短編

検証:惚れ薬について

 梢が風に揺れて木々が騒めく。地面に落ちた木陰も一緒になって揺れている。半袖から伸びた腕には、木陰が模様みたいに影を落としていて、それをぼうっと見ていると段々と瞼が重くなってきた。 夏の日の木陰は涼しくて、風が吹き抜ければ汗が冷えてより涼し…

 夢を見た。詳しい内容は忘れてしまったが、夢の中で三日月はを置いて先に死んでしまうのだ。三日月は強いけれど、彼の命は大切な誰かのためならば、ふっと息を吹き掛ければ綿毛のように簡単に飛んでいってしまう軽さもある。それが三日月らしいと言えば三日…

独占権の行使

 食堂は一日の仕事を終えた沢山の団員たちで賑わっている。もそのうちの一人で、アトラの作った美味しい夕食を味わいながら食べていた。ユージンとシノが先に食べていたので二人に合流して食べていたのだが、彼らは食べ終わると仕事の続きをするということで…

その味を教えてよ

 タブレットを睨みながら、うーんと唸る。顔を上げればバルバトスが精悍な顔つきで鎮座している。手すりに背を預けてもう一度タブレットを見る。さて、どこからどうやって整備していこうか。プログラミングはどうするのがいいのか。頭の中で様々なことを考え…

Prologue

 三日月・オーガスという男は、にとってはこの宇宙で何よりも特別な存在だ。不思議な魅力を持っていて、はその魅力に絡め取られて離れられない。もがけばもがくほど、どんどんと絡まっていくのだ。だからもうはもがくことをやめて、ただひたすらに惹かれ続け…

04

 夜が更けてからはふらっと宿から外へ出た。さて、黒薔薇はやってくるのだろうか。ひんやりとした夜の空気が好きだ。頬を撫でる少し冷たい風は、昼間に考えた色々なことをすべて、いい意味でどうでもよくしてくれる。 はすでに寝ていて、あとは黒薔薇がやっ…

雨と制服とチャイナ服と

 急に雲行きが怪しくなったと思ったら土砂降りの雨。なんてこった、ついてない。そういえば朝、かすみが夕方ごろに一雨来るって言っていたような、言っていないような。結局今、傘を持っていないのがすべてだ。は男に、乱馬は女になってしまった。 雨に降ら…

大人になるのはとても大変

『ただいま』『おかえりなさい、あなた』 重ねるだけのキスから、舌と舌の絡み合う熱烈なものへと様変わりした。テレビの中で繰り広げられるその光景に、軽い気持ちでテレビを見始めた二人は気まずくなる。いつも賑やかな天道家なのに、今は乱馬との二人だけ…

ナナバさんに欲情する

 ここのところ激務で全くナナバさんと会えない日々が続いていた。厳密に言えば仕事中に会うことはもちろんあるが、あくまでも同僚として。幹部として調査兵団を支えるナナバさんは仕事が終わるのも深夜近くになることも多く、一緒に夕飯をとったり、お互いの…

(夢で終わらないで)

「……いいんですね?」 目の前のクリフトが緊張を滲ませた顔でわたしを見ています。彼の手が震えながらわたしの頬にあてられ、ぎこちなくも優しく撫でて、わたしはそれだけで身体の芯がじんとする感じがしました。「嫌なら……いいんです、私はあなたに無理…

ココアみたいにあたたかい

 冬の寒い日が続く中、とクリフトはアリーナの命を受けて、サントハイム城の外で魔物たちの調査をしていた。最近、城の周りの魔物が強くなってきていると報告を受けたからだ。 サントハイム城の兵士たちは強者揃いではあるが、そうはいっても実際に世界を旅…

マジで出撃20分前

 不思議な世界に紛れ込んでしまってもうどれくらい経っただろうか。時折、故郷の仲間のことが気になるが、それでも傍にいるクリフト、アリーナ、そしてこの世界でできた仲間たちといると、寂しさも紛れた。 そんなこんなで、は空艦バトシエ内のルイーダの酒…