◆アレックス
いっそ世界が終わればいい。(完結)
それぞれの想いが交わるとき、それは現実となる。
– 【硝子】鮮やかすぎる世界でめを閉じない人 –
00.プロローグ
かつて星に平和を願った珠魅がいた。珠魅の願いははるかな年月を経てひとりの少女に託された。この物語は前に進むしかなかった 男と追いかけることをやめなかった 少女のかなしくもやさしい 物語。ずっと、ずっと、だいすきで。ただ一緒に過ごせればいいっ…
01.宝石店に勤める彼女
夢を見た。あたり一面 キラキラ輝く宝石で満たされてとっても綺麗な世界なのにわたしはその世界の中心で泣いていた。ただ 悲しくて仕方なかった。それが何故だかは わからないけどやがてわたしは石になった。*** 目が覚めたら、明るい太陽の光が一条、…
02.ラピスラズリの騎士
今日はドミナにやってきていた。理由は特にないが、暇な日はたいていドミナにきて、ぐるぐると町を歩いて話をしたり、買い物をしたりしている。ドミナに来るたびに、とても懐かしい感じがするのはなぜだろうか。街並み、色合い、人々、におい、すべてが懐か…
03.プリンセスの消息について
「髪が長くて、白いドレスを着たおっとりした子、知らない?」「知らないなぁ~」 二手に分かれて聞き込み調査をしているのだが、依然として確かな情報も曖昧な情報も何一つ得られていない。いいかげんうんざりしながらも、たちは根気よく聞き込みをしている…
04.近いのに遠い人
髪が長くて、白いドレスを着ている少女がこちらに背を向けて尻餅をついている。瑠璃が「真珠!!」と叫び少女に駆け寄っていく。どうやら、瑠璃の探し人だったようだ。も駆け寄り、彼女の無事な様子を見て安堵のため息をつく。「真珠、さっきの悲鳴は?」「…
05.ラピスラズリの恋
町の入口にある案内看板と、目の前に見える景色とを見比べる。宝石店への道は、迷わずに行けそうだ。 断崖の町ガドは、その名の通り崖に町が形成されている。町の入口から、崖の一番上には火と風の精霊を祭る癒しの寺院との高低差はかなりある。複雑で巧妙…
06.万能薬とひとつの命
「瑠璃くん、瑠璃くんならわかるだろうけど、あそこの店の宝石……輝きがなかったよね」「お前にも分かるんだな。……ああ、俺も輝きがないと思った」 店を出て少し歩くと、が複雑な顔で言った。瑠璃も賛同するように頷いて、眉を寄せる。「今日は店長に頼ま…
07.閉ざされた希望の炎
「あ、草人さんがいた!」「いたいよおお!」 瑠璃の勘は当たった。草人は寺院の中で大暴走していた。修道女たちは暴走する草人をどうすることもできず見守っている。と瑠璃は草人を追いかけるが、とんでもなく早いスピードで走る草人にはどう足掻いても追い…
08.大事な人を守るとき
改めて、再び草人探しに戻ったたち。「草人さん、どこへ行ったのかな……?」 キョロキョロと心配そうに辺りを見回すが、草人の姿は見えないし、声も聞こえない。「案外、また戻ってきて、今度はとぶつかったりして……!?」「瑠璃くん?」 途中で言葉を止…
09.さよならルビーの騎士
次の日、はまたガドへやってきた。二度目のガドもやはり、ため息が出るほど壮大だった。はるか遠くに聳える癒しの寺院を暫く見つめ、約束の場所へ向かって坂を登り始めた。だが、坂を一歩登るごとに、なんだか嫌な予感を覚える。テラスにてルーベンスと会う…
10.憎しみの連鎖
サンドラを、止めなきゃ。 悲しみの深淵で、その思いだけが確かに力強く根付く。何が目的で、珠魅を殺しているのかはまったくわからない。大事な人を守るため、なのだろうか。それでもは、サンドラの凶行を許せなかった。これ以上の悲しみを生まないために…
11.既視感笑顔の謎
「こんにちは」 次の日、宝石店「ウェンデルの秘宝」に何事もなかったかのようにやってきた。アレックスはカウンターの奥で立ちながら宝石を磨いていて、に気づくとやんわりと微笑んで、頭を下げた。「こんにちは」 やはりアレックスの――好きな人の笑顔を…
12.不思議な夢は何を語る
