zld_彫刻師と王子

彫刻師と王子19 落花流水

 笑ってくれたら嬉しくて、泣いていたら悲しくて。困っていたら助けたくて、傷つけられていたら守りたくて。 勿論、王子として民の皆に思うことだが、一個人のシドとして、どんな姿も一番最初に見せて欲しいと強く思ったのはいつだったか。 姉の像の前で雨…

彫刻師と王子18

 そして英傑祭は無事に終わりを迎えた。夜も更けたゾーラの里からは賑わいが消えて、セラの滝はとシドの二人だけの静謐な空間となった。 里を通り抜けて行く風の音も、絶え間なく降り注ぐ水の音も、時折聞こえる野生動物の鳴き声も、普段通りの静けさを取り…

彫刻師と王子17

 天候は快晴。澄んだ青空には雲ひとつなくて、大きく空気を吸い込めば、冷涼で澄んだ空気が肺いっぱいに広がった。耳を澄ませば水の音に混じって里の方から賑やかな声が聞こえてくる。きっと里ではたくさんのひとが行き交って、笑い声や話声が飛び交っている…

彫刻師と王子16

 明日に控えた英傑祭に向けて、里全体がいつもよりも賑わいを見せているように思えた。英傑祭は鎮魂祭であり、亡き英傑ミファーを偲ぶものだ。だから賑わうというのは表現が正しくないのかもしれないが、それでも中央広場はいつもより往来が多い上に普段は滅…

彫刻師と王子15

 それからの日々は時間が許す限りとにかく夜光石の加工に没頭した。今回の案件は試験的な試みではあるものの王子が自らが説得して回ったと言うこともあり優先度も高く、ロスーリからの許しもあるので、仕事中も夜光石を削り続けて、腱鞘炎になったりもした。…

彫刻師と王子14

 そしてついに休みの日がやってきた。里を照らす太陽に見守られながらはスケッチブックを抱えてセラの滝へと続く橋を歩いていた。 橋の中程に差し掛かった時、里を囲う山々を通り抜けてきた強い風が一陣吹き抜けて、髪の毛が踊るように舞い上がった。 ゾー…

彫刻師と王子13

 シドが王子だと知ってから二人の距離に変動があったかと聞かれればそれは否だった。最初は戸惑ったが、時間が経てば二人は殆ど元通りだった。変わったとすれば、シドという呼び名がシド王子に変わったという点のみだ。本当だったら王族に対して敬意を示した…

彫刻師と王子12

「シド……王子って、この里の王子様ってことです……よね?」 くらくらする頭で何とか絞り出した問い。聞き間違いでなければ、トオンはシド“王子”と言っていた。ひと違いか? いいや、助けてくれたのは確かにシドだった。しかしシドは自分のことを王子と…

彫刻師と王子11

※途中に、モブゾーラ族に当たりの強いことを言われる苦しい展開がございますので、ご注意願います。 きっと槍がいいと思っていたから、シドから槍はどうだろうかと言われた時は、宝箱屋でアタリを引いた時のような、心臓が弾んでそれに釣られて身体が地面か…

彫刻師と王子10

 シドが帰った後は彫刻の続きに勤しんだ。誰かに渡すとなったら、自然と気合が入るというものだ。丁寧に形を削り、少しずつ手直しを重ねていく。そうして彫り終えて最後に全体を磨き上げればようやく納得のいくものが出来上がった。 ハート型に削られた夜光…

彫刻師と王子9

 翌日、幸いなことに風邪を引くことはなかったが足は一日二日で治るものではない。当然のようにまだまだ足は痛くて、歩くのもやっとだ。残念ながら毎朝の日課である英傑ミファー像の掃除は断念せざるを得なかった。仕事として言いつけられていることではなく…

彫刻師と王子8

 背中越しに伝わってくる揺れはとても心地よい。シドの身体は冷たいけれど、それでも触れ合っていればそこで微かな熱が生まれた。加えてシドの背中は広くて、安心感があった。今日一日を通して心身ともに疲れ切っていたは、その安らぎにウトウトと微睡み、居…