匂いで溢れていて、しれっと堪能する。

「今から明かりつけるから」
「あっ、い、いえ。あの、大丈夫です。寝るところだったんですよね」
「そうだけど、ナマエは何か用あったんじゃないの?」
「用という程ではないんです……ただ」

 思わず言い淀む。突然きて迷惑だっただろうか。たとえ迷惑だったとしても、ナナバさんは絶対に迷惑だなんて言わない。その優しさがナナバさんらしいけど、本心が知りたくもなる。じわじわと突然来てしまったことを後悔し始めた。ゲルガーさんめ、とここにはいないナナバさんの仲良し幹部に心のなかで八つ当たりする。

「ただ?」

 続きを催促するナナバさん。わたしは言葉を紡ぐ。

「……どうしてもナナバさんに会いたくて。明日お休みだってゲルガーさんから聞いたのでもし―――」

 言葉を言い切る前にわたしは突然強い力でナナバさんに引き寄せられた。
 ナナバさんに抱きしめられたのだと気づいたときには、ナナバさんの鍛えられた胸板が目の前にあった。

「嬉しいよ、ナマエ」

 ナナバさんの声がわたしの身体に沁みていくようだった。

「ほんと……ですか?」
「うん。明日の夜会いに行こうかなって思ってたところだったから、吃驚したよ」
「実はわたしも明日休みなんです」
「そうだったんだ。それ知ってたら私の方から行ったのにな」
「ずっとナナバさんに会いたくて……触りたくて仕方なかったんです」
「ん、おいで」

 誘われるようにナナバさんと二人、ベッドに縺れ込んだ。わたしたちは二人並ぶと、大好きなナナバさんのお顔がすぐそばにある。甘い垂れ目がわたしを捉えて細められると、顔が近づいてきて、唇が重なった。ああ、やばいかもしれない。さっきからナナバさんに触れられる度に身体が熱くなっていく。

「あの」
「ん?」
「夜這いしてもいいですか」
「ふっ」

 抜けるようなナナバさんの笑い声が聞こえてきて、

「夜這いって、許可をもらうものなの? なんか色々おかしいけど」
「だって、とにかくナナバさんと……」
「ナナバさんと?」

 言い淀むわたしに、意地悪に口角を上げたナナバさんの顔。こんな表情、普段は見ないから不思議な感じだ。

「……たいです」
「ん?」
「したいです」

 普段だったら絶対に言わないような言葉を、消え入るような声量でナナバさんに伝える。そう、わたしは長いことナナバさんと会えなくて、身体に燻っている熱を持て余しているのだ。とにかくナナバさんに触れてほしかった。ナナバさんを感じたかった。ナナバさんに触れたかった。
 わたしは興奮に突き動かされて、気がつけばナナバさんの寝間着のズボンに手を這わせていた。そしてそこで触れたものに、一瞬息を呑む。

「あっ……ナナバさん……」

 少し触っただけでも分かる猛りがズボン越しに伝わってくる。熱くて硬いそれを頭の中で思い出して、改めて優しく手を添えれば、薄い寝間着越しにナナバさんのそれは形がくっきりわかるほど主張していた。

「そんな可愛いこと言われて、反応しないと思った?」
「う……あ……」

 ナナバさんは何度もキスをすると、擦り寄るように首に顔を埋めて、

「久しぶりだね、するの。あぁ、やっとできるんだ」

 低く囁いたナナバさんの声に、下腹部がきゅっと締め付けられる。ナナバさんのすべてにわたしの身体が敏感に反応し、熟れていくようだった。既に股の間は溢れ出た愛液でぐちょぐちょになっていて、パンツにまで沁みついているのを感じる。思考がどろどろに溶けていきそうになる端で、ふと思い出したことは急速に膨らんでいく。

「ナ、ナナバさん! わたし、夜這いにきたんです。だから、わたしが……!」

 先程自分で言ったことを思い出したのだ。夜這いに来たのに、逆にリードされていては夜這いではない。わたしはナナバさんの上に馬乗りになれば、丁度足の間にナナバさんの勃起したそれが当たって、今すぐわたしの身体に刻み込んでほしい、と息を呑む。
 けれど、今夜はわたしがリードするって決めたのだ。