『―――』 ……え、だあれ?『レイリスの塔が貴女を呼んでいる』 レイリスの塔? ――あの、暗い雰囲気で魔物がいっぱいいるって言われているあのレイリスの塔?『貴女はすべてを見届ける運命にあります。運命の部屋へ行きなさい』 あなたは誰? レイリ…
13.隠された過去を捜して
そわそわとはやる気持ちのまま、心ここにあらずの状態で仕事をしていた。ちら、ちら、時計を確かめては、まだぜんぜん時間が進んでいないことにため息をつく。アレックスは奥の部屋から戻ってこないし、時間はスローペースだし、の気分は最悪だった。「………
14.求めるものへの道のり
それにしてもレイリスの塔はいったいどこまで続くのだろうか? 上を見るが、まだまだ果てしない。もう何階上がったかわからないが、足がだるい。だが弱音を言ってられない。運命の部屋にいかなければならいないのだ。これは使命であり、義務である。隣を歩…
15.追憶 宝石たちの悲嘆 前編
これは120年前、珠魅たちがまだたくさん生きていたころのお話。不死皇帝の軍が各地の煌きの都市を攻めて、珠魅たちがどんどんと討たれ死んで行く。「―――、――!」「――――――っ!」(あ……れ? なんか聞こえる) の中にすぅっと意識が戻ってき…
16.追憶 宝石たちの悲嘆 後編
珠魅たちの都市に不死皇帝の軍が攻めていったのは確か、遥か昔の事。当然が生まれているわけがない。ということは、もしかしたら、レイリスの塔の運命の部屋で過去に飛ばされたのかもしれない。と、段々とこの状況を理解し始めた。 レイリスの塔がを呼んで…
17.女怪盗、瑠璃、真珠、過去、珠魅
意識が戻ってきたときには、真珠が心配そうに覗き込んで、が目を覚ますと泣きだしそうな顔で抱きついてきた。少しふわふわとした感覚のままなされるがままでいると、やがて真珠が少し離れ、今にも泣き出しそうな顔で口を開いた。「よかった……ちゃんが突然…
18.希望エメラルド
レイリスの塔から家にどうやって帰ってきたのか全く記憶がないのがとても不思議だが目が覚めたら、家のベッドで横になっていた。昨日のことがまるで夢のように感じたが足の鈍い痛み――俗に言う筋肉痛というやつだ。――が事実だと物語っていた。『関係ない…
19.発見エメラルド
「ああ、でも……」 瑠璃が立ち止まり、少し複雑そうな顔をした。「ずっと思っていたんだが、やはり外は危険だ……真珠は、どこかで待っていたほうがいいかもしれない」 確かに瑠璃の言うことにも一理あった。これまでこれまで幸運にも何もなかったが、一人…
20.決意エメラルド
「やっぱり珠魅か……。俺は瑠璃。仲間を探して旅をしている」「まあ、そうなの。旅をしているなら、あたしに似た人見なかった?」「いや……は?」「わたしもないなぁ……。力になれなくて、ごめんね」 エメロードは寂しそうに笑って、「そっか」とだけいっ…
21.捜索エメラルド
あなたを想うと胸がいたくてあなたを想うと胸がくるしくてあなたを想うと胸がたかなる。あなたが誰であろうと、それはきっと変わらない。ずっと変わらない一つの真実。「次はどこを探すの?」「うーんとね……宮殿あるじゃない、クリスティーヌの」「ああ、う…
22.集結エメラルド
「何よ……これ」 階段を降りきって、開口一番にひどく落胆したような声でエメロードが立ち尽くした。「どうしてディアナ様が? ディアナ様……?」 きらり、奥にある石像の胸元と、エメロードの胸元が共鳴するように輝いた。そのとたん、エメロードが銅像…
23.悲愁エメラルド
姉の核をすべて見つけ、すべてはうまくいったように思えた。だが、エメラルドの核を集め喜ぶ三人の姿を、遠く宮殿の屋根の上で双眼鏡ごしに見つめる宝石泥棒の存在が、事態を悪い方向へとかえていく。「やっと幸せの四つ葉がそろったというわけね」 冷たく…
24.葬送エメラルド
ああわたしは騎士なのに、わたしは騎士なのに、わたしは……「エメロード……」 体中から力が抜けていくのを感じるのと同時に、地面にへたりと座り込んだ。瑠璃がすかさず、肩をつかんで「!」と名前を呼ぶが、それがどうにも遠くの出来事のように感じた。…
25.ただいま、おかえり
