ヒカルの碁

11.筒井と三谷

 橙色の緩やかな日差しが窓から差し込む放課後。待ちに待った部活の時間だ。クラスメイトは部活に行ったり帰路についたり、それぞれの道をゆく。も友達と挨拶を交わしたのち、理科室への道を歩いていく。このあと佐為と顔を合わせるのが、なんとなく気恥ずか…

10.魔法、解けなくて

 まだまだ日が暮れると寒さを感じる春の夜。もう桜は殆ど散ってしまったが、地面に落ちた桜の花びらを見るたびに、佐為を、そして彼に初めて会った時のことを思い出す。桜だけでない、日常の些細な出来事の中で、佐為のことが思い浮かぶ。例えばきれいな空を…

09.時の狭間

 最近は日も伸びてきたが、家につく頃には日が暮れ、薄暗く夜へと移り変わり始めていた。突然の日曜日の三谷とのお出かけだったが、あっという間にお別れの時間だ。玄関の前までやってきて、は三谷から牛乳を受け取った。「今日はありがとう、祐輝」「別に。…

08.三谷と日曜日 後編

 三谷からもらった詰碁集をカバンにしまうと、二人は本屋を出た。再び三谷は目的地を告げずにすたすたと歩き始める。 例によっては三谷に当然の疑問を投げかける。「次はどこ行くの?」「ついてくれば分かるさ」「今日はミステリーツアーなんだね」「そうい…

07.三谷と日曜日 前編

 部屋着から着替えたところで呼び鈴が鳴る。三谷がきたのだろう。女子には準備というものがあるというのに、幼馴染はそんなこと露知らず、電話を切ってすぐに向かってきたらしい。近所と言うのも考え物だ。は慌てて階段を降りると「祐ちゃん、お久しぶりね!…

06.また学校で

 映画を見終わったのは昼時を少し回ったところだった。三人はご飯を食べよう、ということになり、ヒカルはラーメン屋を提案した。てっきりファミレスかなんかを想像していたので、は一瞬面食らったが、頷いて彼の後をついていく。そのラーメン屋はよくヒカル…

05.三人の土曜日

『もしもし、えっと進藤ですけど――』「ヒカルっまってたよ!」 ずっと電話機の近くでそわそわしていたのだが、夕ご飯を食べ終わって少し経ったくらいに電話が鳴った。1コールですぐに受話器をとる。その声の主は思い描いた通りヒカルで、は逸る気持ちをそ…

04.結成!幽霊同盟

 現在、は、ヒカルや佐為の指導を受けながら、ヒカルと碁を打っている。まだいまいち囲碁がなんたるかを飲み込めていないにとっては、ちんぷんかんぷんとも思えるところもあるのだがなんとなくわかるようになってきていた。「なあ、」「うん?」「佐為ってさ…

03.平行線の行方

 彼女の姿を見たとき、心臓の辺りが熱くなって、忘れていた事が一瞬で蘇ってきた。目まぐるしく、まるで走馬灯のように浮かんでは通り過ぎていくたくさんのこと。 時の流れと共に、思い出の中だけの人となり、やがてその思い出も色あせていき、輪郭もわから…

02.刹那ロマンス

 理科室へ連れて行くと、三谷を見るなりは「あ」と声を漏らした。は「祐輝とは同じクラスなの」と説明した。ヒカルはの、三谷を下の名前で呼び捨てにしていることに引っかかりつつも、三谷のほうもに気づくと、驚いたような表情をした。「。なにお前、囲碁に…

01.巡り会いのとき

 教室から出ると、廊下の窓から校庭が覗く。大きな桜の木には殆ど花弁は残っていなくて、少しだけ残っている花弁も、風に吹きすさんでいた。そんな様子を眺めながら、トイレへ向かって歩いていたその時だった。「ひぎゃあああああああ!!!!」 そいつは唐…