「ナマエがしてくれるの?」
「はい、ナナバさんはお疲れでしょうから、寝転がってるだけでいいです。身を委ねてください」
「へえ」

 楽しそうに口元を上げたナナバさんはそれはそれは妖艶で。
 わたしはナナバさんから立ち退くと、改めてナナバさんのズボンを見た。さながらテントのように膨れている。それに手をかけて、ズボンと下着を慎重に脱がせば、

「わぁ……」

 ぼろん、なんていう効果音が聞こえてきそうなほどの勢いで、ナナバさんの性器が露わになった。月明かりに照らされたそれは、透明な液体が先端からダラダラと出ていて、竿の部分は血管が浮き出ている。芸術作品のような美しいお顔に、凶暴さすら感じるこの陰茎のコントラストは本当にすごい。
 わたしは蜜に誘われる蜂のように、ナナバさんのそれに吸い寄せられて、そして―――

「うっ……」

 手を添えて、ナナバさんの性器を口に含んだ。するとナナバさんの低いうめき声が聞こえてくる。亀頭から出ている透明のぬらぬらとした液体を舌で舐めれば、ぴくりとナナバさんの身体が震える。ナナバさんが感じてくれている、そう思うだけでわたしまで感じてしまう。

「ちょ、まって……久しぶりだし、すぐでちゃうかも」
「もひおん」

 口に含みながら、勿論、と口にする。唾液で一杯にして舌を筋に這わせて、じゅぼじゅぼと音を立てて上下する。口がナナバさんの男根に沿って動いて、形を変える。たまに舌を使ってちろちろと鈴口を舐めて、刺激を変える度にナナバさんが反応してくれるのが堪らなく嬉しい。この性器に貫かれることを想像して、わたしはもぞもぞと太腿をすり合わせる。しかし、今は自分の快楽よりも、ナナバさんに目一杯気持ちよくなって欲しい。
 熱の籠もった浅い呼吸や、身動ぎ、力を抜くような吐息を感じる。ちら、とナナバさんの表情を伺えば、瞳を閉じて眉根を寄せて、与えられる快楽に耐えているようだった。口を動かすのを止めると、ナナバさんは薄らと瞳を開いて、手を彷徨わせると、わたしの頭に優しく置いた。

「ナマエ……すごく、気持ち、いいよ」
「よかっふぁでふ」

 もっと気持ちよくなってほしくて、口の動きを早めれば、ナナバさんの足がモゾモゾと動いて足がピンとなる。口の中のナナバさんの男根がより一層固くなって、大きくなる。そろそろ達する前兆だ。

「まっ、て……ナマエ!」

 待ちません、気持ちよくなってください。なんて言葉を喉奥で呟いて、ストロークを早くする。ナナバさんの手が力なくわたしの頭を押して遠ざけようとするが、勿論ここでやめたりなんかしない。―――と、思ったけど、わたしは動かすのをやめて顔を離せば、唾液でてらてらと光ったナナバさんのソレが現れる。快楽の波がどんどんと上昇していく中、達しそうで達しなかったので、血管が浮き出て、今すぐ白濁を吐き出したくて、ピクピクと切なく動いている。

「うっ……ん」

 ナナバさんは苦しそうだ。わたしはうっとりとそれを見つめると、再度ナナバさんの性器を咥えこんで、きゅっと手でも握りしめる。手の動きと口の動き、どちらもつかってナナバさんを気持ちよくさせるために一生懸命動く。

「あっ……ちょ、ナマエ! まって、出るッ……くっ、い……くっ!!! ッッあ」

 程なくして口の中で、白濁が迸ってわたしの口の中を満たしていく。ぴゅっ、ぴゅっ、と生暖かいそれを何度かに渡って出しながら、それに合わせてわたしの動きも止めた。
 口を離せば、口の中いっぱいにナナバさんの精液があって、それをゆっくりと嚥下する。

「え、飲んじゃったの……!? 苦くない? 大丈夫?」
「ん……はい」

 口の中がナナバさんの精液の味で一杯になる。それは中性的で芸術的なナナバさんから感じる、雄の気配。それを口で堪能しつつ、こんな時にも優しいナナバさんに胸が縮こまる。