自宅が見えてくると、灯りが燈っているのが見えたそれが。なんだか不思議な感じがした。いつも帰っても誰もいないし、まして明かりなんてついちゃいない。こうして明かりのついた家をみると、なんだか「おかえり」と言われているようでなんともいえない嬉し…
26.宝石たちの罪明かし
「ちゃん?」急に声が聞こえてきて、重いまぶたをこじ開けてみれば、これでもか、というほどドアップの不思議そうな顔をした真珠がいた。一気に目が覚めて、ついで昨日の出来事が脳裏に蘇った。エメロードのこと、サンドラのこと、ディアナのこと、昨日はいろ…
27.巡る想い
「貴様……!」 瑠璃が剣に手をかけてサンドラに向かって駆けだした。サンドラは逃げようともせず妖艶な笑みを浮かべて、カードをしなやかに投げつけた。そのカードは瑠璃の核をかすめ、瑠璃は立ち止まり小さくうめき声をもらして核をおさえた。「瑠璃くん!…
28.プリンセスはどこへ消えた
「」 呼ばれる声がして、一気に意識が戻ってきた。カーテンの隙間からのぞく朝日が眩しくて目を細める。狭まった視界で瑠璃を発見して、「るりくん」といまいちまわらない口で名を呼んだ。昨日の記憶が蘇ってくる。昨日はサンドラに瑠璃の核が傷つけられて、…
29.正しさの定義
「っ……」「瑠璃くん……? 傷が痛むの?」 突然胸の核を押さえしゃがみ込んだ瑠璃。彼は昨日サンドラによって核を傷つけられてしまったので、もしかしたらその傷が痛んだのかもしれない。「大したことない。心配するな」 そういって立ち上がった瑠璃の顔…
30.アレクサンドル
「だめ、でしたか……」 気付いたときには、狭い建物にいた。少し薄暗いところだった。燭台に燈る明かりはどこか心もとない。聞こえてきた声の持ち主は、アレクサンドルだった。アレクサンドルの目の前には、どんな生物なのか検討もつかない異形のものがいた…
31.古の記憶を見つめて
意識が戻った瞬間には、この間みたいに倒れているわけではなく、運命の部屋に入りアレクサンドルの記憶を見る前の状態に戻ったような感じであった。時が全く進んでいないような、先ほど見た光景は、時間と空間が現実と切り離されたところで見たような。今度…
32.眠れぬ夜に想うこと
アレクサンドル=アレックスという確かな証拠はないが、アレクサンドル≠アレックスという確かな証拠もない。しかし、他人の空似にしては似すぎているのは確かだった。何らかのつながりがあるのは、確かだと思う。 ――もしも、アレクサンドルがアレックス…
33.記憶の砂漠
まるで深海を遊泳しているかのような自由でゆるやかな心地。そんな意識の中にいたのだが、突如聞こえてきた声にその深海から飛び出ざるをえなかった。「誰か!!」 助けを求める声。ははっと気付いたら、いつの間にか見知らぬ部屋に横たわっていた。上体を…
34.悲しみの砂漠
何も頭に浮かぶことなくぼんやりと砂漠を歩き続ける。何も変わらない風景をずっと見ていると心が“無”に帰すような心持がする。アレックスのことも、アレクサンドラのことも、瑠璃のことも、真珠のことも、何もかもがの心からいつのまにやら消えていた。 …
35.夢と現実の狭間
ふと、女性がの前に現れた。その女性の姿を見た途端、は驚愕に息を呑んだ。女性は、自分自身だった。はじめて自分を、何も介さずに自分の目で見たが、このような姿をしていたのか、と場違いながら少し感心した。 というかここはどこなのだろう。時間からも…
36.閉じ込めた想いの意味
ふと、女性がの前に現れた。その女性の姿を見た途端、は驚愕に息を呑んだ。女性は、自分自身だった。はじめて自分を、何も介さずに自分の目で見たが、このような姿をしていたのか、と場違いながら少し感心した。 というかここはどこなのだろう。時間からも…
37.存在理由の証明
自然と目が覚める。どうやら朝みたいだ。今度こそきちんとした起床。それにしても夢の悪い虫退治をしたり、夢の中で喋ったりとなにかと忙しい眠りだった気がする。おかげさまで全然寝た気がしないのだが、身体の方はきちんと休息をとれたみたいで、気だるさ…
38.ある、うららかな日
