そんな恥かしいこと言えるか!

※現パロ風

「愛してるよ」
「私も……このままずっと、こうしてたい」
「俺もさ。お前がいれば、もう何もいらないんだ」

 テレビの奥で繰り広げられる、ゲロ甘ラブストーリーを、ナマエはソファの上でひざ小僧を抱えながら見ていた。そしてその隣には瑠璃がバツの悪そうな顔でたたずんでいる。

「はぁ……よかった」

 ドラマがおわり、満足げな嘆息とともにテレビの電源を切った。

「そうか? ……なんというか、見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜ」

 なんとなく目をあわせずらくて、もう何も写さない電源が切られたテレビをじっと見つめながら感想を述べた。すると、ソファのスプリングがぎしっと軋んだ音がした。ナマエが、瑠璃の近くへ寄ってきたのだ。

「ねえ、ねえ、瑠璃くんっ」
「嫌だ」
「!! ……まだ、なんもいってないよ」
「ナマエが言おうとしてることぐらい、わかる」

 立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。背後からナマエの不満そうな「む……」という唸り声が聞こえてくるがそれは背中で受けることにして、渇いた喉を潤すべく、お茶でも飲もうとする。手を伸ばし、ドアを開けようとした。しかし、

「瑠璃くーんっ」

 たたたた、という軽快な足音が聞こえると思ったら、行き成り背後から抱きしめられた。背中にささやかな膨らみを感じて、瑠璃の顔が一気に熱くなる。慌てて首だけ振り返り、抗議を唱える。

「なっ、なんだよ」
「だめ?」

 わざとらしく首を傾げるナマエは、こうすると瑠璃が大体言うことを聞いてくれることを知っているのだ。そんなあざとさに奥歯を噛みしめるが、しかしやっぱり可愛いと思ってしまう自分は重症だろう。

「だめだ。ほら、どけよ」

 とは言え、平静を保ちつつ言い放つ。ナマエの願いは極力聞くようにしている瑠璃だ。惚れた弱み、とは恐ろしいモノで、かなえられるものならなんでもかなえてやりたい、と願ってしまうのだ。だが、今回は“かなえられない類のもの”だ。

「やだ、やだよ瑠璃くん。瑠璃くんの口から、ステキな言葉聴きたい」

 ぎゅーっと強い力でアピールしてくる。と、思ったらその力は惜しげもなくなった。今度は瑠璃と冷蔵庫の間に入り込んで、自分よりも幾分小さいナマエが、両手を大きく広げて今度は正面から抱きついてきた。離れろ、とナマエをどかそうとするが、どうにも声がでないし、体が動かない。
 つくづく自分はナマエに弱いと感じた。甘い痺れで頭の芯がとろけそうだし、理性が吹っ飛んでしまいそうだ。

「いい加減に……」

 なんとか搾り出した言葉は、ナマエの唇に強引に封じられてしまった。思わず目を白黒させると、唇はすぐに離された。

「だって、瑠璃くんってば、ちっとも言ってくれないじゃん……本当に好きなのか、不安になっちゃうよ」

 ナマエの眉間には皺が寄っていて、言葉を言い切るときゅっと口を真一文字に結んだ。これは泣きたいのを堪えている顔だ。その表情に、瑠璃は一瞬にして己のこと責めた。

「心配にさせてたならごめん、でも大丈夫、俺はナマエをちゃんと好きだし、その気持ちが変わることは絶対にない」
「ほんとう……?」
「ああ」
「じゃあ、じゃあね?」

 途端にイタズラっぽい表情になるナマエ。一拍置いて告げられた言葉は瑠璃の度肝を抜くのだった。

「愛してるって言って?」
「……ばっ!!」

 瑠璃の顔が、真っ赤になった。

「そんな恥かしいこと言えるか!」
「えっええ!? 好きも愛してるも大差ないんじゃ……?」
「大した差だよ! 俺はそんな言葉、死んでも言えないぜ!」