「吐き出してよかったのに! 水、飲む?」
「いえ、美味しかったです」

 わたしはにこっと微笑めば、ナナバさんは上体を起こして、無言でわたしの服を脱がし始める。

「えっ、ちょ」
「裸になって」

 戸惑うわたしを余所に、ナナバさんはわたしの上の服をあっという間に剥ぎ取り、ナナバさん自身も脱いだ。鍛え抜かれたキメの細かい肌が現れた。ナナバさんはその流れで自身の下の服も脱ぐと、脱いだ衣服はベッドの下へポイと落とす。

「はい、下脱ぐよ」
「えっ下はその……」
「必要ないでしょ」

 優しさの裏にある有無を言わせぬ色。ナナバさんがわたしのズボンに手をかけたので、少し腰を浮かせばあっという間にパンツごと剥ぎ取った。案の定パンツにはびっしょりと染み付いていて、ナナバさんもそれに気づいたみたいだった。恥ずかしくて目を逸らせば、飛び込んでくるナナバさんの下半身。先程精を放ったばかりだというのに、またぎちぎちと勃ち上がっている。

「あれ、さっき出したのに……」
「久しぶりだからね。それにこんな可愛い彼女にまだ挿れられてないから……ね?」

 ナナバさんが首を傾げると、月光のような薄金色の髪の毛が、その動きに合わせて動く。そして、

「ねえ、膝立ちしてみて」

 と、言われたので、わたしは言われた通り、ナナバさんの両足の横に膝をついて膝立ちになると、ナナバさんの細くてしなやかな指がわたしの秘部に宛てがわれると、くぷっと濃度の濃い水分の音がして指が侵入してきた。びりびりと刺激が奔って、身体が小さく震える。

「すごい、いつでも挿れられそうだね」

 そしてナナバさんはわたしの胸の突起に舌を這わせた。与えられた刺激に、わたしは何かにしがみつきたくて、堪らずナナバさんの顔に抱きつけば、胸を押し付けるような形になる。
 ナナバさんは舌で乳首を刺激して、指で下腹部を刺激する。舌先で転がしながら一本入っていた指が二本になり、中をかき混ぜたり、イイトコロをこねくり回したりする。口からは無意識に吐息とともに喘ぎ声が漏れて、甘い刺激に膝がガクガクと震え出す。
 まるで射出したアンカーが天に向かって上り詰めていくように、わたしの中で快感の波が急速に上り詰めていく。そして、

「っく……ぁ……イ……ッッ!! あッッ!!!」

 びりびりと脳髄が直接刺激されているような強い刺激がやがて弾けて、悲鳴のような声が出てわたしは達した。ひくひくと切なく収縮を繰り返して、ナナバさんの指を締め付ける。しなだれるようにナナバさんの顔に凭れかかれば、ふー、ふー、と荒く息を吐いて呼吸を整える。久しぶりにナナバさんからしてもらった前戯は、感度が研ぎ澄まされていたかのようにとんでもなく気持ちが良かった。
 それでもまだ、わたしはさらなる快楽を欲していた。

「ナナバさん……欲しい、です」
「うん。このまま腰を下ろせる?」

 下を見れば、わたしを貫かんとする屹立した男根が聳えている。これを今から、咥え込む。そう考えただけで、達したばかりだというのに膣がむずむずと欲しがる。ゆっくりとわたしは腰を下ろせば、膣の入口に亀頭が当たる。わたしのナカも熱いけど、ナナバさんのソレも充分熱い。溢れ出た愛液がナナバさんの亀頭にまとわりついて、そしてそのまま咥えこんでいく。

「あ……っ! あっ、はぁ……ん」

 お互いの体液が混じり合って、ぬるぬるの性器が入り込んでひとつになるこの瞬間の、痺れるくらいの快楽に、口の端からだらしなく漏れるわたしの声。ずっと待っていたものがやっと埋められるこの感覚は、癖になりそうなほど中毒性のある快楽だ。

「くっ……」

 ナナバさんの堪えるような声が聞こえてくる。そうしてわたしたちは一つになった。欠けていたパーツがぴったりとハマったみたいに、ずっとわたしはこれを待っていたのだと改めて思う。
 味わうように、わたしは腰を浮かせて極限まで抜き取ると、再び腰を落とした。