ドミナの町を歩いていくと、目の前からタマネギ型の被り物を被った小さな男が歩いてきているのが見える。男はに気づくと、手を挙げた。「お、じゃないか。久しぶりだな」「ドュエル。お久しぶり。相変わらずタマネギみたいだね」「否定はしないが、タマネギ…
39.動き出した世界
昼時を少し過ぎたぐらいにドミナから家へ戻り、昼食の準備に取り掛かった。瑠璃も真珠も手伝うといってきかなかったので昼食ごちそう大作戦はひそかに終わり、みんなで仲良くキッチンで昼食づくりをすることになった。瑠璃は不器用そうに見えて意外と器用で…
40.違和感世界
朝日の差込みでは薄っすらと目を開ける。朝が来た。眠たい眼をこすりつつ上体を起こして、大きく伸びをした。瑠璃と真珠はまだ寝息を立てている。起こさないようにとベッドから降りて階段へ向かおうとすると、瑠璃と真珠が次々に目を覚ました。「おはよう二…
41.閉ざされた世界
「、どうしたんだ」 宝石店に入った瞬間立ち止まり、何も言わず佇むを不審に思った瑠璃と真珠が中へ入ってきた。「ねえ、わたし、ここで働いてたの。なんで忘れてたんだろう」 二人はしばらくぽかんとしていたが、やがて徐々に記憶が元に戻ってきたようで、…
42.進んだ道の末路
レイリスの塔の運命の部屋で見たかつての煌めきの都市。あのときは煌めきの都市の内観を見たが、今回は外観を見ている。王杓の目指すほうへ向かうとそこには、荒廃してなお美しい煌めきの都市が眠るように聳えていた。「ここが……煌めきの都市」 隣で瑠璃…
43.宝石たちの夢のあと
足がもつれながらもアレクサンドルのもとに駆けつけて抱き寄せる。「アレックスさん!」と呼びかければ、アレクサンドルは力ない笑顔を浮かべた。足先から徐々に消えていくのが見えて、はひどく焦燥する。どうしよう、大切で、誰よりも幸せになってほしい、…
44.物語の結末
抱きしめたの身体が柔らかさと引き換えに固くなっていった。は石になってしまった。瑠璃の心がとても重くなる。悲しさが広がっていくようだった。けれどなぜだろうか、それとは反比例するように身体が軽くなってきた。痛みとかが一切消えてしまったようだっ…
45.こぼれおちる砂粒
あれから、あの一件からしばらく経った。は今までと変わらない日々を送っていた。天気のいい日にはドミナにお出かけ、雨の日には家で読書。変わったといえば、ちょくちょく瑠璃や真珠が遊びに来ること。それから、カレンダーから宝石のマークが消えてしまっ…
46.ありがとう
「おかえり瑠璃くん、早かったね」「ん、ただいま。紅茶冷めちゃったか?」「ちょっとね、でも許容範囲だよ」 どうぞ、といっては瑠璃に紅茶を差し出した。一口、口に含む。若干の冷たさが、先ほどまでの熱い気持ちがだんだんと平温にさせた。「ありがとう」…
47.miss you
(とはいっても……) 探すあてなどないのが本当のところだ。アレックスとゆかりのある場所で、が思いつく場所などあの宝石店しかない。アレックスがどこに住んでいたのか、当時どんな人と交流があったのかなんて知らなかった。けれど一つでもあてがあるなら…
48. in the night
何度も忠告したのに、良心からか、はたまた意地なのか、とにかく彼女は頑なに珠魅と関わった。彼女が珠魅とかかわれば不幸になるのは目に見えていたのに、しかし俺は全力で彼女を遠ざけようとはしなかった。 いっそ宝石箱に閉じ込めてしまおうか、と思った…
49. change the world
いよいよ運命の日がやってきた。アレクサンドルとは今、煌めきの都市を遠く見つめていた。美しい宝石たちが幾重にも重なり合い都市を造り上げている様子がとても美しく、遠目からでも感嘆のため息をついてしまう。隣のアレクサンドルは緊張で押しつぶされて…
50.after that
ずっと彼の背中を見て、追いかけていた。今眺めるのはその横顔。前でも後でもない、彼の隣が今の自分の立つ場所。こんなに近くにいることが許されるなんて、少し昔の自分は想像もしなかった。ただこれからも一緒に、同じ職場の人間としてでいいから、一緒に…