「やっ……ば」

 ナナバさんが声を漏らした。わたしたちは見つめ合うと、求め合うように激しくキスを交わした。すぐにナナバさんの熱い舌がねじ込まれて、口内が蹂躙されていく。そして顔が離されると、わたしの腰に手を添えて腰を動かし始めた。そしてその動きに合わせて、もっと深く混じり合えるようにナナバさん自身も腰を動かす。
 肌と肌がぶつかりあう音と、粘度の濃い液体が混じり合う音、ナナバさんの熱い吐息と、わたしの熱に浮かされた声。
 何度も何度もナナバさんはわたしの一番奥へ打ちつけて、そして、

「出る……ッ、ナマエ、好きだ、大好き、っふ……」
「ん……ふぅ……ンンッ!!」

 ナナバさんは達する直前に唇を押し付けて、わたしたちの声はお互いの口の中に飲み込まれていった。そして最後、激しく突きつけると、ナナバさんの性器はわたしのなかでぴくぴくと白濁を放ち、それを飲み干すようにわたしの膣が収縮を繰り返す。わたしは力が抜けて、ナナバさんにしなだれて背中に手を回した。汗ばんだ二人の身体がぴたりと吸い付くように重なって、ナナバさんもわたしの身体に手を回して、抱き合った。そのままナナバさんはゆっくりとベッドに倒れ込むと、わたしはむくりと上体を起こして、ゆっくりと腰を浮かせた。
 わたしの身体からナナバさんの熱い性器が出て、それと一緒に放たれた精液が一緒に溢れ出た。子宮へと注ぎ込まれた精液が、自分の意思とは関係なく重力に従って流れ出るこの感覚はなんとも形容し難い。そしてわたしはナナバさんの横に倒れ込むように寝転んで、ナナバさんに寄り添った。ナナバさんの身体も、わたしの身体も、体液まみれだ。でも拭き取る気力もなくて、わたしはふー、と長い息を吐いた。

「ナナバさん……大好きです」
「ふふっ……私もだよ」

 このままベッドに溶けてしまいそうだ。どんどんと微睡んでいき、わたしはやってきた心地よい睡魔に抗うことができず、そのまま意識を手放してしまった。
 そして朝日の訪れで目覚めて、薄らと瞳を開ければ目の前にはまだ眠りに就いているナナバさんのお顔があった。太陽の光に照らされて、優しい金色の髪がキラキラと輝いている。それで昨夜のことを思い出す。
 そうだ、昨夜はナナバさんに会いたくて、夜に突撃して、それでそのまま……と、記憶を辿れば辿るほど顔が熱くなり、目が覚めていく。お口でして、最後はいわゆる騎乗位でして、それでそのまま……。
 と、思い起こしてハッとする。そういえばそのままやってきた睡魔に身を任せて、眠ってしまったんだ。身体を拭いた覚えがない。恐る恐る毛布をめくって己の身体を確認するが、怖いくらい綺麗で小ざっぱりしている。もしかして、と、とある可能性に思い至ったその時だった

「おはよう」

 突如聞こえてきた声に、肩がびくりと揺れる。顔を上げれば先程まで寝ていたナナバさんが、目を覚まして薄っすらと微笑んでいた。

「おはようございます。すみません、昨日……なんか恥ずかしい……」

 お互い全裸なので、嫌でも昨夜のことを彷彿させてしまう。久しぶりに交えた身体は、怖いくらい気持ちが良かった。と、そこでわたしは先程まで考えていたことを思い出して、ナナバさんに「あの」と話を仕切り直す。

「もしかして昨日……あのあと、わたしの身体、拭いてくれました……?」

 わたしは間違いなく行為の後すやすやと眠ってしまった。残るはナナバさんしかいなくて、ナナバさんだったら、どれだけ疲れててもわたしの身体に体液がついていれば、拭いてくれるような優しい人だ。
 ナナバさんは「うん」と頷いて、わたしを抱き寄せた。裸同士で抱き合うと、いつも以上にカラダとカラダが密着するように思えて、幸福感に包まれる。

「寝て起きた時、汚れてたら嫌でしょ?」
「ナナバさんって本当に優しいですよね……」
「私も拭きたかったし。でもお湯で湿らせた布で軽く拭いただけだから、あとでお風呂入りに行こうね」

 わざわざお湯を沸かして拭いてくれるなんて、見習わなければならないスキルだ。さすが気遣いの鬼、ナナバさん。この優しさに甘えきらないようにしないとな、と再び微睡み始めたわたしは思考の隅で思った。